傲慢

1+1≒2

episode1 Hello My World.

ふと目を開けると大空が広がっていた。空に浮かんでいるようなそんな感覚があった。しかし、気付くと木々も何もない草原に私は横たわっていたのだ。


(不思議な感覚だ…)


少しして、ゆっくりと起き上がると果てしなく広がる世界がそこにはあった。

ここはどこなのだろうか…

なぜだかわからないが、無限の可能性を感じ、ウキウキする気持ちが高まった。

そう、私はすぐにここが異世界である事を理解した。


(こんな夢みたいなことが現実にあるのか…)


私自身は、昔から現実主義者であり完璧主義者でもあった。そのためか、今の現状を把握するのに、二つの思想が楽しく喧嘩をしていた。

こんなことはないと思いながらもそれを理解し、今すべきことは何なのかを把握したい。そんな気持ちを抱いていたら、空から声が聞こえた。


「そこの髪の長いお人」


私は、あたりを見回しても何もいない。何回も何回も周りを観察しても何もみつからなかった。


「ねえ、反応して

 なぜ反応しないの…純白な肌で痩せたそこのお人!」


声のする方へ目を凝らすと空の彼方に一人の女性が立っていた。その女性は、汗を少し垂らして私を見つめていたのだ。


「やっと目があった、あなた…いや、なんでもない

 ところで、なんでそんなところで、裸で立っているのかしら」


私は、その女性に言われてやっと自分自身を見た。そこでやっと気付いたのだが、私は草原の真ん中で全裸のまま、立っていたのだった。


「……」


その女性に返事をしようと声を出そうとすると何も言えなかった。恥ずかしい姿を見られて思った以上に声が出なかったのかもしれない。


「声が出ないの?まあここだとそうなることもあるかもね。しょうがない、この服を貸してあげる」


そういって、その女性は私に向かって、空を歩いて近づき全身を覆うようなローブを渡してくれた。


「……」


私のせいで、この女性に面倒をかけたと心に感じた。声が出せないが、心の中でごめん、申し訳ない、すみませんと何回も唱えた。


「声が出せないならしょうがないわよ、まあとりあえずそれ着てくれる?私の目のやり場に困るわ」


私はそう言われて、すぐにローブを着込んだ。そのローブは、なぜだかいつもそこにいたような温度感があった。その女性をあらためて見たら、絶世の美女と言って良いほどの容姿だった。髪の毛は後ろで綺麗に束ねられており、艶のある黒髪が風に吹かれてなびいていた。


「改めて、私の名前はデューロよ。この近くの…うーん…聖職者ってところかな。ここでは多くの人が迷うから見回りしてるの。あなたもその一人よ」


その女性の名前を聞いて、私はなぜだか強い吐き気と頭痛を感じた。どこか懐かしさがあってなのか、それともこの異世界の環境が自分に合わないのか。自分でもわからなかった。


「ここは間も無く、火で包まれるから早く退散した方が身のためよ」


さすが異世界といったところだろうか。前にいた世界ではあり得ないようなことが起こるみたいだ。その話を聞いて、ワクワクしている自分がいた。


「なんでそんなに嬉しそうなのよ…そうね、いくあてもなさそうだし私についてくる?」


私は、声が出せないのでこくりと頷いた。


「ここら辺は、変な魔物もいないから安心してね。じゃあ、行こうかしら」


私は、デューロと話しながら、言われた通りに彼女についていった。彼女と一緒にいるとなぜだか安心するような気がした。しかし、話をしすぎると吐き気に襲われることもあった。

彼女は、長く寄り添ってくれた温かい人というような印象だった。

彼女は道中に不思議なことを私に言った。


「ここでの迷い人はたまに、町に入ると駆け出して逃げてしまうの。さらに、不思議なことに逃げ出した人はまたどこかに消えてしまうのよ。あなたがそうならないと嬉しいのだけれども…」


それを言われて私は全くもって実感が湧かなかった。町の人が自分に敵意を向けてきたならそうはなりそうだが…


「あなた…町の人たちが悪いことしたと思ってる顔ね。そうじゃないのよ。みんな、優しく接しているのよ」


「でも、なぜかね…」


彼女は、何か原因を知っていそうな気もしているがそうでもないような気もした。


話しているうちに、町が見えてきた。立派な塀で囲っており、その町並みはいわゆる漫画やアニメで見るような異世界の町という印象であった。


「町に入ったら、役場に行って申請をすると良いわ。身元がわからない人用に、働き手やら色々とサポートしてくれるわよ」


私は、またこくりと頷き、役場まで歩いた。町の人は、デューロが言ってくれた通りとても優しい人だった。役場まで歩くと、一つだけ他の町並みとは浮く建物があった。その建物を見つめた瞬間、僕は突然走り出したい気分となった。


「待っ…」


彼女の言葉を聞くよりも先に足が動いた。

その気持ちは、抑えきれず、走った。全力で走った。走って走って、町を出ようとした瞬間、町人が大きな声で、


「そこの若いの

 大丈夫か、無理せんでゆっくり休みな」


その言葉は、自分に突き刺さる言葉だった。この言葉は言われたくなかった。


「ぜ…ぶ、ぜん…、僕のせいだ!!!」


そう叫んだと思った瞬間、プツリと意識が飛んだ。気付いたら、また元の場所に戻っていた。

そして、心を落ち着かせるように、ゆらゆらと揺れて空を仰いでいた。


ここが、僕の一番安らぐ居場所。

僕が、ここに行きたいと望んだ場所であった。誰にも邪魔はされたくない。


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