クラスメイトのクール系美少女を怒ったらベタ惚れされてしまった
「おい、トシに謝れ」
「はぁ?」
「あいつは何も悪いことしてないだろうが」
「うるさい」
「お前が何で男が嫌いなのか知らねーけど、俺のダチを傷つけるんじゃねーよ!」
「男なんて理不尽に暴力振るう危ない存在。痛い目にあって当然」
「じゃあお前も、お前が想像する男と同じだな」
「え?」
「俺のダチに理不尽に暴力振るっただろ。まさかアレが正当だなんて本気で思ってないだろうな」
「……うるさい」
「絶対にトシに謝れよな」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
「あ、おい!クソっ……」
逃げられてしまった。
しかしあいつ考え方がヤバすぎるな。
全世界の男を敵視してる感じか。
暴力がどうとか言っていたが、もしかして悪い男に騙された経験でもあるのか?
だとすると悪いことしたな。
あいつが悪いのは間違いないが、もっと言い方があっただろ。
はぁ~こんなんだから俺は彼女が出来ないんだよ。
俺が怒った相手はクラスメイトの
あまりの美貌に男どころか女でさえも虜にし、俺が通っている高校の女王に君臨する女だ。
普段は冷静沈着であまり感情を見せないクール系だが、男に対しては絶対零度の視線を向けて拒絶する。一方、女に対してはとても面倒見が良いので、クラスで浮くことが無いどころか、変なのが付きまとっている。
「こんなことしてただで済むと思ってないわよね」
「ああ!?」
「ひいっ!?」
「ぜ、絶対に後悔させてやるんだからね!」
いわゆる取り巻き、というやつだ。
坂巻の人気にあやかりたいのか、それとも純粋に坂巻が気に入っているのかは分からないが、彼女達は金魚のフンのように彼女の傍に寄り添っている。
また、坂巻の居ないところで威勢よく威張り散らしているので評判は悪い。
つーか、坂巻のことが心配ならさっさと追えよ。
そんなんだから坂巻を利用してるだけなんて陰口叩かれるんだよ。
俺は坂巻と取り巻き達が教室を出た後、今回の事件の原因となった奴のところに移動する。
「ま、ま、
「なぁに、気にすんな」
「でもクイーンを怒らせたら、これから誠殿がクラスで扱いが悪くなるでござる!」
「お前は一緒に遊んでくれるだろ。ならいいさ」
「惚れそうでござる!」
「キモいこと言うなよ」
ござるござると連呼するこいつは、高校で出来た友人の一人、
女子からは『キモデブオタク』などとキモがられているが、実際にデブでオタクなところは正しいからか、本人は気にしていない様子。
しかしこいつ、いつの時代のオタクの言動だよ、って感じでアレだが、見た目はそんなに嫌悪感が無いんだよな。痩せて身だしなみを整えれば化けるんじゃないかと思っている。
とまぁそのトシだが、今日はちょっとした不運に見舞われた。
昼休みに廊下を歩いている時に数学教師に声を掛けられ、今日配り忘れた課題プリントを配ってくれとお願いされたのだ。
仲良い人以外とは話が出来ないタイプの陰キャであるトシは、無言で各机にプリントを配っていたが、坂巻の所はずっと人が集まっていて近寄れない。
そのまま放課後になり、このままでは坂巻が帰ってしまうため、勇気を出して坂巻にプリントを渡しに行ったのだ。
だが……
「近づかないで」
「ひいっ!」
坂巻は差し出されたプリントを思いっきり手で振り払い、トシを強く睨んだのだ。
対人が苦手なトシにとって最悪の対応であり、あれはトラウマになってもおかしくないレベルだ。
それを見た俺が憤慨して坂巻に怒りに行った、というのが先ほどの事件の事情である。
「んじゃ俺も帰るわ。またな」
「誠殿!」
「ん?」
「今日は拙者のために怒ってくれてありがとうでござる」
「ははっ、気にすんな」
明日からが不安ではあるが、親友のこの言葉が聞けただけで良しとするか。
そして明日がやってくる。
登校した俺に向けられたのは女子からの敵意の視線。
昨日帰る時はそこまでではなかったので、あの取り巻き達が何かやったのかもしれない。
