第8話

 橘と美咲は驚愕の表情でモニター画面を凝視した。そして、美和も驚きの表情を隠しきれずにいた。そして、画面に並んで映っているKENTAROに言葉を投げた。

「何故、あなたがここに現れるの?いえ、なぜ現れることが出来たの?」

「不思議かい?僕はいつでも君を見てきたよ。何もかも。」KENTAROは淡々と言った。

「じゃ、まさか私の素性も知っていたってこと?いや、そんなことあるはずないわ。」美和は大きく動揺している。

「いや、かなり初期の段階から気付いていたよ。でも、環境保護の活動はしてくれていたから、目を瞑っていたんだ。」

そこで、美咲が言葉を挟んだ。

「KENTAROさん、あなたは、加藤美和、ジャスミン・リーと言った方がいいわね。彼女の本当の姿も、企みも知っていて加担していたの?」

「いや、僕は何もしていないよ。ただ、彼女と環境保護活動をコラボでやっていただけさ。でも、彼女はやりすぎたね。さすがにここまでの工作活動は看過できないよ。だから出てきたんだ。懲らしめようと思ってね。」KENTAROは自分の顔をズームした。目が異様に輝いている。沈黙していた橘が話に加わった。

「それは我々に力をかしてくれるということなのか?どうなんだ、KENTARO君!」

KENTAROの目はさらに光量を増して、見ている者がまぶしくて直視できないレベルになって来た。

「いいでしょう。力を貸しましょう。これも私の使命だ。」

KENTAROはそう言うと、画面から消えた。画面に残った美和は叫んだ。

「どういうことよ。何しようっていうのよ。あんたに何ができるというのよ。出来たとしてももう手遅れよ・・・・」

途中で画面が消えた。


🔶 🔶 🔶 🔶 🔶


 美和はカメラとモニター前で焦っていた。

「なにしようというの!」そこは、中華大国人ハッカー達の新たな潜伏先だった。

美和の隣には、スキンヘッドに黒いサングラスをした男が座っていた。

「ドウイウコトダ、コウサンサセルタメニセッショクシタノデハナイノカ?」

「とんだ邪魔が入ったけど大丈夫。彼は何も出来ない。もう勝負こちらの勝ちなんだから。そうよね?」美和は、サングラスの男に同意を求めた。

その時、配下と思われる男がサングラスの男に駆け寄り、耳打ちをした。その瞬間、サングラスの男の表情が変わった。そして、美和に告げた。

「ナニモノカニ、ワレワレノコウゲキガボウガイサレハジメタ。ワタシハハッカータチノトコロニユク。オマエモコイ。」サングラスの男は立ち上がって部屋出て行く、美和も慌ててそれを追った。


 思念体であるKENTAROは、サイバー空間に干渉できる能力を持っており、情報の流出を阻止するためにまず動いた。KENTAROは思念体として直接自分で公安警察のサーバー内に入り、情報を隠蔽して暗号化した。これにより、中華大国人ハッカー集団は情報を容易に抽出できなくなり、混乱し始めた。

KENTAROは、サーバー内部のセキュリティプロトコルを操作し、攻撃者たちの活動を妨害した。その後、KENTAROは中華大国人ハッカー集団に直接干渉し始めた。彼は思念体としての力を駆使し、攻撃者たちのコードを混乱させ、バックドアを作成し、攻撃者たちに自分の攻撃を自分で妨害させるようにもっていった。


「これは一体どういうことなんだ。」橘は呻くようにつぶやいた。

「わたしにもさっぱり、、、」美咲も目の前で起きていることが全く理解できなかった。

KENTAROが思念体であることは誰も知らない、橘や美咲たちには、KENTAROの対応は、魔法の類にしか見えなかったし、目を疑うばかりであった。


 KENTAROの魔法のような対応により、中華大国人ハッカー集団は壊滅的なダメージを受け、攻撃を続行することが困難となって行った。美和とサングラスの男は、IT機器とモニターに囲まれた中華大国人ハッカー集団たちの作業場で、その様子を茫然として見ていた。

徐に、サングラスの男は、美和に詰め寄り、服の胸倉を乱暴につかんで言った。

「ドウイウコトダ、ジャスミン。アノオトコハイッタイナニモノナンダ。」

「私だって知らないわよ。かれはただのインフルエンサー。こんな力はないはずよ。凄腕のハッカーを抱えているなんて話も聞いたことないわよ。」と言って、美和は男の手を掃った。


 モニターに流れていた数字と記号の嵐がとうとう止まってしまった。KENTAROの魔法のような妨害工作で、中華大国人ハッカー集団は成す術を失い、攻撃を止めざるを得なかったのだ。中華大国人ハッカーたちは、絶望でみな崩れるようにデスクに突っ伏しだした。

「モウオシマイダ。」サングラスの男も頭を抱えてうずくまった。

「なんで、どうしてこんなことに・・・・」美和もそう呟くと、膝から崩れ落ちた。


🔶 🔶 🔶 🔶 🔶


 公安警察のセキュリティ対策室では、歓喜の声が挙がっていた。スタッフが抱き合って喜んでいた。真鍋と橘も手を取り合って喜んでいた。美咲もホッとして、その様子を微笑んでみていた。すると、そこに急に脳内に直接呼びかけるように声が響いた。

「何をしているんだい。喜ぶのはまだ早いよ。この隙に奴らの居場所を探索しないと。」と声が響いた。美咲は、「誰?」と周り見まわしたが、皆歓喜していて自分に話かけている者などいない。「念話なの?いやそんなのどうでもいいわ。忠告通りよ。浮かれている場合じゃないわね。」と呟いて、皆に向かって大きな声で言った。

「喜ぶのは後よ!今、かれらが弱っている間に彼らの潜伏場所を探索して!」

皆、一瞬呆気にとられたように美和を見たが、すぐに言葉の意味を理解した。

「そうだ、それが先だ。」

「わかったわ。すぐとりかかりましょう。」

「よし、俺も手伝う。」とスタッフたちは、次々と中華大国人ハッカーたちの潜伏場所の探索にとりかかった。


 そして、美咲たちは、中華大国人ハッカー集団の居場所の特定に成功した。

かれらの新しい潜伏先は、忘れられた廃止された地下鉄の駅跡であった。かつてそこには、地下鉄の駅があり、人々が利用していたが、突然閉鎖されて今では忘れさられてしまっていた。しかし、実際にはプラットフォームも駅舎も取り壊されずにそのまま存在していた。この場所は高校のグラウンドの地下に位置しており、最初に位置特定した時には間違いかと思ったが、地下に地下鉄が通っていて、そこにはかつて駅があったという情報も追って入手できた。高校の向かいの中華レストランからその地下へアクセスできるようになっていたようだ。

公安警察は、場所の特定後すみやかに公安警察特捜の精鋭エージェントに潜伏場所を急襲させ、中華大国人ハッカー集団の身柄を拘束することに成功したのだった。

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