掌編のゴミ箱

夜凪惰 らく

第1話 最低な幸せ者




 私は幸運体質だ。

 それも、アイスの蓋を開けたらハートになってるとか、自動販売機の釣り銭口に前の人の取り忘れがあったとかそう言う話ではない。

 宝くじを買えば絶対に当たるくらいの超絶幸運体質。

 

 けれど、私はこんな自分が嫌いだ。


 私を気味悪がってなのかわからないが、人が寄りつかないし、やる事なす事全て幸運のせいで上手くいく。報われる努力など許されない。何をやっても無駄なのだ。


 だから、死のうと思った。

 

 思ったは良いものの、独りは寂しい。今まで誰も一緒にいてくれなかったんだから、最期くらい誰かといたい。


 そう思い立って、SNSを使ってある女の子と出会った。

 彼女も自殺願望があった。理由は超不幸体質。

 私とは逆で少し羨ましいと思ったが、彼女の体質と私の体質があれば相殺して確実に死ねるのではないかと思い、彼女を誘って心中することにした。


 それからの日々は目まぐるしかった。正反対の私たちだったけど、歯車が噛み合うみたいに気が合って、沢山の意見を交わした。

 特に盛り上がったのは自殺の方法についてだ。私も彼女もどうせ死ぬならと、理想的な死に方、楽な死に方、意外性のある死に方など、こだわりのある死にしようと2人で調べまわった。


 高所や水辺がある絶景地。廃墟、廃ビル。遊園地、デパート。学校。海の見える無人駅を通る電車。

 充実した毎日だった。今まで誰かとこうして生きてこなかったから特別に感じられる日々に生きているという実感が湧いた。

 

 けれど、そんな私たちにも確実に死の足音は迫ってくる。

 結局、死に方は「百合の花」を使って行うことになった。百合は少量でも口に含めば毒性によって死に至るらしい。これは綺麗な死に方だと、2人とも賛成だった。


 決行当日。百合に加えて睡眠薬を飲んで確実に死ねるよう準備して、ベッドの上に2人で横になる。


 「おやすみ」彼女はそう言うと、私の頬に口付けをしてきたので、私も同じようにした。

 この一言を交わし、私たちは眠りについた。頬に残る暖かさと、幸せな思い出を抱いて。

 





 翌日、遺体が発見された。






 第一発見者は私だった。






 彼女だけが私を残して息を引き取っていたのだ。

 この時の私の中にあった感情は、悲しみとか絶望とかねたみとかそねみとかそんなものではなかった。




 ただ、こう思っていた。






「ああ。今日も私は幸運だ。最低な幸せ者だ」と。

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