何度もキスをせがんでくる後輩にキスをしたら子供が出来ました

「せーんぱい、んー」

「ぴよぴよ」

「鳥じゃないです」

「ハシビロコウかな」

「失礼ですね。私は小顔ですよ」

「でも口はハシビロコウみたいだよな」

「うそ!」

「うそ」

「先輩のいじわる」

「でもハシビロコウだったらキス難しいよな」

「まだその話題続けるんですか」

「転生したらハシビロコウだった件」

「先輩とキス出来ないなら断固拒否です」

「後輩ちゃんの次回の転生にご期待ください」

「私の人生は打ち切りエンドじゃありません。先輩と結ばれるハッピーエンドです!」


 むぅと膨れて俺の胸を叩く後輩女子。

 二人っきりになると唇を突き出して来るのはいつものこと。


 別にこいつと付き合っている訳では無いのでいつもスルーだ。


「ということで、んー」

「まだやるのか」

「美少女で巨乳で気立てが良くて家庭的で健気で一途で先輩の事を愛して止まない女の子から迫られているのに手を出さないヘタレ先輩が堕ちるまでやりますー」

「巨乳で気立てが良くて家庭的で健気な女の子なんて心当たりがないな」

「どこ見て言ってるんですか」

「胸」

「わぁお、セクハラだー」

「はぁ」

「人の胸見て溜息つくとか、ホント失礼ですね。私は着痩せするタイプなんですー」

「はいはい、かっこわらい」

「キー!悔しい!ってあれ、美少女ってのは否定しなかったような」

「……」

「え、あ、あの、あ、いや、あうぅ」


 ちょろい。


「後はまぁあれだ。健気だとか一途なのはそれはそれで悪くないけど、俺としては『私が幸せにします!』ってぐいぐい来る娘よりも『あなたの幸せを陰ながら応援してます』って控えめなタイプの娘の方が好きかな」

