番外編 爆誕☆コゲマコ君~宇宙から飛来したキノコ胞子の恐怖~ ≪後編≫
「そもそも、だ。
謎の生命体……とでも言えばいいのかな。
オレと名乗っているし、多分男性?
……自信はないけど、そう思う事にした。
彼が皿から離れ、歩き出してこちらへ向かう姿が見える。
明らかに不機嫌な様子だ。
彼はテーブルの
「それをナンだ?
「ふえ!? ご、ごめんなさい!」
言ってる内容も正論な気がして、怒られてはとにかく謝るしかない。
頭を振り下げて全力で謝罪した。
髪の毛が流れ落ち、毛先が床へ着いてしまったが、そこまで気にして振る舞う余裕なんてない。
そうしていると——「チッ」と舌を打ち鳴らす音が聞こえた。
「……まぁいい。髪、汚れんだろ、
「は、はい」
髪の毛を気にしてくれるなんて、意外に優しい。
言われた通り顔を上げると、彼は腕を組んでいた。
……腕、さっきと別の場所から生えてる気がする。
構造どうなっているのかな。
「それより
「責任って言われても……」
何をどうして欲しいのだろう。
(料理として生み出したのだから、美味しく食べて……とか?
それかもっとマシな状態に
そもそも、シャノちゃん、シェリちゃん、リシアちゃんと一緒に料理をしてみてわかったけど、私は料理のセンスがない)
思考を
「ったくよぉ。まずはやるべき大事なことがあんだろ?
ほら、
「あ、愛……!?」
驚きのあまり飛び
高く乾いた音——
頭の中は
まさか謎の生命体に愛を求められるとは思わず。
いくら自分が生み出した存在とは言え、良く知りもしない初対面の相手。
生命体なのかすら怪しいし、色々と問題がありすぎる。
〝愛があれば何でも乗り越えられる〟——なんて名言もあるらしいけど、本当に?
……どう考えても、無理だ。
第一、好みのタイプじゃない。
「ごめんなさい、貴方を一人の男性として愛する事は……ちょっと、無理です」
再度、深く頭を下げて
今度は髪の毛が床へ流れ落ちてしまわないように、気を付けた。
「ちっげーよ!!
炭化したオムレツの低音域のはずの声が高められ、絞り出すような叫びが大音量で響き渡った。
〝愛〟とは
でも、そんなこと言われても、わかるわけがない。
盛大に勘違いした事に気付いて、頬へ熱が集まる。
こちらも
勢いよく顔を上げると、
「そういう事はちゃんと言って……!」
「お、おう。……確かに
今度は彼が
けれど、非を認めて謝罪を口に出来る辺り、やっぱり悪い人?ではないみたい。
「それで、オレ様に名前は……」
確かに、名前がないのは不便なので、〝誕生した我が子への愛〟はさておき、名付けぐらいはしてあげてもいいかなと思った。
……とは言え、名前を考えるのも中々に難しい。
〝名は
ここは
(一目見て、目の前の彼が何であるのか
言い知れぬ使命感のようなものが湧き上がった。
もしかしたらこれが〝誕生した我が子への愛〟の気持ちなのかもしれない。
一歩、彼の
それから
(
頭に刺さった白い物は……やっぱり卵の
こんな形に割った覚えがある)
オムレツを作ろうと
(炭化したオムレツ。
男性……。
焦げた、卵の……
ダメだ、
もっとこう、
(……焦げまこ……)
瞬間、電撃が走ったように
「これしかない!」と。
彼の特徴をバッチリ押さえているし、何より呼びやすく親しみやすい。
イリアは大きく
そうして、不安と期待の混じった視線を向ける彼へ向かって、堂々とその名を告げる。
「——コゲマコ君。貴方の名前は、コゲマコ君!」
〝焦げた卵〟の略だ。
会心の出来だと思う。
きっと喜んでくれるはずだと、信じて疑わなかった。
その名を聞いて、彼は——。
「……
深い……深ーい、ため息を吐き出していた。
何故だか、
(それにさりげなく馬鹿にされたような……)
納得がいかない様子だったので、気に入らないなら別の名前を考えようと思った。
「——はァ。まあいいか……
だが、そんな思いに反して彼はやれやれと言った風に肩?体?を
「ってことで、いまからオレ様は〝コゲマコ君〟だ!」
それから得意げに笑って、名乗ってみせた。
どうやら気に入ってくれたみたい。
ほんの少しだけ「安直すぎたかな?」と後悔したけど、彼が良いと言うのなら大丈夫なんだろう。
——
急激に
「コゲマコ君、とりあえず、話はまた明日でもいい?」
部屋へ戻って、寝て起きて、それから改めて話をしようと思った。
「おっと、時間切れか」
彼が意味深に
「言いたい事は山ほどあるんだが〝神〟も気まぐれだからなァ。
彼の言う〝神の気まぐれ〟と言うのが何なのか気になったけど、視界がぼやけて意識が遠のいて行く——。
「うん……おやすみ、コゲマコ君」
「おやすみ、
——次に目が覚めて、
ちょっと前にも同じ体験をした。
飛び起きて周りを見渡すと、良く見知った公爵家の客室で、ベッドの上にいた。
部屋に薄暗さはなく、大きな窓から朝焼けの光が差し込んでいる。
(さっきまで
そのまま多分、寝てしまって、どうやって部屋へ戻って来たのかと首を
彼があの体の大きさでここまで運べる訳がない。
「……夢?」
そう考えるのが自然だった。
あの不思議な体験——ほわほわのことも、コゲマコ君との
「なんだか、変な夢だったな……
普通に考えれば、焦げた卵が
色々な事があったせいで記憶が混乱して、あんな夢を見たんだろう。
(それにしても、コゲマコ君のインパクトは
あの口調と
その日の朝食の席で、
多分、続く。
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