「誠殿、ごめんでござるぅ」
「だから謝るなって、しゃーないさ」
男子も触らぬ神に祟りなし、といった感じで俺達に近寄ろうとはせず、ハブられているような感じで俺達の周りだけぽっかりと空間が空いていた。
「(坂巻は来てないか。この状態で謝れって更にマシたらどうなるか逆に気になるな)」
もちろんそんなことはしないが。
今のところ、悪意の対象は俺だけだが、下手をすればトシにまで伝搬しかねない。
親友を傷つけられるくらいなら、そのくらい我慢するさ。
そうして針の筵のような朝の時間を過ごしていると、坂巻が登校してきた。
「坂巻さん、おはようございます」
「おはよう」
すぐに取り巻きが近寄り挨拶をする。
ここまではいつも通りの風景だ。
だが、異変はすぐに起こった。
なんと坂巻は、鞄を机に置いた後、俺達の方にやって来たのだ。
「え、あの、坂巻さん?」
取り巻き達は坂巻の思わぬ行動に戸惑っている。
もちろん俺達も戸惑っている。
「戸塚さん、昨日は失礼なことをして申し訳ありませんでした」
「は?」
声が出てしまったのは俺だ。
トシはあまりの驚きで魚みたいに口をパクパクしている。
他の人達はクラスごと氷漬けになったかのように、動きが止まっている。
それほどまでに、坂巻が普通に男子と話をしているということが異常な風景なのだ。
「それと、プリント渡してくれてありがとうございます」
誰だこいつ。
男に対するあの苛烈な視線は何処行った。
その後、坂巻は俺の方を向く。
「
「いやまぁ、俺はトシに謝って貰ったからそれで十分だけど……」
てっきり、昨日の事は無かったかのように徹底的に無視するか、俺に嫌がらせでもしてくるのかと思っていたので、この展開は想定外だ。
しかも坂巻は、単に義務的に謝罪の言葉を紡いだのではなく、本気で申し訳なく思ってそうに見える。
そうだ、昨日は俺も言い方が悪かったから、俺も謝らないと。
「それにこっちこそごめんな。坂巻さんが男が苦手だって知ってたのに、キツイこと言っちまった」
「いえ、気にしないでください。私が全面的に悪かったので」
誰だこいつ(二回目)。
いくらなんでもいきなり態度がこんなに激変するなんておかしくね?
でもまぁ、今の方が普段よりよっぽど良い感じだ。
「俺らも無理に近づいたりしないからさ、今回みたいにどうしようも無い時は今みたいな雰囲気で接してくれると助かる」
「はい、もちろんです」
「ぶっちゃけ今の感じの方がす……良いと思うぜ。もちろん、雰囲気があんまり柔らかくなりすぎると勘違いした馬鹿野郎共が困らせるだろうから程々が良いとは思うが」
あっぶねー
好きとか言っちゃうところだった。
他意は無いんだけれど、やっぱり下心があったんじゃないか、って疑われてめっちゃ怒られるところだった。
おや、坂巻が少し俯いているけれども、大丈夫だよな。
俺、やっちゃってないよな。
余計な事言わないで、話をすぐに切り上げれば良かったよ。
俺が怒っちゃったのを変にフォローしようとするからこうなるんだ。
はぁ……やっぱりこんなんじゃ俺には彼女は出来ないな。
その考えは間違いだとすぐに気づかされることになる。
他ならぬ、目の前の人物によって。
坂巻は少し間をおいて顔を上げる。
その顔は、クールとは程遠く真っ赤に染まっていた。
「綾小路君、好きです」
…
……
………
「「「「「「「「ええええええええー!!!!!!!!」」」」」」」」
氷漬けとなっていた教室が氷解し、逆に燃料を投下されて大騒ぎになってしまった。
「え、え、今、何て?」
難聴系主人公になるのも仕方ないだろう。
だって、どう考えてもこうなる展開は予想できないだろ。
耳を疑うのは当然のことだ。
「好きです。大好きです。私と付き合って!」
「うわ、近っ!」
坂巻は一気に俺との距離を詰め、俺の手を取って潤んだ瞳で見つめてくる。
その表情は蕩けており、恋する異性を強く意識させるものだった。
誰だこいつ(三回目)。
感情の起伏が乏しいクールなクイーンは何処行った!