「私は先輩の幸せを願ってますよ?」

「じゃあお前以外の女子と付き合って幸せになるかな」

「先輩が他の人を好きになるなら仕方ありません」

「よし、誰か可愛い子に告白してこよう」

「先輩を殺して私も死にます」

「願えよ」


 そして真顔になるんじゃねーよ。

 冗談と分かっててもこえーよ。


「やっぱり他の人に奪われる前にゲットしないと」

「ぐいぐい来ちゃうのか」

「本当はこっちの方が好きなんですよね」

「ははっ」


 チッ、バレてやがる。

 ちょっと焦って誤魔化しに失敗しちまった。


「ということで、んー」

「ホント、諦めねぇな」

「私の感覚だとそろそろだと思うんです」

「その感覚は錆びついてるな」

「なら先輩が錆取りしてください」


 そうだな、そろそろそれもありかもな。


「ほら」

「!!」


「もういっちょ」

「!!」


「仕上げはしっかりと」

「!!??!?!??!!?!?」


 軽く、啄むように、そしてじっくりと時間をかけて。

 柔らかい感触を大いに楽しんだ。


「な、な、な、なんでしちゃうんですか!」

「その反応は予想外だった」

「して良いけどしちゃダメなんです!」

「どっちやねん」

「先輩のバカー!」

「また明日なー」


 まぁ照れ臭かっただけだろう。

 顔を真っ赤にして慌てて走り去って行った。


 あいつがもっと冷静だったら、俺の顔も真っ赤なことに気付いただろうに。

 揶揄うチャンスを逃したな、馬鹿め。




「先輩!子供が出来ました!」

「マジかー」


 翌日、後輩はお腹を大きく膨らませていた。

 シャツの裾からバッグの肩掛け部分が出てるぞ。


「おめでとう、誰の子だ」

「何言ってるんですか。先輩との子供ですよ」

「俺はお前に挿入した覚えは無いんだが」

「先輩本当は女子じゃないですよね。表現が生々しすぎるんですけど」

「女子ってそんな会話してんのかよ、こえー」


 俺だってこいつ以外にはこんなこと言わねーよ。

 男同士でももっとマイルドに表現するし。


「そんなことより、責任とってください!」

「責任も何も、身に覚えが無いんだが」

「ヒドイ!昨日私をあんなに弄んだのに」

「毎日弄んでいるから、何を指すのか分からん」

「あ……自覚はあったんですね。じゃなくてコレですよコレ、んー!」

「ハシビロコウ?」

「そのネタはもう良いです!」


 このネタ結構気に入ってるんだけどな。


「なるほど、唇と唇を触れ合わせて粘液を交換する行為で妊娠した、と」

「表現」

「出産予定日は?」

「明日です」

「妊娠期間一日かよ。超スピード出産だな」

「科学の力は偉大です」

「それが本当に子供なのか一気に胡散臭くなったんだが」

「愛の結晶を疑うなんて!」

「人の形の結晶を埋め込んだのか?」

「ちーがーいーまーすー。血が通ってますー」


 そんなに簡単に子供が生まれるなら少子化問題が解決しそうだ。

 間違いなく別の問題が発生するがな。


「んで性別は?」

「え?」

「いや、男の子か女の子か、もう分かってるだろ。ちなみに俺はどっちが良いか希望がある」

「ええと、その……お……」

「お?」

「ん」

「俺、息子と一緒にサッカーや野球するの夢だったんだよな」

「とこのこ」


 おんとこのこ。

 なんじゃそりゃ。


「進化した新人類が生まれるのかな?」

「ちょっと訛っただけです。ほら、私って地方出身だから」

「お前、江戸川区で生まれ育ったって言ってただろ」

「小さい頃、夏休みにちょっと北の方に旅行に」

「何日間?」

「二泊三日」

「その頃一週間くらいアメリカに行けば英語ペラペラになってたかもな」


 子供の頃は覚えが良いとは言っても限度があるだろうが。


「先輩は男の子が欲しいんですね」

「いや、女の子も欲しいぞ」

「なんでやねん」

「雑なツッコミありがとうございます」

「希望があるって言ったじゃないですかー」

「結晶より人間が良いなって」

「まさかのそっちの二択だった」

「いやー最初の子が非生物とかキツイっす」


 せめて生き物でお願いします。

 

「そんなことより先輩、責任取って下さい」

「強引に話を戻して来たな」

「明日出産だから、今のうちに話をしないと」

「その設定生きてるのか」

「責任……とってくれないんですか?」

「上目遣いになるのは止めろ」


 そういうのは真面目な時にやってくれ。

 勿体ない。


「しゃーないな。責任取るよ」

「嫌そうなのがすごく気になりますが、安心しました」

「とりあえず、お前の親父さんに挨拶に行かないとな」

「救急車呼んでおくので、頑張って耐えて下さいね」

「殴られること前提かよ」

「だってほらコレ」

「高校生のできちゃった婚。うん、そりゃあ殴られるわな」

「顔が変形しても私は先輩への愛は変わりませんから」

「え、お前の親父さん、そんなやべぇ人なの?」

「獣王会〇撃を打てそうな腕をしてます」


 こいつが獣〇会心撃を知ってることが驚きだわ。

 アニメの話題で会話したことないんだが。


「それは困ったな」

「応援してます」

「だが困ったことはもう一つある」

「何ですか?」

「このままお前と結婚して良いものかどうかだ」

「そんな!私を孕ませておいて!」

「この会話聞かれてたら俺達本当に終わりだな」


 思わず周りを見回してしまったぜ。

 隠れて聞いてる奴いないだろうな。


「この会話は冗談でーす!」

「突然どうした?病院行くか?」

「変な子扱いしないでください。先輩が不安がってたから念のためフォローしただけですぅ」

「そうか、ごめんな。お前が突然宇宙から怪電波でも受け取ったのかと心配でな」

「心配してくれたことを喜ぶべきか、変人扱いされたことを怒るべきか、悩ましいです」

「安心しろ、いつも変人だと思ってるから」

「えいっ!」

「いてぇ!」

「ふんだ」


 こいつ、足踏みやがった。

 少しやりすぎたかな。

 いや、この手加減の感じは、まだじゃれてる範囲内だ。


「それで、何が困ったんですか?」

「話まだ続けるのかよ」

「気になりますもん」


 そうだな。

 怒らせかけてしまったから、お詫びも兼ねて教えてやろう。


「いやな、キスするだけで子供が生まれるとなると、お前と結婚しても迂闊にキス出来ないなって」

「実は子供じゃありませんでしたー」

「変わり身早いな」

「やだなーキスだけで子供が出来るわけないじゃないですか」


 強引に丸めて腹に詰めたようで、鞄がぐしゃぐしゃだが中の物は大丈夫か。

 お菓子が一杯入ってるとか言ってたが潰れてそうだ。

 後で涙目になって不条理に俺を責めるんだろうな。


「それじゃあどうやったら子供が出来るんだ?」

「挿入」

「表現」

「先輩の真似しただけでーす」

「そこは照れた方が男心をくすぐるのが分からないのか」

「ええと……その……そ、挿入……ですか?」 

「その単語を使ってる時点でどれだけ恥じらってもNGなことが分かった」

「ぶーぶー」


 単語選びって超重要。


「それじゃあキスしても大丈夫ということで、んー」

「まだやるのか」

「当然です。ほらほら、かもんかもーん」

「相変わらず色気のない催促だな。でもキスすると子供が出来ちゃうんだろ」

「出来ませんからー」

「そうか、それはそれで残念だな」

「え?」

「俺は迂闊にキス出来ないから困るとは言ったが、結婚が嫌だとは一言も言ってないぞ」


 昨日の今日で、俺だって色々とそわそわしてるんだよ。

 あれが初めてだったんだ。

 意識しないわけ無いだろうが。


「あ、あの、それってどういう……?」

「子供が百人生まれようが二百人生まれようが、お前となら良いかなってことだよ」


 俺は後輩を優しく抱き寄せた。

 昨日みたいに不意打ちではなく、しっかりと目を合わせて空気を作る。


「せん……ぱい……」


 もちろん、百人や二百人程度で済むわけが無かった。

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