番外編 女神の降誕祭≪デア・アドラティオ≫
※ノエル&ディアナ生誕記念に書いたお話。
本編では見られなかった二人の関係が語られる……。
聖歴
この日は女神降誕の日とされており、アルカディア教団にとって特別な日だ。
毎年〝
けれども世間一般には、女神が愛情深い神であったためか、いつの間にか〝愛〟を
そうして各地で独自の発展を
——アルカディア神聖国・聖都フェレティ、オーラム神殿。
世界の中心、世界樹の
午前・午後の二部構成となっており、
今年の春頃、まだ肌寒い時期に
この日は、ノエルが生まれた日でもある。
女神が降誕したと語られる日に、女神の代理人である
(……だけど、僕にとっては楽しくもない、苦痛な
何故ならば、
生誕祝いと
(奴らにかかれば、どんな事情も
……
ノエルはそんな
そして、屋根のないそこから空を見上げれば、
吐いた息が白く凍り付いて行く——。
——そうして、何をする訳でもなく、ぼんやりと景色を
「ダメですよ~、ノエル様」
鈴を鳴らしたような高く
どこからともなく黒い霧が集まり、視線を向けると、それが作り出した
いつもは左右の高い位置でおだんごにまとめられた髪は下ろされ、
彼女は腰に手を当てると、
「こんなところでサボるなんて、いけない人。〝豚さん〟がぷんぷんでぶーぶー騒いでますよ?」
彼女の言う〝豚さん〟とは、ジョセフ
欲を
容姿はともかく、主席
特に悪どい事に関しては、奴の右に出る者はいない。
「
「それはそうですけど。
姉さんの歌は……まあ気になる。
それ以外はどうでもいい。
奴からすれば、教皇の生誕を
鼻で笑ってしまう。
「奴が勝手に騒ぎ立てているだけだ。付き合う義理はない」
「もう。そんな事言ってると、また
「いつもの事さ。今夜は特に気合いが入っているだろうね」
「女神様の子孫も大変ですね」
ディアナは心配する素振りを見せながらも、口角を上げてくすくすと、心底楽しそうに笑っていた。
彼女は
他人の不幸に
(僕も
幼さの残る容姿からわかるように、彼女は僕より二つも若いのに——と、そこまで考えて、一つ見落としていた事実に気付く。
「……そう言えば、今日は君の誕生日でもあったね」
「あ、覚えててくれたんですか? てっきり忘れられているものかと」
大きく見開かれた、
忘れるわけがない。
彼女との付き合いは長く、性格は……まあ問題があるが、アイゼンの次くらいには心を許してもいいかなと思える相手だ。
「何か欲しいものがあれば、出来る範囲で叶えてあげるよ」
使い勝手の良い能力を
事前に何かしら用意出来れば良かったが、
「んー、そうですねぇ……」
ディアナが口元に手を添えて、天を
そうして
その表情は、珍しく何の感情も
(……いや、違う)
一見するとわかりにくいが、無の中に
だが、気付いたところで、それがどこから来る感情かまでは
少し離れた位置に居たディアナが、歩いて僕との距離を詰め、見つめ合う形になる。
そうして、彼女の
「私を愛して、ノエル様」
——
一瞬、情欲から出た言葉かと思い身構えたが、打算や
「ディアナ……?」
その内に唇を
直前の彼女の姿もあって「どう理解したものか」と、
「ふふ、ごちそうさまです♪」
鈴を転がしたような高い音が響いた。
ディアナが赤い舌を
先ほどまでの姿が嘘のようだ。
けれど、流石に見て見ぬ振りは出来ず、「ディアナ」と名を呼んで、行動の真意を問おうとするが——。
「プレゼントは今ので十分。さっきのは冗談ですよ」
問う前にあしらわれてしまった。
(……こうなっては、答えてくれないだろう)
彼女は自由
だからこそ出自は
……言い知れぬ
「ノエル様、お誕生日おめでとう」
ディアナが
自分の魅力を全面に押し出し、人を
「——ありがとう。君も、おめでとう」
だからノエルも、いつもの調子で返すしかなかった。
不意に見せた彼女の一面と、芽生えた感情は気付かなかったことにする。
(どの道、
ノエルにとって大切なのは、魔神の先兵によって
(目的を果たすためなら、何を犠牲する事も
例えそれが、僕自身の幸せだったとしてもだ)
——氷のように冷えて行く感情と同時に、肌に刺すような冷たさを感じて、ノエルは辺りを見渡した。
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