完全に恋する下町娘的な雰囲気なんですけど。
おい、顔を近づけるなって、めっちゃ可愛い。
これヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、語彙力ヤバイ!
てんぱってしまった俺は、彼女の告白に対して即答してしまった。
「ごめんなさい!」
「「「「「「「「ええええええええー!!!!!!!!」」」」」」」」
再度爆発的に揺れる教室内。
いつの間にか他のクラスからも人が来て廊下が人だかりになっており、そこからも叫び声が聞こえてくる。
そりゃあまぁ、学校中が認める美少女からの告白を断ったりしたら驚きだよな。
そして当の坂巻だが。
「ふぇ」
「ふぇ?」
「ふぇええええええええん!うわああああああああん!」
「お、おい、ちょっ!」
まるで子供のように泣き始めたのだった。
くそぅ、これじゃあ今度は別の意味で針の筵状態になっちまうじゃねーか!
その日は誰も彼もが授業に集中出来ず、クラス全体が戸惑った雰囲気に包まれていた。
普段は全く見せない姿を晒し、しかも公開告白をした上で振られるという坂巻の驚きのムーブに対して、誰もがどう対応して良いか分からず声をかけ損ねていた。
俺に対しては、今度は男女から負の感情が篭められた視線が突き刺さっているけどな!
そして昼休みの時間がやってきた。
「綾小路くん、一緒に御飯食べよう!」
坂巻は弁当を食べようとしている俺とトシのところにやってきた。
「いや、俺はトシと食べるから。それに朝のアレは断ったはずだけど……」
「友達として一緒に食べたいの。いいでしょ、ね、いいでしょ」
だからほんと誰だよコイツ。
こんな甘ったるい声を出す人、知らないんですが。
「ま、まぁそれなら」
「やった、じゃあ隣座るね」
「お、おい、それは友達の距離じゃないだろ」
「なんのことかな~」
こいつ、めっちゃ隣に近寄って来た。
肩が触れてるじゃねーか。
甘い香りがして脳が蕩けそうだ。
「友達は腕を組んだりしないから」
「なんのことかな~」
「右腕抑えられたら飯くえねーし」
「私が食べさせてあげるよ」
「それは絶対友達じゃねぇ!」
俺、断ったよな。
なんでこいつは恋人ムーブをかまして来るんだ。
お前めっちゃ可愛いんだから、こんなことして襲われても文句は言えねーぞ。
というか、男嫌いって話は何処いった!
「せ、せせ、拙者はあっちで」
「トシは友達だよな!」
逃がさん。
トシが居心地悪いのは分かっている。
だがここで坂巻と二人っきりになるのは色々とヤバイ。
クラスメイトの視線とか、俺の理性とか、坂巻がより暴走しそうだとか、とにかくヤバイ。
「誠君のお弁当美味しそう!」
いつの間にか名前呼びになっている。
全く遠慮せずに全力で攻めてくる。
こいつ好きな人相手にはクールどころか情熱的になるタイプだったのか。
「坂巻さんの弁当もうまそうじゃん」
やば、反射的に答えちまった。
これは食べさせてあげようか攻撃のフリじゃねーか。
返答に失敗したが、旨そうなのは間違いないんだよな。
俺のは母親が作った弁当で、半分は冷凍食品だ。
だが坂巻の弁当は全部が手作りで、しかも手が込んでいるものが多い。
「ほんと!?ありがとう!」
うわぁ、やめてくれ、満面の笑みでこっちを見ないでくれ。
あまりにもかわいくて抱きしめたくなるだろうが!
