第二話 魔獣の脅威
暗闇の海に一筋の光が差した。
(——ひか、り……? 熱い……痛い……ここ、は……)
柔らかな光に眩しさを感じ意識を浮上させる。
すると——激しい痛み、焼け付く熱さが腹部にあった。
ゆっくりと
そうして視界がクリアになると焦点が合って、目の前には心配そうにこちらを
「あ、お姉さん! 良かった……気がついたんですね!」
見覚えのない少女だった。
赤と金の装飾が
そして感じていた柔らかな光の正体は、木々の合間から
「あな、たは……」
「あ、はい! 私はリシア、エターク王国騎士団所属の
(——エターク、王国)
わからない。頭が、痛い。
意識が
思い出そうと考えると、鈍い痛みが頭の奥に走る。
腹部にも痛みを感じた。
視線を落とせば裂けた青い布地に
何故、自分はここにいるのか。
何故、怪我を負っているのか。
何か、やるべき事があったはずなのに、それなのに何故——どうして?
疑問が次々と浮かび上がる。
けれども、考えよう思い出そうとする度に、頭痛と
(なにも、思い出せない)
名前も歳も、それすらも思い出せず、無意識に拳を握り締めた。
「——さん、お姉さん! 傷は塞がったはずだけど、まだ痛みますか? 大丈夫ですか?!」
リシアのあわあわと慌てる声に、ハッとして思考を中断し顔を上げた。
頭の痛みにきっと
心配をさせてしまった様で、申し訳なさがこみ上げる。
「だい、じょうぶ、ありがとう……」
「ああ、良かった……!」
口が乾いて呂律が上手く回らなかったが、何とかそう伝えると、リシアはまるで辺りに花が咲いたように
釣られてこちらまで笑みがあふれてしまいそうになる、そんな笑顔だ。
——だが、
近くから「グオオオオオォォ!!」とけたたましい雄叫びが聞こえた。
かと思うと大地が振動し、大きな衝撃音と
何事か確認しようと痛みに
(銀の糸……?)
否、髪である。
それが自分の物であると認識するのには数秒を
そして
遠くない距離に、騎士らしき数十名の人の姿が見える。
銀の
その後方にはリシア同様、純白の祭服に身を包んだ
どうやら魔術を使って、前線の騎士を援護している様子だった。
よく見れば自分の周りには負傷した様子の騎士が数多く倒れ、横たわっている。
(この人達は私の仲間……? 私は囲む何かにやられて、負傷して記憶が曖昧になったの?)
状況からしてその可能性が高いと思ったが——彼らが身に
自分が着ているのは、黒のインナーに
彼らは赤と黒がメインの色合いで、服の型も似ているとは言い
記憶の手掛かりになればと思ったが、そう甘くはなかった。
(状況を、
そう思って、立ち上がろうと足に力を入れた——次の瞬間の事だった。
ドゴオオオン! と
前線を囲んでいた数名の騎士が、土煙と共に宙に舞い上がって、
数秒が経ち煙が晴れ、ぽっかりと空いた包囲網から見えたのは、巨大な黒い
目視できる程に
自分の事に関する記憶は一切思い出せないが、それが何であるのかはハッキリとわかった。
あれは世間一般に魔獣——
きっと獲物を
半開きに開かれた口には
「包囲網を崩すな! 陣形立て直せー!」
「魔術師隊は障壁詠唱!
「もうすぐ援軍が来る! それまで持ち
「グガアアァ!!」
指揮官の怒号と、兵士の悲鳴と、地の底から響くような、重低音で不快感のある
側に居たリシアがあわあわとしながら、負傷者に治療を施すため立ち上がり移動しようとする姿が見える。
しかし——「うわあああ!」という悲鳴と共に、血が飛び散り、目の前に
「だめです! 障壁詠唱間に合いません! このままでは崩されます!」
血飛沫を上げた騎士の
その様子にリシアは足がすくんだのか、がたがたと震えてへたり込んでしまっていた。
恐怖に染まった
そんな視線に気付いたのか、獣の赤い瞳が、次の獲物を見つけたと言わんばかりにリシアを
そして
直感で悟る。
このまま何もしなければ、自分を助けてくれた少女が、ここにいる全員がやられてしまう、と。
自分が何者なのか。
何故ここにいるのか。
何が出来るのかはわからない。
でも、このまま何もせず
何も守れず、何を知る事もなく、消えて行くだろう。
(……そんなのは——嫌!)
無力感に
すると、想いに呼応するかのように、銀色の
これは、マナだ。
奇跡を起こす神秘の力だと、不思議と理解できた。
解き放たれたマナの放流が風となり吹き
神秘の輝きは光の洪水となって周囲を照らし、
「何だ!?」
「お姉さん……?」
マナが
その輝きを見ていると、一つ、二つ……と脳裏に旋律が生まれた。
『さあ、歌って、
歌は祝福、
貴女の歌は、運命を切り開くための鍵』
誰かの優しい声が、耳元でそう
この歌が奇跡を起こす事を願って。
『紡ぐは慈愛の恵みと
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