面倒くさがり屋(だけど最強)勇者の英雄譚

白牛乳P

序章:プロローグ

勇者の軌跡 プロローグ:この勇者、面倒くさがり屋だが最強

 ここは、とある世界の魔族が住んでいる大陸。

 そこの小高い丘に建っている、何の変哲もないどこにでもありそうなごくありふれた魔王の城。

 その城で、今蜂の巣をつついたような騒ぎが巻き起こっていた。

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 玉座の間。この城の主である魔王とその側近たちが、勇者一行とにらみ合っていた。

「勇者よ。よくここまで来た。誉めてやろう。」

「おう、お褒めいただきサンキュー便所マッチだぜ。」

「しかし、お前たちの命運もここまでだ。このわt」

 魔王が話し終わる前に、勇者は行動を開始する。

「先手必勝!!」

 そう勇者が叫ぶと、勇者の体から眩い光が発生した。

「ぐぅ!人の話を途中で遮るとは、なんとせっかちな奴だ。しかし、光を出しただけでこの私が怯むとでも...」

 そう言っているうちに光が収まると、魔王たちは目の前の光景に唖然とした。

「・・・・・・」

 魔王は、しばらく呆然としていたが、我に返って勇者に問いかけた。

「・・・勇者よ。そのポーズはなんだ?あと、なぜ上半身裸なのだ??」

 そこには、上半身裸でマッスルポーズを決める勇者がいた。

「これか?これはだな、秘技『お前も筋肉の虜になるがよい』だ!!」

「・・・・・・」

「ふんっ、ふんっ、マッスルマッスル!」

 勇者は次々とポーズを決めている。そのたびに勇者の体から光を発しながら。

 魔王軍はしばらく思考が追い付かないでいた。

 と、いち早く復帰した魔王が頭を振りながら、

「ふ、ふふ。さすがは勇者だ。まさか魅了術を使ってくるとは。」

「だが、そのような術はわが魔王軍には通用しない!見よ!誰もかかっておらぬだろう!!」

 そういって、自軍を見てみると、一人だけ様子がおかしいものがいた。

「ほぇ~、筋肉しゅごいぃ~♡」

「掛かっている奴がいた?!!」

 勇者のマッスルポーズに魅了されて、目がハートマークになっている女魔族が体をくねくねさせて悶えていた。

(・・・そういえば、あいつ筋肉質の男が好きだったな~。)

