第七話 真実への扉
パール神殿を目指し、イシュケの森の
「それじゃ、ここは私とシェリルが魔獣を——」
「
シャノンが言い終わるよりも早く、イリアが動いた。
『天より
イリアの歌を
(イリアの援護がある。魔獣を心配する必要はない)
黒に染まったマナが、イリアの
「第一限定解除! コード『
『コード確認。第一限定、
ルーカスが解除コードを口にすれば、魔術回路の刻まれた
その輝きがゆらめき、手から刀の
『輝きし〝
歌声が響き、
ルーカスは木々の合間を
——
刀を手にしたまま、周辺を見渡す。
(あれがパール神殿か)
目に見える範囲の魔獣は、イリアの魔術により排除されており、脅威がないと判断してルーカスは刀を納めた。
「各班へ
背後から落ち着きのある低い声が聞こえて振り返れば、耳元に輝く
ルーカスは
——そうして、橋の先、
湖中にあっても風化せず
空気中に無数の黒い雪が舞っている。
「……静かすぎる。神殿には教団の司祭たちがいるはずなのに」
それはルーカスも感じていた。
すぐ近くに
だが、だとしても神殿の維持には少なくない人が従事しているはずで、一切の音と動きを感じ取れないのは異様だった。
「探知魔術で中の様子がわかるか?」
「いえ、ダメですね」
アイシャが首を横に振った。
恐らくは機密保持のための
国の重要施設などでは
「ともかく中へ入ってみよう」
ルーカスは固く閉ざされた、白く冷たい扉に両の手を置いて、押した。
二の腕の筋肉に更なる力を
と、重い石が引きずるような音を立て、神殿の扉が開かれて行った。
完全に開け放たれると、白い壁に高い天井、白く太い丸柱が間隔よく立ち並ぶ
左右に扉や通路があり、正面奥には入口と似た
そして、大理石が使われた床には、純白の祭服を身にまとった、教団の司祭と思われる人々が——正常ではない姿で存在していた。
「これは……」
息を飲む。
そこに広がっていたのは、動きを止めた何十人もの人が床に横たわり、あるいは壁にもたれ、生命の輝きの感じられない光景だった。
イリアとリシア、それにアーネストが倒れる司祭たちへと駆け寄っていく。
「……
声を発したハーシェルの方へ目を向ければ、苦虫を
少し後ろに立つ双子の妹たちは、痛ましい表情で隣あった手を繋いで握りしめている。
ルーカスは先に駆け出した三人を追って、神殿内へ足を踏み入れると、入口近くで倒れる司祭の前に立ち尽くす、イリアの
表情を
「——事切れていますね」
「外傷は見当たりません、一体何が……?」
司祭の様子を見て
二人の言うように、倒れる司祭の着衣は綺麗で、
だが、これほど多くの命が理由なく失われるはずもなく——。
(……何が起きているんだ)
死の
「……マナ欠乏症……」
すると、イリアが消え入りそうな声でその言葉を口にして、次の瞬間。
「——う、あ……あぁっ!」
叫び声を上げて目を見開き、頭を
「どうして……どうして……っ!!」
わなわなと震え、絞り出すように悲痛な高音を
そうして左手は背に回し、空いた右の手で、落ち着かせるように頭を
——彼女が取り乱した理由は恐らく、記憶絡みだろう。
「ルーカス、わたし……!」
腕の中のイリアが、こちらを見上げた。
「なんで、こんなっ……忘れて——!」
髪色と同じ銀の眉根を下げて、
「何を……思いだしたんだ?」
問いかければ、イリアの顔が
「……ぜんぶ、全部、だよ」
ほんの少しの間を置いて、少し落ち着きを取り戻した声の告げた言葉が意味するのは、
——今この瞬間、彼女の記憶を縛る
「行かないと」
「
「……ついて来て」
銀糸を
ルーカスはロベルトへ顔を向けた。
「すまないが
「わかりました。こちらは任せて下さい」
アイシャ、ハーシェル、アーネストへと視線を送ると、ロベルト同様にうなずく姿があった。
「私たちも行くわ!」
「イリアお
「わ、私も!」
シャノン、シェリル、リシアは同行の意思を示し、先を行って奥の扉前に立つイリアを見れば、彼女は静かに首を縦に振った。
イリアが扉に手を触れると、扉は一人でに開き——彼女は中へと進んで行く。
ルーカス達はイリアを追って走り、そのまま開かれた扉の中へと足を踏み入れた。
部屋は円状の
「ここは?」
「祈りの間よ」
ルーカスが問えば、先に入室して祭壇の
「
「さすがリシア。
「イリアお
「——この下よ」
イリアが
すると部屋の中心が光り、魔法陣が出現して——。
魔法陣が消えると同時に下へと続く通路、階段が現れた。
「地下……?」
ルーカスは驚きを隠せず
双子の姉妹とリシアも目を見張っている。
近付いて
しかし、イリアが現れた階段へと進み、そこに足を乗せた瞬間。
段上から光が
イリアは迷いなく階段を
ルーカス達もその後に続き、成人男性二人分ほどの
——
イリアが終着点に足を踏み入れると、階段の時と同じく光が
そこは、祈りの間よりは狭いが、似たような円状の
奥の壁には、壁画が描かれ、魔法陣の浮かぶ扉がある。
「神殿内部にこんなところがあったなんて……驚きよ。あの扉は何?」
シャノンの問いに、歩みを止めず進んで——扉へと至ったイリアが答える。
「この扉は資格のある者しか開く事が出来ないの」
「資格……?
イリアは扉を見つめ、押し黙る。
沈黙の中、こだまする足音を聞きながら、ルーカス達も扉の近くへと歩み寄った。
短い沈黙を経て、イリアがおもむろに扉へと手を伸ばした。
その白い手が魔法陣に触れると——魔法陣が一瞬、
そうしてイリアは告げる。
「——女神の血族。教団の真なる守り人、その血を引く者だけが、扉を開く事が出来るのよ」
彼女の記憶に隠された、真実の一つを——。
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