第十九話 迫る魔の手
閉鎖的な中心部の城・行政区と違い開放的で、外からの人も多く訪れる流通の場でもある。
昼下がり、所狭しと露店が立ち並ぶ
客を呼び込む店員や、行商人、旅人——それから、近所の子だろうか? 遊ぶ子供の姿も見られ、活気のある街をイリアはシャノン、シェリル、リシアと歩いていた。
「わあ……凄く
イリアは自然と言葉をこぼしていた。
「ここは王都でも
「それに
シェリルとリシアの説明を交えた解説に「なるほど」と
五年に一度
アルカディア教団は〝創造の女神〟を主神に、世界樹の守護と世界の秩序を守る事を教義・使命としている宗教だ。
世界樹の守り人によって築かれたと言われるアルカディア神聖国——世界樹を
——と、本で見た知識を思い返し、イリアは人があふれる
言われてみれば街は
あちこちに教団の
また神聖国で国花となっている〝
「あ! 見て見て、メルクーア原産の鉱石の装飾品だって!」
街路を歩いているとシャノンが声を
すぐそばの露店の一つに、装飾品が並べられている。
「すごく綺麗ですね。いいなぁ……」
「これピンクダイアモンドじゃない。こんな希少な物まで?」
「本物みたいですね。宝飾店でも滅多にお目に掛かれないのに……」
「ほっほ。お嬢さんお一つどうかね?
リシア、シャノン、シェリルは装飾品の露店へ釘付けになっていた。
店主の
色鮮やかな光輝くアクセサリーにときめいてしまうのは、女の子なら一度は経験する事だろう。
抗えない魅力がそこにある。
イリアも釣られて、アクセサリーに目を奪われるが——。
「おや、南から来たのかい?」
「そうなんですよ。探し物が中々見つからなくって」
不意に聞こえた会話、鈴の様な少女の高い声が耳につき振り向いた。
見れば果実店の前で、南の方から探し物のため来たと語る、黒いフードとローブに身を包んだ小柄な少女と、店主だろう年配女性の話す姿が見えた。
「南というとアディシェス帝国ではないだろうし……ああ、ホド連邦共和国の
「ふふふ。ご心配ありがとうございます」
そう笑って話す少女の顔がイリアの方へと向いて——目が合った。
その瞳はシャノン、シェリルの髪色の様な鮮やかな桃色で、大きな瞳だ。
「でも、大丈夫です」
少女が店員から離れ、一歩、また一歩こちらへと歩みを進める。
視線は真っ直ぐこちらを
(何……? どうして……こっちを見ているの?)
胸の鼓動が大きく脈打ち、嫌な汗が頬を伝った。
自分の中の何かが、
すぐにあの瞳から逃れなければ——と、焦燥感を覚え、後ずさる。
「イリアさん? どうしたんですか?」
アクセサリーを眺めていたリシアがこちらの異変に気付いて、シャノン、シェリルも手に持っていたアクセサリーを置いている。
「なに? どうしたの?」
「あの方は……」
イリアが見つめる視線の先を追って、黒いフードとローブに身を包んだ少女がこちらへとゆっくり歩み寄って来ているのを双子の姉妹が確認したようだった。
周囲は
そしてこちらまであと数歩……と言うところで少女は足を止めた。
少女の
「みぃーつけた」
にやりと
「逃げて!」
イリアは思わず叫んでいた。
どうしてそう思ったのかは自分でもわからない。
突然の叫びに、三人はわけがわからないと言った様子で、立ち尽くしていた。
そんな彼女たちをあざ笑うかのように少女が
「ざーんねん。もう手遅れよ」
少女が胸の位置で左手の親指と中指を、弾くように擦り合わせると「パチン」と音が鳴った。
その瞬間、ぐらりとめまいに襲われる。
視界が歪み、頭の中が搔き回されるような不快感に眉根を寄せた。
とても立っている事が出来なかった。
体から力が抜け、崩れ落ちて膝を付く——。
どさりと何かが落ちるような、
歪む視界の中、ふらつく頭を押さえ見渡せば、周囲の人々が倒れているのが見えた。
隣に立っていたシャノンとシェリルは——
ローブの下から白い手が差し出される。
「お迎えに来ましたよ。さ、帰りましょう?」
——あの手を取ってはいけない。
逃げろ!
逃げろ!!
逃げろ!!!
と、本能が叫んでいる。
しかし心とは裏腹に、体が動かない。
頭も重く、気を抜けば意識が持って行かれそうになる。
そうしている間にも少女の白い手が伸び、近付いて来ていた。
抗えない状況に、イリアは
(誰か……ルーカスさん……!)
紅い瞳に黒髪を束ねた彼の姿が、脳裏に浮かんだ。
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