第三十七話 燻ぶる恋情
消え入りそうなイリアの姿に、ルーカスの手が自然と伸びた。
彼女の頭へ手をのせて、妹たちを
(……大丈夫、イリアはここにいる)
その感触を触れた手で確かめながら、落ち込んだ様子の彼女に声を掛ける。
「頑張った分、羽を伸ばすと思ってのんびりすればいい。やるべき事も、思い出したら力になるから。な?」
言葉を
「ん、ありがと。ルーカスは優しいね」
「助けられた分、恩を返してるだけだよ」
「律儀だね。名を
——けど、心強かったな」
「ふふ」と笑ったイリアは頭に乗せたルーカスの手を抜けて。
一歩、二歩、と前へ出た。
ルーカスは
もう何歩か歩いたところでイリアがピタリと止まった。
月光に輝く長い銀の髪と、その下、腰の辺りで両の指を絡ませた背中を見せている。
「……ねえ、あの時はどうして私を抱きしめたの?」
「あの時って……」
イリアは振り向かず、立ち止った場所で頭がわずかに上へ動いて、空を向くのがわかった。
「お酒を
すぼんで行く声と共に、イリアの体が反転した。
頬を赤らめて唇をきゅっと締め、恥じらった様子を見せる。
ドキリ、と胸が高鳴る。
あの時の事は本当に覚えていない。
けれど、自分が取った行動に隠された想いは——
イリアは、どんな答えを期待しているのだろうか。
(この気持ちを、伝えてもいいのか……?)
ルーカスは
あれから六年。
カレンを失って、傷を
共に
でも、傷つくのが怖くて無意識のうちに——否、自覚があっても気持ちへ
記憶を無くした彼女と再会して、過ごす時間の中で
けれどまた失ったら——と、考えると
だがあの日。
王都に
イリアが一人で
(——欲が出る)
ただ、イリアを守れればいいと、そう思っていたはずなのに。
彼女が同じ気持ちなら——と、願わずにはいられない。
何を告げるべきか迷う。
それでも、ルーカスは何か言わなければ、と、口を開いた。
「イリア。俺は——」
しかし、それは無情にも響いた「ゴゴゴ」と言う重低音の地鳴りと、その後にやって来た地面の揺れによって
「揺れてる……?」
「またか!?」
二日前の大地震のような、上下に激しく揺れるものではなかったが、左右に大きく揺さぶられる感覚がルーカスを襲った。
「きゃ!」
「危ない!」
イリアが足をもつれさせ、よろめいた。
ルーカスは踏み込んで、イリアの元へ一足で駆けると、倒れそうになる彼女を抱き止めて地に腰を落とした。
揺れを感じながら、ルーカスは
——ほどなくして、揺れは収まって行き、何事もなかったかのように辺りは静まる。
(……嫌な感じだ)
地震が収まったのを確認し、ルーカスは腕の中に抱きこんだイリアの無事を確かめるため、「大丈夫か?」と、声を掛けた。
腕を
揺れに気を取られ、意識していなかったが——近い。
彼女の息
「——……大丈夫じゃ、ない」
顔を
「まさか、足でも
よろめいた時を思い出して、ルーカスは慌てた。
状態を確認しようと体を引き離し、顔を
しかし——。
「だ、見ちゃダメ!」
とイリアから大きな声が
だが、時すでに遅く。
ルーカスはイリアを直視してしまった。
その顔は赤く、真っ赤に
先ほどの問い掛けと言い、こちらを意識した態度を取るイリアに、ルーカスも頬へ熱が集まるのを感じた。
「見ないでって言ったのに……っ!」
イリアは両手で顔面を
ルーカスはその姿を
(まいったな、あんな顔されたら……)
歯止めが効かなくなりそうな想いにため息をつき、くしゃり、と前髪を
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