「それじゃあさ、私が誠君のお弁当も作ってあげよっか」
「え?どういうことだ?まさかこの弁当、自分で作ってるのか?」
作ってあげる、の部分は意図的に無視してみる。
手間がかかる弁当を自作していたことが純粋に気になったというのもあるが。
「うん、私料理が好きなんだ。だからお弁当も自分で作ってるの。誠君の好きな料理は何?」
「秘密だ。自分で作るとかすげぇな」
これまでは専属の料理人にでも作らせている女王的なイメージがあったが、自分で作ってるなんて言われたら一気に親近感が湧いたな。
弁当の内容も一般的なものが多いし。
って危ない危ない。
俺は別に坂巻と付き合う気が無いんだって。
このままでは押し切られてしまう。
「え~教えてよ~」
「言わん」
言ったら作って来るって言うだろ。
嫌いなものがあるかもしれないのに弁当を作るのは不安なはずだ。
このまま俺の好みは秘密にして、この話を無かったことにしよう。
「さ、坂巻殿!」
「?」
「お、おい、トシ」
そう思っていたら、トシが坂巻に話しかけて来た。
流石に俺以外にはクールで対応したいのか、坂巻の表情から笑顔が消えて元の冷静な顔でトシの方を見た。
ただ、これまで男子に向けていたような厳しい視線が無いので、トシは怖がらずに済んだようだ。
「誠殿の好物は筑前煮でござる」
「トシ!?」
「後、普通に弁当に入れるものなら、嫌いなものは無いと思うでござる」
「ほんと!?戸塚さん教えてくれてありがとう!」
余計な事言いやがって!
裏切ったな!
「もう一つ教えるでござる。誠殿の女性の好みは『包容力のある年上の女性』でござる」
「何言ってんの!?」
俺、そんな話をトシとしたことないんだけど。
なんで知ってるの!?
というか、知ってても言うなよ!
「包容力……年上……」
坂巻は自分の体の一部を見て落ち込んでいる。
いや、包容力って言うのはそこじゃなくて、雰囲気的な話で、いや、そこも好きだけど、でもそういうんじゃなくて、そもそも坂巻は十分あるし、って何で俺は脳内で言い訳してるんだよ!
「でも安心するでござる。誠殿は面倒見が良い人で頼られるのが好きでござるから、坂巻さんが甘えればきっと受け止めてくれるでござる」
「!!」
「マジでやめろって!」
そんなこと言ったら、坂巻の攻勢が強くなるに決まってるじゃないか。
そりゃあ甘えられるの嫌いじゃないけど。
好きだけど。
ヤバイ、マジで押し切られる!
「坂巻殿を応援するでござる。ということで拙者は向こうの同志に話があるからそっちでご飯を食べるでござる」
「え、ちょっ!」
「戸塚さんありがとう!」
しまった、逃げられた。
俺を動揺させて脱出する作戦だったのか。
何故だ!親友だと思ってたのに!
「えへへへ」
「……」
「お弁当、期待しててね」
ダメだ、もう逃げられない。
あれ、そもそも何で俺、断ったんだっけか?
