第10話 旅立ち  

 紀元前11世紀中頃、殷王朝時代末期、春節元旦の新月の夜に黄龍、黒龍、白龍が集まっている。龍たちが見つけた、徳を秘めた子どもたちを、小さい導師と呼んで自慢している。


 黄龍と黒龍が各子どもたちの自己紹介を促した。

「はじめまして鄭邑の吾と言います。春分の祭典の終ると、黄龍観の学問所に

 出家します。この子は葵です一緒に出家します」

 

 「はじめまして魯邑の英と言います。学問所に弟の智が出家します。

  この子が智です仲良くしてくださいね」

 「よろしく魯氏智です。この子たちは一緒に学問所に出家する箪氏満と月です」

   

 すると、少し遅れて西方から光球が接近して来る。

 白龍が、遥か西方の隴西地域から中原上空に飛翔して来た。

 白龍の光球が黄龍と黒龍の光球に合流した。


  「黄龍、黒龍、皆揃っているようだな」

  「白龍、その子どもたちが、小さい導師か?」

  「そうだ黄龍、我が見つけた、仁愛ある子どもと強くて優しい子どもだ」


 白龍が山桃に自己紹介を勧めました。

  「はじめまして、西方隴西地域の葛邑の山桃です。学問所で治山学と植物学を

   勉強します。この男の子は沢です。黄龍観の自警団養成道場で鍛錬を受けま 

   す。よろしくお願いします」      

 

 すると、葵と詩そして畢氏月が、山桃に近づいてお互い自己紹介を始めた。

 また、魯氏英と智と箪氏満が、沢に近づいてお互い自己紹介を始めた。


「吾、葵よ、皆も我の話を聞いてほしい」

 五龍の目的は、中華圏において信者たちを使って「五つの徳目の国」を勃興させる事だと黄龍が言った。

 果たして五龍は、どんな国を勃興させようとしているのでしょうか?   


 黄龍の五つの徳目の国とは、仁徳のある君主が国を治め仁・義・礼・智・信の五つ徳目の秩序ある国「五つの徳目の国」を勃興させることにある。

 そのため我々五龍は、中華圏の信者たちに治山治水の使命を与えた。

 しかし信者たちが、五つの徳目を会得しなければ、我々五龍の使命を永久に果たすことができないであろう。


 黄龍は子ども達に諭します。

「他者への思いやりや礼儀、利欲から離れること、利他の精神で知識を学び実践すること、他者から信頼される人間になること。これらが中華圏発展に、必要なことだ」

 鄭氏吾や葵、詩、鹿だけでなく、他の子ども達、魯氏英、智、畢氏満、月、葛氏山桃、沢氏もその手伝いをしてほしいと言います。


 黄龍の本意は、この場で子ども達全員に不老不死の身体を与え、龍の意のままに動く従順な使者にする事です。黄龍と黒龍はその機会をうかがっている。


 しかし黄龍は、子どもたちについうっかり五つ徳目を諭してしまいました。

 そして黄龍は、子どもたちとの信頼関係構築を優先させることにした。


 やがて黒龍は北方に、白龍は西方に戻って行きました。 


 中華圏の冬は、黄河上流域を凍結させ全てを凍らせ、人も動物も植物も閉じ込めてしまいます。

 そして季節は廻り、中華圏の冬の寒さが緩み、黄河上流域の氷が溶け始め黄河流域が増水する季節が巡って来た。


 五龍観の春分の祭典の終り頃、黄河下流南岸の街道に鄭氏吾と葵がいる。

 出家し学問所で学ぶため旅立つ2人に、詩と鹿そして母が見送りに来ています。


「二人とも体に気を付けね」

「ありがとうございます母上」  

「兄様、僕が母様、姉様を守ります」

「鹿は頼もしいな!」

「兄上様、葵さん行ってらっしゃい」

「詩、頼んだよ、根をつめるといけない適当でいいからね」

「ありがとう兄上様」

「行って来ます」


 吾と葵は、去年補修した黄河流域運般船鄭邑船着場に向かいます。

 この船着場は、長距離交易商人中原梁氏の依頼で去年補修造成しました。

 「葵、船に乗って行こうよ!」

 「うん! 」

 吾と葵は、自分達が補修した船着場から中岳嵩山船着場へ向かう事を決めました。故郷の中原鄭邑船着場より、河運般船が吾と葵の2人を乗せて旅立ちました。


 ここは黄河北岸冀州船着場。

 この船着場は、去年魯氏英が補修造成しました。その船着場から魯氏智、箪氏満、月が中岳嵩山船着場まで河運般船で旅立ちます。


 見送りには叔父夫婦、冀州絹織物工房緯工匠畢氏夫婦、そして領主魯氏基が来ていました。

 「智、体に気を付けて」

 「兄上、行って来ます」

 「智、体に気を付けるのだぞ」

 「叔父上、伯母上ありがとうございます」

 「兄上これ持っています!」

 智は、兄からもらった3 人の木彫りを懐から取り出した。

 「智、僕も持っているよ」

 

 智と英は、兄弟の絆を確かめました。

 すると魯邑の領主魯氏が、智に近づきそして智を抱きしめました。

 「すまなかった…」

 「…行って来ます…」

 智と父は、名前を呼び合いませんでした。しかし、親子が和解する一歩を踏み出しました。

 魯氏智、箪氏満、月が乗船した河運般船が船着場より旅立ちました。



 第12話 葛氏山桃と沢の旅立ち つづく

本文の『』は引用

 文末の数字は解説と引用

 第12話解説と引用を参照


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