/// 25.オリベイル侯爵家の指名依頼
やっとの思いでレベルが100となったサイコ。これで遺跡に挑戦できる!そう思っていたのだがオリベイル侯爵家からの急な呼び出し。どうなるサイコ!
どうしてこうなった・・・
早朝、指定された午前8時に到着するようにギルドを出る。昨夜は準備でそれなりに忙しかった。借りていた部屋は、幸い前金としてもらった金貨5枚のうち3枚で1ヵ月間借りることができた。旅支度として魔力の流れを良くする魔力効率アップの指輪を金貨2枚で購入した。これで前金がなくなったのでなんとか無事依頼をこなして報酬をゲットしたいところだ。そう思いながら浮遊と短距離転移を繰り返し目的の侯爵家の屋敷へと向かう。
目的地に近づくにつれ、見渡す視界に豪華な屋敷が見て取れる。高級住宅街か。そう思いながら一緒に行くと最後までぐずってたウィンが書いた略図を見ながら目当ての屋敷を探す。目印となるこの国の象徴である麦の紋章が入った旗が掲げられている屋根を発見したので、その屋敷の庭めがけて転移する・・・が、転移自体は発動したのだが途中で何かにはじかれるように飛ばされそのまま地面に激突・・・する前に浮遊をつかって一度体を浮かすと体勢をととのえ足から着地する。そして厳(いか)つい男が二人、目の前に転移してきた。
「何者だ。ここは侯爵家と知っているだろう。転移しても無駄だバカめが!・・・っと子供か?」
「あっ失礼しました。私はサイコと申します。今日はオリベイル侯爵家様から頂戴した依頼を受けに参りました」
すぐにさっきのは結界のような物にはじかれたこと、この二人は門番のようなものかと思い至り、自分の境遇を説明する。
「そうか。貴殿がサイコくんか。エイル様には伺っている。しかし結界については知らされていなかったのかな?こういった貴族のお屋敷にはもれなく結界付きだから覚えておくといい」
そういうと右手を前に出し握手を求められたので、丁寧に応じる。
「随分と礼儀正しいな。レベルもまずまずだし。どんな依頼かは伺ってはいないが頑張るんだよ。あっ紹介が遅れたな。俺はトンズラ。そしてこっちがナマイキ―だ」
「よろしくお願いします!」
その門番はトンズラというらしい。門番なのにトンズラか・・・そしてこの礼儀正しくお辞儀しているのがナマイキ―か・・・言語疎通がバクってるか女神のいやがらせなのか・・・覚えにくいな・・・そんなことを思っているサイコも、二人に連れられて屋敷の正面にある門をくぐる。屋敷の前にはかなり大きな庭が広がり、左右には芸術的な手入れされつくされた木々が並んでいる。屋敷まで続く道は石畳であるがおそらく良いものだろう。輝きが違う。そう違いのわかる男、サイコなのである。とここに来てからちょっとおかしなテンションになりつつあるのだが、突如屋敷の扉がダンッ!という轟音とともに開かれ、そこには金髪ロールの美しい依頼主様が降臨されたのだ。
「遅かったわね!サイコ!っていうかなんで来ないの?約束は守るものよ!」
すでに左右では膝をついて頭(こうべ)を垂れている門番二人。その中で理不尽ながらも言い訳を考える。
「いえ、オリベイル侯爵家のお嬢様から頂いたありがたい言葉が、社交辞令ではなく本位であったなど、田舎ものな私には分かりませんでした。お許しください」
門番と同じように膝をつく。
「そんなことはいいのよ!さっさと入りなさい!」
そういうと、カトレアは踵を返して屋敷へと戻っていった。しばらくそのままの態勢で左右を見て門番ズと目を合わせ、互いに苦笑いする。
そしてまた怒られないよう、立ち上がって二人に例をすると屋敷に向かって歩き出した。屋敷の扉をくぐると「いらっしゃいませサイコ様」と左右に並んでいるメイド服の女性たちに挨拶をされ、次の瞬間には開いていた扉が閉じられた。外観もすごかったが中身もまたびっくりな豪華なつくりであった。そして中央の大きな階段の下には見知った執事の顔があった。
「サイコ様、カトレア様がこちらでお待ちです」
そういうと階段を上がり踊り場からは左右に続く階段を左に曲がる。上がった先の左手奥がカトレアお嬢様の部屋のようで部屋の扉の前でエイルがノックをするとすぐに「はいりなさい!」と返答がある。というかお嬢様は俺に文句を言うためだけにさっき下まで降りていたのか・・・と思うと少し楽しくなってきた。待ちかねてたのかな?そんな思いがあったのは事実である。この部屋に入るまでは。
「レディーを待たせるなんて随分偉くなったのね!」
そう言ったのはもちろん、豪華な飾りのついた椅子にドカンと座ると足を斜めに組み、左右のひじ掛けに肘をつきながら、お腹の前で手を組んでいるカトレアお嬢様がフンスッ!とばかりにドヤ顔で待機していた。あっけにとられながらも「お待たせしました」と再度頭を下げる。
「まあいいわ!しょうがないから私が呼んであげたのよ。前回あった時には学園の帰りで少し疲れていたものね。あまり構ってあげられなかったから拗ねる気持ちはよくわかるわ!」
なんとも勝手な物言いである。が、依頼主様であられるので穏便に事を運べるように言葉を選ぶ。
「前回の時も今回の依頼についてもありがとうございます。おかげでここ帝都での暮らしも慣れてまいりました。今回の依頼で先に私が呼ばれた理由はわかりかねますが、お役に立てるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします」
「ねえ・・・なんか固くないかしら?他の貴族のおっさんとしゃべってる感じがしていや・・・」
そんなことを言うものだからさすがにため息が漏れてします。さっきまでに態度はごっこ遊びのようなものなのだろうか?ここはフランクに行くべきか・・・でも失礼な態度で首が飛んだりしないだろうな・・・レベル100になったとはいえ、エイルさんにかかれば瞬きしている間にこま切れになる自信があるし・・・だ、ここは覚悟を決めて・・・
「あーーじゃあ普通にはなして不経済で打ち首とか・・・ないですよね?」
「ナマイキね・・・エイル!」
「はっ!」
お嬢様の声の後、エイルが返事をする前にサイコの背後には何かしらの圧を感じた。そして動けなかった。死を感じた。もう死んだなこりゃ・・・短い人生だった・・・そう感じていた。
「思ったより狼狽えないものね。冗談に決まってるわ!普通に話していいわよ!」
そののんきなお嬢様の言葉を聞いてドッと疲れが出てそのまま前に突っ伏した。
「ふーー死ぬかと思った・・・というか心が死んだ・・・」
そう嘆くサイコの後ろで「ふぉっふぉっふぉ」と悪乗りで殺気を飛ばしていたエイルの発した笑い声に、若干殺意が沸いたサイコだったが、それを表に出すほど馬鹿ではないので「ハハ・・・ハハ・・・」とただただ弱々しい笑い声が漏れたオリベイル伯爵家の朝であった。
「で、2日も早く私だけが呼ばれたのはどういうことでしょうか、お嬢様?」
「そうね。まだ渡り人として来たばかりで慣れてないかとおもって。色々教えてあげようとおもったのよ。お姉さんとしてねっ!」
そういって椅子から降りると、腰に両手をあてて胸を張る。ここで「胸はないだろ」と心に思ってしまった人には、エイルが真夜中に枕元に立つという強い呪いがかかったポーズなので絶対に触れないでほしい。
「あっ、でも私、ウィンさんとか訓練所の人達から色々教えてもらいましたし、レベルも100まで行きましたら・・・大体わかるようになってますけど・・・」
渡り人ということは当たり前にようにばれていることに呆れながらも反論する。
「だから早く来いって言ったのよ!私がきっちりかっちり教育して上げようと思ってたのに!お姉さんとしてっ!」
先ほどのポーズは一緒だが、その口元はぐぬぬと食いしばられている。
「それは・・・どうもすんません」
「まあそれはどうでもいいわ!とりあえず、今日と明日で貴族に使えるための教養をお勉強したらいいわ!」
「あまり必要なさそうなんですが・・・」
「あら、私に仕えるのは嫌なの?そうじゃなくても、俺ツエー無双していずれ王族と結婚!とかが目標だったら必要になるんじゃないの?」
そういって何かしらの思いがこもった笑顔を見せるお嬢様。「俺ツエー無双していずれ王族と結婚」って転生者の鳴き声か何かという感じでつかわれているのだろうか。そう思いながらも逆らう気力もなく、流されることを良しとしたサイコは、この後は豪華な食事とメイド長からの食事のマナー、執事エイルの従僕としての世話のやり方、貴族の慣例、派閥の勢力図と詰め込み教育が行われた。そして夜も更ける。やっと終わった一日。与えられた豪華な部屋のベットに倒れ込みながら頭の中にはその苦労を比例するような報酬を考えることで心の平常心を保とうと思った。
提示されている報酬は2週間の報酬で金貨30枚、前世であれば30万ほど。まあその内の5枚はもうすでに使ってしまっているが前世と比べると物価が安いなかで、この金額ならかなりのものであろう。前世のように寝ているだけで数億が転がり込んでいく生活を懐かしみながらも、ここは異世界、新たな人生。まだまだ始まったばかりだと思って我慢した。また、教育でえたマナーや貴族界の話は、現状のサイコでは到底知りえぬものだったため、中々面白いものではあった。それが詰め込み教育で一発暗記が求められる中でなければ嬉々として楽しんでいたであろう内容ではあったのだ。
そんなことを反芻して考えているうちに、サイコの目は閉じられ、今日という日が終わっていく。
やってやりますよーっとZzz。。。
+トンズラ
門番 ガタイはいいし厳ついが気はやさしいお兄さん
+ナマイキ―
門番 気弱な性格だがまじめ。
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