第27話 召喚士ではないけど召喚できるもの
畑の前。
デュランタは、畑横の小屋から一房の袋を取り出した。
中には、エルフのトマトの種が入っている。
「ご存じだと思いますが、これは、エルフのトマトの種になります」
それを、デュランタは静かに、畑に置いた。
すると、種はわずかに震えると、
――シュウウ……
と、数秒の間に、水分が取られたようにしぼみ、枯れてしまった。
「これは……異常事態ですね」
「どの作物も、こんな状態でして。育つどころか、そもそも植えられないのです」
吐息しながら、デュランタは俺たちの背後に視線をやる。そちらにあるのは、倉庫だ。
「数か月前よりこの状態なので、食料が足りず。トマトの種を売ったお金で、備蓄はある程度できましたが。あくまで緊急避難ですので。作物が育てる土地が回復しなければ、里を捨てるしかない状態で」
「他の場所に畑を作ったりは?」
「一応、この里の端から端まで試しましたが――無理でした」
「木々は普通に生えているのに、おかしいわねえ」
「ですので、アルト殿。少しでもお知恵、お力を貸して頂けますと幸いです」
デュランタは頭を下げてそう言った。
「ううん。ちょっと分からない事が多いので、まずはあらましを聞かせて貰えますか? さっきのスケルトンが関係あるのか、とかも気になりますし」
そう言うと、デュランタは、僅かに言いよどんだ後、
「そうですね。隠す様な事でもありませんし。……始まりは数か月前、人間らしきモノが訪ねてきた所からです」
「エルフの里に、ですか? 人と交流を持っていなかったと聞いていましたが」
俺が聞くと、デュランタは頷いた。
「ええ。ですので、当然門番が目的を聞いたのですが、こちらを見るなり、『お前達エルフを滅ぼしに来た。この土地は我々のものだ』と言い出しまして。そして、スケルトンを地中から呼び出し始めたのです」
「単騎で侵略を仕掛けてくるとか、随分な蛮族がいるものね」
シアの言葉にデュランタは苦笑する。
「魔王との戦争が終わってある程度落ち着いたとはいえ、人同士の争いは残っている訳で、領地の奪い合いは珍しいものではないですからね。そういう手合いか、と思って粛々と対応しようとしたのですが――その人間は、己のドラゴンの姿に変えて、里を襲おうとしまして」
言いながら、デュランタは周囲を見る。
俺もつられて視線を向けると、そこには木製の家々がある。そして、ところどころに焼け焦げた跡も。
「もしかして里の家が、少し焼けているのは……」
「やられた名残ですね。想像以上に強く、我々だけではどうしようもなかったのですが、そこをピュセル様が体を張って助けて下さいまして。その場で討伐してくださったのですよ」
「……アイツの翼がちぎれていたのは、そのせいってことね」
シアの台詞にデュランタは頷く。
「ともあれ、厄介なドラゴンは倒され、残ったのは、奴が呼び出したスケルトンの大群でした。それを処理しているのが今、ということなんですが。……作物が育たなくなったのも、その襲撃があってから、なのですよね」
「関係あるかはまだ分からないけれど、時期的には被っている、ということですね」
「はい」
言われ、俺は頭の中で情報を整理する。
現状、この里で作物が育たなくなっているのは間違いない事実だ。
……トマトは、ウチの畑だと普通に育ったわけだし。街の商人の話を聞いても、10年掛かるのであきらめただけで、すぐに枯れた、っていう話は一切なかった。
「つまり、種そのものには問題ない、筈なんだよなあ」
別に、植物全てが枯れているような異常事態ではない。ただ、畑で作物が育てられなくなっている、ということらしいが、
……植えた瞬間から、植物の声が何も聞こえなくなるんだよなあ。
自分の動植物会話で感じられるのはその辺りだ。
……問題があるのは土なのかな?
ならば、自分よりも判断が出来る人を呼ぶのが一番いいだろう。
「すみません。ちょっと、仲間に聞いてみたいんですけど、呼んでもいいですか?」
「呼ぶ……はい。この際、手伝って頂ける人が増えるのは構いませんが。どこにいらっしゃるのですか? 迎えを出しますが……」
「あ、いえ。迎えは大丈夫です。ここに召喚するので。出てくるのは人ではないですが、味方なので安心してください」
「ふむ、かしこまりました。……しかし、アルト殿は、召喚士だったのですね。作物を育てられたと聞いて、勝手に農業系の職業者だと思っていましたが」
「いえいえ、合ってますよ。俺、羊飼いなので」
言った瞬間、デュランタの表情が固まった。
「え……と……?」
「ともあれ、呼びますね。【来たれ、アディプス……!】」
俺は、アディプスを呼んだ。
「ふわあ、なんです。今日の魔王城の畑の見張りは、スライムたちに任せるって話でしたが」
眠たげな彼女は、そんなことを言ってくる。
「ゴメン、ちょっと力を借りたくて」
「まあいいです。この前美味しいものを食べさせてもらいましたしね」
などと言って、こちらに寄ってくる。ありがたい事だ、と思っていると、
「え……? 羊飼いなのに、こんな気軽に魔獣召還を行えるのですか……?! しかも、人語を解せるほどの高レベルな方を……!?」
デュランタが目を白黒させて驚いていた。
隣ではシアが胸を張っていて、
「ふふ。凄いでしょ。私がみっちり教え込んだからね!」
シアは嬉しそうだ。彼女に教えて貰ったことだし、それで喜んでくれるならこちらとしても嬉しいが。ともあれ、
「アディプス、協力してほしいんだけど。この土、どうなってるか分かる? 作物が育たないって話なんだけど」
「ああ、そう言う事ですか。ちょっと触れますね」
アディプスは、そう言って、土に触れた。
そして、目をつむり、数秒。
「なるほど」
頷いて、こちらに目を向けた。
「ここの畑、もう使えないですね。土に呪いが掛かってます」
そして、そんなことを言うのだった。
――――――――――――
【お読み頂いた御礼とお願い】
本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。
「この先が気になる!」
「アルトやシアの続きがもっと見たい!」
ちょっとでもそう思って頂けましたら、↓にある「☆で称える」の「+ボタン」を3回押して、☆を入れて、応援して貰えますと嬉しいです!
大勢の方に見て貰う事が出来ますので、作者の執筆継続のモチベーションになります!
また、フォローして頂けると、とても助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます