【ぱわー!】力が強すぎる彼女に見合う男になるために体を鍛えよう【パワー!】
「ぱわー!」
彼女はそう言って勝利宣言をした。
屈強な柔道部のエースが右手を押さえて教室の床に倒れている。
女子の中でも小柄な彼女の名は、
ほっそりとしていて見るからにか弱そうな彼女は、謎の怪力の持ち主だ。
その強さは力自慢の男子達でも太刀打ちできない程。
これが小学生だったら体格の差がまだ大きくないから分からなくはないけれど、僕達はもう高校生だ。
ほのかちゃんの何処にそんな力が秘められているのか、人類史上最大の謎である。
「力丸さん!今度は俺とお願いします」
「うん、いいよ~」
明るく少しゆっくりめに返事をする彼女は、控えめに言って可愛らしい。
庇護欲をそそるタイプだ。
その守ってあげたいオーラに骨の髄まで汚染された一人の男子生徒が、ある日ほのかちゃんに告白をした。
ほのかちゃんの返事は不思議なものだった。
『私より強い人なら付き合っても良いよ~』
彼女をゲットだぜ。
男子生徒はそう思っただろう。
しかし彼は完膚なきまでに叩きのめされた。
具体的には右手首が粉砕された。
その噂を聞いた男子生徒達がほのかちゃんに群がり、毎日のように挑戦しているのが現状である。
「パワー!」
「ぱわー!」
次の挑戦者はレスリング部の鮫島君だ。
ほのかちゃんの真似をしたのか、戦いの前に右腕を胸の前にやってポーズを決めている。
このポーズが彼女の力の秘密かもしれない、と思った男子生徒達の間でブームになっていた。
あらゆる挨拶がこれになっている。
「パワー!」
勝負の内容は腕相撲に似たようなものだ。
机に肘をついて、手をパーにして合わせる。
そしてそのまま相手を押して机につけた方が勝ち。
何故握らなくてパーなのか。
ほのかちゃんにその質問をした生徒は、恐怖で一晩中眠れなかったそうだ。
『だって、握りつぶしちゃうから』
ヒエッ。
スポーツテストで握力計をぶち壊したという噂は本当だったのかもしれない。
そうそう、スポーツテストと言えば、ほのかちゃんは別に運動が得意なわけではない。
むしろポンコツである。
力はあるけれども、持久力や技術が皆無なのだ。
僕としては、そんなところも可愛く思えるのだけれども。
おっと、こんな話をしている間に、鮫島くんはほのかちゃんの手のひらの感触を堪能する間もなくと倒されてしまった。
瞬殺である。
「ぱわー!」
勝利宣言するほのかちゃんが本当にかわいい。
男がやるとむさくるしいのに、ほのかちゃんがやるとほんわかする。
「くっそー負けたかー!」
鮫島くんは右手首を押さえながら悔しそうに立ち上がった。
聞こえちゃいけない音がしたけど大丈夫?
「力丸さん!今度は俺とお願いします」
休み時間の間中、彼女はひたすらに男子生徒達を倒し続けた。
最初は合法的に女の子と触れ合えることが目的の男子生徒が多かった。
ほのかちゃんと手を合わせ、その感触を堪能するだけで満足なチキン野郎は、一人の例外も無く全力で
ほのかちゃんと付き合いたいと本気で思って挑戦して来た男子生徒にも容赦は無かった。
あらゆる運動部が敗北し、ほのかちゃんがこの学校の頂点に立った時、男子生徒達のプライドが火を噴いた。
あんな小さな娘に負けてたまるか、と。
巻き起こる筋トレブーム。
昼飯はサラダチキンと生卵。
夏場になると生卵による腹痛が続出し、生卵持ち込み禁止の校則が出来てしまった。
休み時間はみんなで声を揃えて筋トレだ。
「パワー!」
無関係の女子からうるさいと怒られたが、そんなことは気にしない。
不良共がほのかちゃんに襲い掛かり虐殺されるハプニングなどもあったけれども、ほとんどの男子生徒達はほのかちゃんに正攻法で勝つことを目指して筋トレに励んでいた。
そして生まれたムキムキの集団。
マッスル大好きな女子達が毎日のように目をハートマークにして涎を垂らしている。
「ぐわああああああああ!」
「ぱわー!」
だがそれでもほのかちゃんには誰も叶わない。
丸太のような腕をした相手を、事も無げに叩き潰す。
次第に、みんなの目的が変わってきた。
ほのかちゃんと付き合うことでは無く、ほのかちゃんに勝つことが目的となっていた。
「パワー!」
と叫びながら筋肉を見せつけあっている様子は、ボディビルダーの大会のようだ。
ただ、僕だけはその流れに乗らなかった。
「まもるくんは、鍛えないの?」
ある日、ほのかちゃんが僕にそう聞いて来た。
名前で呼ぶのは、僕達が幼馴染だからだ。
「うん」
「どうして?」
理由はとても簡単だ。
「だって女の子を力でねじ伏せるなんて、男のすることじゃないよ」
僕はほのかちゃんのことが好きだ。
もちろん付き合いたい。
でも、だからと言って力で屈服させるなんて、やりたくなかった。
「まもるくんは優しいんだね」
どうやら僕の考え方は嫌いではなかったようだ。
てっきり強い男を目指さない僕なんて、相手にもしたくないのかと思ってた。
もしかしたら、『まもるくんは心が強いんだね』なんて言って認めてくれたりしないかな。
なんて妄想していたら、ほのかちゃんは僕に近づいて来た。
「じゃあさ……」
僕の耳元に顔を寄せてくる。
胸のドキドキが加速する。
「私とセックスしたくない?」
ええええええええ!?
ほ、ほのかちゃん何言ってるの!?
「想像していいよ?」
ごくり、と僕は喉を鳴らしてほのかちゃんの体を見た。
小柄ではあるけれども、出るところは出てひっこむところは出ている。
そんな彼女が一糸まとわぬ姿でベッドに横になっている。
そしてその上に僕は覆いかぶさるんだ。
いけない、それ以上の想像は危ない。
学生服って、男の子の内心を隠してくれないんだよ。
でも一度はじめた妄想は止められなかった。
僕はほのかちゃんに顔を近づけ、ほのかちゃんは腕を僕の背に回して……
ボギッ
「ヒイイイイイイイ!?」
これからお楽しみってところで抱き死められるなんて、そんなのあんまりだ!
だからほのかちゃんは、自分を受け止められる強い男の人を求めていたんだね。
恋人繋ぎをしたら拳を握りつぶしてしまうかもしれない。
キスをしたら頭突きで頭蓋骨を粉砕するかもしれない。
セックスをしたら抱き死めてしまうかもしれない。
「ねぇ、まもるくん。私とセックスしたい?したくない?どっちなんだい?」
僕のお昼は今日からサラダチキンだ。
さぁ、みんなで声を揃えて鍛えよう!
「パワー!」
「ぱわー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます