スパイダー・シルク

村崎愁

第1話 武器

それはそれは見目麗しい女だった。

 女の名前は美咲という。その人生たるや美しく咲くものとして思われた。



 小学高学年の時、父から金で売られた。相手は父の友人で、美咲が成長するのを待っていたようだ。

行為の途中にどれほど「痛い。助けて父さん」と叫ぼうが酒を呑んでいる父が、ふすまをあける事はなかった。


 それは幾度も続き、中学生になり美咲は友人宅を転々とする。

二年生に上がる頃には援助交際を行い、女の武器を磨き生き抜いていった。

 家に帰ることももうないし、これからもこうして生き続けると思っていたが、美咲は相場の高い”膣内なかに出す”というオプションで想定外に妊娠してしまう。


 誰の子かもわからないし気持ちが悪い物が腹に居ると思え、産むなど考えられず即、学生でも堕胎できる闇医者に行き子を堕ろす。

「君は今までで一番若い。あ、あと今後妊娠は出来ないと思う」と医者は告げた。

 処置が悪かったのか、性病を放置していたためか、その後何をしても美咲が妊娠することはなかった。



 良いのか悪いのかわからないがその時の美咲にとっては都合が良く、気軽にオプションをつける事ができた。

 高校生に上がることなく、すぐに年齢を偽り風俗店で働いた。そこは店舗型ヘルスと呼ばれる所で、挿入はできない。

 だが秘密裏ひみつりに本番行為を行い金銭をもらっていた。

 美咲はスタイルも良く美しい容姿であり、ナンバーワンになることなど必然だろ

う。

 そこの給料にも不満を持ち、次はソープでマット無しの本番行為のみの店に移動した。

 数で物を言わせる。客が帰ればおしぼりで拭き、次の客へと続く。

身体はきついが、帰りしなに貰える給料の多さで満足していた。

 そこでも美咲はナンバーワンになった。スカウトの数は計り知れずどんどんと高級ソープへと移動していく。

月給は月に六百万円を超えていた。

高級ソープは短い時間で二時間で客とゆっくり話す時間もある。


「美咲、そろそろ返事をくれないか」芸能プロダクションの代表取締役を務める渋谷

は行為が終わり優しく美咲の髪を撫でながら聞く。

「んー…」美咲は風呂場のタイルに目をやり、考えるふりをした。

「月に二百じゃ足りないか?三百なら払えるから」渋谷は金で美咲を囲う腹積もりで提案をしてくる。


 複数人と行為をして六百万円。一人で月に二回程度で三百万円。

答えは決まっていたのだが、焦らすことで金額の引き上げを思案していた。

「それならいいかな。マンション買って準備してて」美咲はそこで暮らすことになる。今までは寮で生活していたので、互恵ごけいな案であった。


 辞めるのには店とスカウトからの引き留めに合い、かなり苦労をしたが、最終的に一週間後には辞めるという結果に至った。


 

美咲は店の最後の日に来た川辺という男になぜか胸がときめいた。

 こんな事は生まれて初めてであり戸惑う。見た目は至極普通で内気。稼ぎも美咲よりはるかに少ないだろう。

 話を聞くと仕事は営業で接待があり無理に連れてこられたのだという。

家には娘と息子、それに妻がいる。普段より丁寧に奉仕をした。


 スマートフォンの待ち受け画面は子供たちが笑っている。わかりやすく胸が痛んだが、どうにか連絡先を交換することができた。

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