--------
「それは誠殿が坂巻殿を怒ったのを後ろめたく思ってるからではないでござるか?」
「う~ん、俺は別にもう気にしてないんだけどな」
「そうでござるか。そこが関係しているように見えるのでござるが……」
「でもトシが言うならそうかもな。少し考えてみるよ」
トシは『人を見る目』がある。
そしてそれは、まだ付き合いが浅い坂巻も気が付いていた。
例えば、坂巻に告白されてからしばらくした後、こんなことがあった。
「坂巻さん、どうしてそいつにそんなことするんですか!」
「そうです、坂巻さんを怒鳴った人ですよ!」
「何か弱みでも握られてるんですか!?」
「お前ら本人を前に良くそんなことが言えるな」
坂巻は俺に四六時中べったりで、俺の右腕はご飯を食べる時と授業を受けている時以外は常に彼女にキープされていると言っても過言ではない。
俺の右半身には彼女の香りが染みついているのではと思えるくらいの密着っぷりである。
「むー、
「知らん」
油断すると恋人繋ぎを狙ってくるから、握り拳を絶対に解除しないようにと毎回大変なのだ。
むくれる坂巻が可愛いから意地悪してるんじゃないぞ。
ほんとだぞ。
それはそれとして、取り巻き達は俺が居ないときに坂巻に話をしたかったのだろうが、こんな感じなので諦めて俺がいる時に話をしてきたのだ。
「誠君を悪く言わないで。それに、私が誰を好きでも関係ないでしょ。それとももしかして誠君を狙っている人がいたの?だったらごめんなさい。でも絶対に私は譲らないから」
「こらこら、睨むなって。彼女達が怖がってるだろ」
「えへへ、誠君優しい」
俺以外にはやっぱりクールであろうとするんだよな。
もっと感情豊かに怒ったら……可愛くて効果が無いか。
もしかしてそれが分かってて狙ってクールぶってるのか?
どうにも、こっちの甘えてる方が素な気がするんだよな。
なんとなくだけど。
「で、でしたらせめてあの『キモデブオタク』とは近づかないでください!」
「そうです!坂巻さんが近づくだけでも嫌です!」
「坂巻さんにふさわしくありません!」
おうおう、好き勝手言ってくれるじゃねーの。
怒りたいとこだが、気持ちは分かるからなぁ。
見た目が悪いのはあいつの自業自得なところもあるし。
「そんなこと言っちゃダメ」
「でも!」
「むしろ貴方達も、彼と接点を持つべきだわ」
「え~」
驚いた。
まさか坂巻がそんなこと言うなんて。
てっきり、俺の友人だから嫌々ながら最低限の会話だけしてるのかと思った。
「推薦する理由は二つあるわ。一つは彼の見た目は大きく改善の余地があること。そしてもう一つは彼の観察力」
「どういうことですか?」
うお、まさか気付いていたのか!?
「嫌がらずに彼を良く見て。背はそれなりに高くて顔の造形も悪くはないわ。彼が人並みに痩せて身だしなみを整えた姿を想像出来ない?」
「……」
「彼は恐らく彼女からの要望に答えるタイプ。扱い次第では化けるわよ」
「で、でもあのキモイ話し方は嫌です!」
「あれも人を近づけないためにわざとやってるだけね。お願いすれば変えてくれるし、自然に会話出来るようになると思うわ」
うわ、俺と全く同じこと考えてる。
なんか嬉しいな。
おうふ、俺の中での好感度が上がってしまった。チクショー!
「もちろん今が酷いのは当然だから、嫌うのも分かるけどね。もし相手を自分好みに変えるのが好きな人がいるなら狙ってみると良いわ」
「……そっか」
「え、あんたまさか」
「ま、まっさかー」
取り巻きの一人が、ドSな表情を浮かべたような……
がんばれ、トシ。
「もう一つは観察眼。彼は人の良いところや悪いところが見えてしまうタイプね。だから、もし気になる人が見つかったら、その人と彼を会わせるのよ。そうして中身を見て貰うの。そうすれば
「そのことは言わないでくださいよー!」
その後も、坂巻達は、いかにしてトシを活用するか話し合っている。
女って怖い!