 魔王がそう思っていると、その女魔族が突然後ろから刺された。

「きゃああああぁ!!」

「女幹部1ーっ!!」

「流石はアサシン、まずは一人片付けたわね。」

「このくらいよゆう。ぶい。」

 そう言って聖女の元に戻ってきたのは、アサシンと呼ばれる全身黒タイツの少女(ハーフリング)だった。

「しっかし、ちんまい体と凹凸のない平坦なスタイルだな~。」

 マッスルポーズを決めながら、勇者がそうつぶやいた途端、アサシンからものすごい殺意の波動があふれ出した。

「・・・と、さっきあそこの魔族が言ってたぞ?」

 咄嗟とっさに魔王のそばにいる魔族の男に振ると、「えっ?」という表情になった。

「・・・あとで、ものすっっっっっっごく『ひどいこと』をする。」

「なんで!?」

 とんだとばっちりである。

「ふ、ふん。あいつは我々幹部の中で最弱。他の者はそうはいかぬぞっ!」

 明らかに魔王は動揺していた。

「魔王様、ここは魔王軍の『スピードスター』と言われる私にお任せください。」

 一人の幹部らしき男が、魔王の前に出てそう言った。

「よかろう、魔王軍の強さ、見せつけてくるがよい。」

「はっ。」

 魔王にこうべを垂れると、姿が消えた。

「なっ?!」

「む、はやい。わたしよりはやいかも。」

「はははっ!この私を捉えることができるかな?」

 あまりの速さに姿を捉えることができない。

 勇者パーティが戸惑っていると、後ろから「いい汗をかいた」と言いながら勇者がやってきた。

「心配するな。こんなことがあろうかと、とっておきの技がある。」

「本当なの?!見えないくらいのスピードなのよ!?」

 聖女がそういうと、勇者は「任せろ」といった感じでサムズアップしている。

「今こそ見せてやろう、『ちょこまかすばしっこいウザいやつ』迎撃技。」

 そういうと、勇者は右手を手刀の形にして頭上に掲げた。

「くらえ!ジャイアント馬●直伝(うそ)、脳天唐竹割り●場チョップ』!」

 勇者の叫びとともに、チョップが振り下ろされた。

「「おおっ!!」」

「・・・って、遅っそ!!」

 しかし、動きが超スローモーションだった。

「はははっ!そのような攻撃が、私に当たるわけがない!!」

 そう言って、相変わらず見えないスピードで動き回る魔族の男。

 ・・・1分後。

「ははははっ!!まだまだこれからっ!」

 さらにスピードを上げる魔族の男。

 ・・・2分後。

 ガスッ!

「ぎゃああああっ!!」

「当たった?!」

 聖女が悲鳴の上がったほうを見ると、頭から血を流して倒れている魔族の男がいた。

「男幹部2ーっ!!」

 魔王が叫ぶ。

「・・・ん、まぐれ?」

 アサシンがそうつぶやくと、勇者は不服そうな顔をした。

「失礼な。あれは『必ず当たる必中』攻撃だから、まぐれじゃないぞ?」

「ちなみに、SP精神ポイントを10使う。」

「『エスピー』って、なによ...?」

 聖女が、ジト目で勇者を見ているが、当の本人はまったく気にしていない。むしろ「ご褒美」と思っていたりする。

「おのれ、戦力差があるから楽勝と思っていたが、我らが幹部が2人も倒されたとあっては、もう容赦しない。総攻撃だーっ!!」

 魔王がそう叫ぶと、残りの魔王軍が一斉に勇者パーティに襲い掛かった。

 ・・・

「ぐぅ、まさか、勇者パーティがここまで強いとは思わなかったぞ。」

「おう、アンタもさすが『魔王』だけあってなかなかの強さだな。」

 魔王軍は、魔王を残して勇者パーティに倒されてしまった。

「まさか、こちらの攻撃が、あのオーガにことごとく防がれるとは...。」

 魔王は、大楯を持ったオーガの男を見据えた。

「ぼぼぼ、僕はだな、かかか、体が硬いのがととと、取柄とりえなんだな。」

 重戦士(オーガ)は、あまりしゃべるのが得意ではなかった。

「そそそ、それに、こここ、これが終わったらゆゆゆ、勇者がおおお、おにぎりをいっぱいたたた、食べさせてくれるんだな。」

「だだだ、だから僕、いいい、いっぱい頑張りました。おおお、終わり。」

 餌付けもされていた。

 ちなみに、アサシンは先ほど宣言したように、とばっちりを受けた魔族に、口では言えないような「ひどいこと」をしたらしい。

「しかし、私は負けない。勇者よ、私と一対一サシで勝負だ!」

「良いだろう。それならば、俺も封印していた禁断の技を使うとしよう。ちょっと準備する。」

 くわっ、とアサシンが目を開いた。

「えっ、あれをつかうの?」

「アサシン、知ってるの?!」

 聖女が驚いてアサシンに尋ねた。

「・・・んにゃ、しらない。ふいんき(へんかん変換できない)でいってみただけ。」

「知らんのかいっ!!」

 聖女のツッコミが炸裂した。

「向こうが騒がしいようだが、準備はできたか、勇者よ...?」

 魔王は準備ができるまで律義に待っていたようだ。

「ん、どうした?」

「いや、その格好・・・、その、手を組んで人差し指を立てているのは何だ?」

 魔王は、勇者が想像外の格好をしているのに、疑問を抱いて問いただした。

「ふっ、これはだな、人権を無視して相手に精神的ダメージと一部肉体的ダメージを与える禁断の技...」

 勇者は、ためを作ると、

「『カンチョー』だっ!!」

 そう叫ぶと、勇者の姿がブレて、魔王の真後ろに現れた。

「とうっ!!」「はうっ!?」

 勇者の攻撃が魔王(の尻)に直撃した!クリティカルダメージ発生!!

