第24話
――一月二日――
「おはよう虎太郎」
目を覚ました虎太郎は自分が今どこにいるのかわからないという様子で部屋の中をキョロキョロ見回していた。
「母さん……あれ? 兄ちゃんは?」
「朝練って言ってたでしょ? 朝出ていくの気づかなかったの?」
「……そっか。気づかなかった」
お正月休みを利用して虎太郎たちは伊吹に会いに来ていた。父親と母親は近くのビジネスホテルに、虎太郎は伊吹のアパートに泊まっていたのだ。
「わっ。もう十時じゃん!」
「そうよ。どうせお兄ちゃんと遅くまで起きてたんでしょ? 大丈夫かしらね、伊吹」
「……父さんは?」
「ホテルで待ってるわよ。せっかく来たんだから観光しましょうよ。あんたも早く準備しなさい」
「わかった。兄ちゃんは?」
「夜ご飯は一緒に食べれるわよ。そうそう、どこかお店も探さなきゃだわね」
「うん」
母親がそう言いながら伊吹の部屋の片付けをしているうちに虎太郎は歯磨きを済ませ着替えていた。
「カンパーイ」
夜伊吹と合流して集まったのは若葉高校のある駅の近くの居酒屋だった。父親と母親はビールで、伊吹と虎太郎はジュースで乾杯していた。
「で? 今日はどこか行って来たのか?」
伊吹が虎太郎に聞いた。
「うん。父さんがレンタカー借りてね、いっぱい見てきたよ」
「ああ、この辺の観光地はほとんどまわったかな」
父親が得意気な顔をしながらビールを美味しそうに喉の奥へと流し込んでいた。
「そっか。よかったな虎太郎」
「うん! お土産も買ったよ」
「そういえば俺、観光なんてほとんどしてないや」
「あんたは毎日毎日バスケバスケだものね」
「別に、どうしても行きたい所があるわけじゃないし」
「あんたは本当にバスケしか頭にないのね。ちょっとお母さん心配になってきたわよ」
「ん?」
「何かほら、他に興味あることないの? 彼女は? そうよ、彼女でも作りなさいよ」
「母さん、それ母さんが言う?」
「だって……」
「彼女はまだいいよ。それより虎太郎は何かあるのか? バスケの他に興味あること」
「えっ、僕? うーん。別にない」
「虎太郎は伊吹の真似しかしないからな。それも困ったもんだ。ははっ」
「どうして困ったの父さん」
「虎太郎もお兄ちゃんの真似ばっかりじゃなくて、もっと好きなことやってもいいのよ?」
「嫌だよ! 僕は兄ちゃんと一緒がいい!」
「ハハ、今はそれでもいいんじゃないか?」
「ちょっと伊吹。あんたがそう言っちゃったら虎太郎はいつまでたってもあんたの真似しかしなくなるじゃないの」
「そんなことないさ。そのうち中学生、高校生になれば俺の真似なんてしなくなるよ。今だけだって」
「そうなるといいんだがな」
「もう、なんだか二人とも心配になってきたわよお母さんは」
食事を済ませると伊吹と虎太郎は父親と母親を居酒屋に残して先にアパートに帰ってきていた。伊吹は明日も朝から練習があるし両親がだらだらと飲むのに付き合っていられなかったからだ。
「兄ちゃん」
「ん?」
二人で風呂に入ったあと狭いベッドに横になり電気を消したあとだった。
「明日帰りたくないよ。僕ずっとここに居たい」
「そんなこと言って、またやっぱり家に帰りたいって泣き出すんじゃないのか? ははっ」
「泣かないよ! 今はぜんぜん寂しくないもん」
「それは今は父さんも母さんもすぐ近くにいるからだろ? 二人が帰ったらずっと会えなくなるんだぞ?」
「そっか……」
「母さんの言うとおり、虎太郎はもう少し俺離れした方がいいのかもな」
「え?」
「いや、俺がもう少し虎太郎離れした方がいいのか……」
「ねえどういうこと?」
「何でもないよ。明日気をつけて帰れよ。見送りも行けなくてごめんな」
「うん。練習だもんね。仕方ないよ」
「またメールするから」
「うん」
「中学生になったら一人で遊びにくればいいじゃん。あ、でも虎太郎が部活に入ったら無理か。でも虎太郎が中学生ってことは俺は三年生だから、もう部活も引退か。だったら俺が帰ってこれるな」
「……」
「虎太郎? なんだもう寝たのか。はは、今日は疲れたんだろうな。お休み虎太郎」
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