というか、俺が坂巻と関わったせいでトシの人生が波乱万丈になりそうだ。
長くなったが、こんな感じでトシの観察眼は坂巻のお墨付きだ。
そのトシから見ても、俺が何故坂巻を受け入れないかの理由ははっきりとは分からないらしい。
「それなら、怒ったのに好かれたのが不思議だからではないでござるか?」
「あ~それはあるな。むしろ嫌われると思ってたし」
何で坂巻は俺を好きになったのか。
それがマジで分からない。
きっかけは確かに怒ったことだと思うが。
「普通、怒られた相手を好きになるか?」
「そういう性癖かも知れないでござる」
「実はドМだったってか?」
「二次元ではよくあるでござる」
「まさっか~」
「「はははははは」」
もしそうなら、あの怒られた時に嬉しそうにするはずだ。
隠していたのかもしれないが、俺には本気で苛立っていたように見えた。
怒られて、苛立って、それが良かった。
そんなことあるのか……?
そして素直に謝って、俺も謝って、今の姿の坂巻の方が良いって軽く褒めたんだよな。
そういえばあいつ、男は暴力振るうのが当然だみたいなことも言ってたな。
ん?
これってもしかして。
「な、なぁトシ。普段は女性に怒鳴ったり暴力奮う癖に、都合の良い時だけ優しくする男って、どう思う?」
「典型的なDV男とそれに靡く女でござるな。拙者には理解出来ない世界でござる」
はいアウトー!
怒った後に優しい言葉をかける。
確かにDV男と同じやり口じゃねーか!
最低だ!俺!
そして坂巻はDV男に惹かれるタイプかもしれないのか。
心の何処かでこのことに気付いてたから、俺は坂巻の想いを受け止められなかったのか!
うわ、嫌な汗出て来た。
俺はそんなつもりじゃないのに。
いやいや、焦る必要は無いか。
俺は別に変なことはしてないもんな。
そうだよ、あいつが嫌っていた男のように理不尽に怒ったわけじゃ無いんだからセーフだセーフ。
しかし、もし本当にこれが原因で俺が好かれたとしたらどうすりゃ良いんだよ。
「まーこーとーくん。難しい顔してどうしたの?」
恒例となった柔らかい感触が俺の右半身に伝わって来る。
俺の事を無条件で信頼し、相変わらず好意を全く隠さずに伝えてくる。
そんな坂巻に言うのか?
俺は無意識とはいえDV男と同じ手口で坂巻の気を引いた最低な男だ。
だから付き合えない、と。
いや、そうじゃないだろ。
別に俺は悪いことをしたわけじゃないってさっき思っただろ。
それに、大事なのは俺の気持ちと坂巻の気持ちだ。
俺がDVがどうとか口にしたところで、誰が幸せになる。
そもそもこれから先、坂巻に暴力を振うつもりなんか全く無いしあり得ない。
自分で言うのもなんだが、俺は大切な人を溺愛するタイプだと思っている。
だったら後は、俺が勇気を出して坂巻を受け入れて、坂巻がどんな性癖であれ幸せにすれば良いだけだろう。
坂巻は常に幸せそうでかわいらしい笑顔を俺に向けてくれていた。
だが、俺が勇気を出したその日、その笑顔にはまだ上があることを知った。
なお、余談ではあるが、玲香の父親が言わるゆるDV男であり母親が暴力に苦しむ姿を見ていた為、玲香は男を憎んでいたそうだ。
交際が進み、玲香はその言いにくい家庭の事情と共に、俺に惚れた理由も教えてくれた。
「理不尽じゃなくて、ちゃんと怒ってくれたのが嬉しかったの」
そのことを聞いて、僅かに残っていた胸のつかえが取れた気がした。
まぁ、俺の胸は焼ける程に愛情が詰まりまくっていて、そんなつかえの存在は忘れかけてたんだけどな!
「まことくーん。んー」
「いや、流石にここでは」
「大丈夫だって」
「ここ教室なんだが!?」
俺が玲香の想いを受け取ってから、彼女の攻勢は更に勢いを増すことになった。
「まことくんが望むなら、ここでシても良いよ?」
「こら、制服をはだけようとするな。まるで他の場所ならやってるような誤解を招くようなこと言うな」
「けちーでも好きー」
結局俺は、全校生徒から負の視線を受けて居た堪れない幸せ過ぎる高校生活を送る羽目になったのだった。
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