「とうっ!」「うりゃっ!」「もう一丁!」

「あうっ!」「うおっ!」「うぎゃっ!」

 勇者は執拗に魔王(の尻)を攻撃した!

「うわぁ~、これはエグいわぁ~...。」

さすゆう流石勇者ようしゃ容赦ない。」

 聖女とアサシンがドン引きしている中、

「おおお、おにぎりおいしいんだな。」

 重戦士は約束のおにぎりを食べていた。

 ・・・

 勇者に一方的に(尻を)攻撃された魔王は、尻をあげた状態で倒れていた。

「・・・うぅ、もう『お婿』にいけない...(泣)」

 そう、べそをかいている魔王の前で、仁王立ちした勇者は、おもむろに剣を抜いた。

「さて、それではフィニッシュと行こうか。」

「そういえば、アンタ今回初めて剣を抜いたわね。どういうことよ?」

 聖女が言ったように、今まで帯剣しているにもかかわらず剣を使わずに魔王軍と戦っていたのである。

「ん?ヒーローもののお約束と言ったら、最後に剣でとどめを刺すだろうが。」

 そう、ごく当たり前のことのように勇者が言う。

「・・・・・・・・」

 聖女は、もう突っ込む気力もないらしい。

「では、いくぞ!魔王よ、覚悟!!」

 そういうと、剣を水平に構え、刀身を手で挟んでゆっくりスライドさせた。

 すると、なんということでしょう。何の変哲もない刀身が、青白く光を放っているではありませんか!

「レー●ぁぁ・ブレードぉぉぉ!!」

(実は光魔法で青白く光らせているだけ)

 そう叫ぶと、剣を振りかぶり、魔王の脳天へ振り下ろした。

「ギャバ●・ダイナミぃぃックぅぅぅぅぅっ!!」

 ズバァッ!

「グオオオオオオッ!!」

 断末魔の声を上げた魔王が、床に倒れて大爆発を起こした。

「やったわ!」

「おー、すごい、さすゆう。」

 そう感動する聖女とアサシンと、

「ややや、やっぱり塩おにぎりがいいい、いちばんおいしいんだな。」

 ただひたすらおにぎりを食べている重戦士であった。

 濛々もうもうと立ち昇る煙を背に、こちらに歩いてくる勇者。その姿は、正に「英雄」たる風格である。

「・・・あれ、何だか初めて勇者のこと、かっこいいと思ったかも。」

いふーどーどー威風堂々。ちょーかっこいい。」

 そんなことを女子どもが言っていると、勇者がやってきた。

「それじゃあ、やることやったからちゃっちゃと帰るか。」

「そうね!」

「うん。」

「もぐもぐ、ん?かかか、帰るのかな?」

「そう、そろそろこの城崩れると思うから。」

 勇者が衝撃的な発言をした。

「「・・・は?」」

「ラスボスが倒されたら、城が崩れ落ちるのは定番だろうが。」

「「・・・・・・」」

 ・・・ゴゴゴゴゴゴゴ...。

 床が揺れ始め、何かが崩れる音が聞こえてきた。

「い、急いで逃げるわよーーーーっ!!」

「うん。まじでおにやばい。」

「ととと、とりあえずおおお、おにぎり食べながらににに、逃げるんだな。」

「いやー、本当に崩れるとはな~。まいったまいった、マイ●ルジャクソン。」

暢気のんきに笑っていないで、さっさと走りなさいよーっ!!」

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 この後、何の変哲もないどこにでもありそうなごくありふれた魔王の城は、ものの見事に崩れ去った。

 勇者達一行が無事脱出できたかは、本人たち以外誰もわからない。




「ぎりぎりだったけど、ちゃんと皆生きているわよっ!!」

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 この物語は、歴代最強といわれた、一人の勇者の英雄譚えいゆうたんである。

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