序幕 光が囁く、星への警鐘
北の大神殿、
そこは世界に十ある
巡礼団は聖都フェレティへ帰還する前、
『教団の掃除をする間、ツァディーはここで待っていて。君がその手を汚す必要は、ないからね』
ノエルはツァディーの頭を優しく撫でながらそう告げると、彼女を置いて教団本部へと帰還してしまった。
一人残されたツァディーは、彼らが戻って来るまで手持ち
「
入り口付近の階段で座り込んだツァディーのぼやき声が、広大な地下の空間に反響する。
明るさの
大樹の根が張る天井と壁を、
ツァディーは光の加減で七色に輝く美しいそれを目に映して、
(——ここに居ると、悲しい……気持ちになる)
そう思ってしまう原因は、わかっている。
ここに生成された
この空間を埋め尽くす規模となると、一体どれだけの人が犠牲になったのか——。
「単純に綺麗だなんて、思えないよ……」
ツァディーは胸に積もる悲しみを吐き出すかのように、溜息を付いた。
静かな空間。
『————』
ツァディーは「キーン」と、金属音のような高い音が聞こえて、片耳を
周りは
よくある耳鳴りの現象、しばらくすれば収まるだろうとツァディーは思った。
『————、——!』
だが、音は一向に鳴り止まず。
それどころか音が増えて重なり、
『————! ———』
そうしたところで耳鳴りが収まるはずはないのだが、無意識下で防衛本能が働いたのだ。
——耳の奥で、音が
まるで、誰かが耳元にいるような気配と、叫びにも似た音が段々〝声〟として認識されていく感覚があった。
『——【星】の——よ、聞——て、
そうして、ツァディーは脳裏に響く声を聞き、
やっぱり「誰か」が自分に
けれど
「……だれ……?」
『——ス——、光————。
言葉として聞き取れなかった大部分が、高い音として
断片的に未来を予知するものだ。
「未来を……、
『————!』
力強く高い音が鳴る。
「そうだ」と言われた気がした。
ツァディーは立ち上がり右手を胸の位置に
『……
左胸に
手のひらにマナが集まって、
球体はその中で
これまでも何度か未来を見たが、星が
確定した未来を示すものではないので、内容は
見方によっては異なる
——けれど、どうしてか
マナに満たされたこの場所のせいか、いつもより感覚が
未知なるものが開花する感覚——早まる鼓動と不安に、唇を
ツァディーが球体を
「え!?」
何も
驚きに目を丸くしていると、彼女の周囲に光が
「これ、は……」
新たな力は女神が【星】へ
〝
これから起こり得る〝未来〟を、切り取って
その一枚一枚をツァディーは瞳に焼き付けて、内容を
——全てを見終わった時、何故
「……だめ、こんなの……だめ、だよ……っ」
どの道筋へも
闇に飲まれて全ての輝きが消えてゆく、世界の
分岐の鍵は光。
どれか
——そして、ツァディーは気付いてしまった。
自分たちは無意識のうちに〝それ〟の支配下に置かれていたのだと。
指先が冷えて、全身の熱が引いていく。
今まで
「女神様……どうして……?」
(それなのに、なんで……っ)
ツァディーは肩を抱きしめ、込み上げた涙を
世界の真実を知った時もそう。
いつも後戻りが難しい場所に立たされて初めて、真実を知る。
何故、もっと早くに気付けなかったのだろう、と自責の念に襲われる。
『——まだ、間に合う。
これまで聞こえなかった声が、はっきりと聞こえた。
「でもどう、すれば……」
ツァディーは天を
耳鳴りは完全に収まり、気配も消えている。
ついでに
「
けれど——「行動しなきゃ」と、強い使命感が
どうすればいいのかはわからない。
けど、何をするにしても、行動する前に気付かれてはいけない。
——彼女に。
「……気を、付けなきゃ」
「何に気を付けるの?」
「ひゃあ!?」
意識していなかった背後から、鈴を鳴らしたような声が聞こえて、ツァディーは心臓が止まりそうになった。
振り返ると、
「なぁに? そんなに驚いて」
自分と同じくらい幼い容姿をしているのに、
少女は【悪魔】の
もう一つの名はディアナ。
ある国の言語で、光を反射して輝く〝月〟を意味する名前。
——彼女は……。
彼女こそが——。
「ステラ?」
本名を呼ばれたツァディーは心拍が早まり、からからと
(ディアナちゃんに、変だと思われたら、だめ)
ツァディーはそう思って普通に言葉を交わそうとしたが、上手く音が発声出来ず、
そうしていると、彼女の後ろから、マナと同じ銀色の髪を輝かせたノエルが姿を現わした。
他の使徒達の姿も見える。
「ツァディー、どうしたの?」
ノエルがアインの横を追い越して、ツァディーの前に立った。
「
ようやく
消え入りそうな音だった。
大きくて少しひんやりとした手がツァディーの頭に乗せられ、
「大丈夫?」
向けられたのは、
氷のように冷たくなることもあるけれど、本当はとても優しくて綺麗な色をした瞳である事を、ツァディーはよく知っていた。
ノエルの姿と瞳を見て、ツァディーに
(——まもら、なきゃ)
それは、使徒の本能とツァディーの想いが合わさったもの。
敬愛と尊敬、それから——愛情。
〝女神の代理人〟だからではなく、彼への真心が胸の中に——ある。
本能の
自分こそが真の導き手となり、
(主様……ノエル様を……守る)
——【
彼女は新たな未来を切り開くため、覚悟を決めた。
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