/// 24.カトレアお嬢様の憂鬱

ここは帝都、オリベイル侯爵家のお屋敷。このお屋敷で夏休みを過ごすカトレアは考える。学園の夏休みもそろそろ終わる。ひさしぶりに自宅で両親や姉弟と楽しく過ごした。それにしても学園から戻る際に出会ったサイコという少年・・・ワクワクしていた待ち人が一向に現れないことにイライラが募る。


どういうことかしら?



「ねえエイル。サイコから連絡きてないのよね?」


「ええ、お嬢様がお気になさっておりますので一応、帝都のギルドには何かあれば連絡するようお伝えしてますが・・・どうやらアルバイトと訓練をこなす日々のようですね。中々にお忙しいようで」


実はワクワクしていたのは最初だけで、実際のところ夏休み中盤になるとすっかりその存在も忘れていたカトレア。しかし思い出してしまったからには訪ねずにはいられない。それがカトレアお嬢様なのだ。そしてそのことを予想していたかのように回答を用意している執事エイル。できる執事である。


「訓練って・・・アルバイトに訓練にって・・・そんなに必死にならなくても私のところに来たらいいじゃない!なんで来ないのかしら?忘れ去られたのかしら?」


「侯爵家に気軽に尋ねれる者は、そう多くはありませんからね」


表情を崩さず答える執事エイル。


「私、屋敷に絶対きなさい!って言ったわよね?そしてサイコも犬のように良い返事してたわよね?」


「おそらくは社交辞令とでも思ったのでしょう」


そのエイルの回答に、カトレアはしばし顎に手を当て考える。もうすぐ夏休みも終わる。確かにのんびりとはできたのでそれなりに楽しい長期休みとなった。しかし帰路のさなかに出会ったサイコが訪ねてきて「しょうがないわね」とこの世界のノウハウを教え、年の近い従者として育て上げるという夏休みを妄想していたカトレアには、やや退屈な日々であったのだ。彼が渡り人であることはわかっていた。すでに詳細鑑定を覚えているカトレアにとって、あのいびつなステータスに女神の加護持ち。ちょっと考えればわかることだった。何かと悪名のある渡り人の道しるべになって立派な大人に育てる、という叶わなかった予定を思ってギギギと歯を食いしばる。


「そうだわ!学園までの護衛にアレクと一緒に指名依頼したらいいわね!なんなら先に屋敷に呼べばいいわ!きっと喜ぶわね!」


「かしこまりました。では早速、出発の3日前にサイコ様だけお呼びして、その2日後に赤い盾のお三方をお呼びするということで良いでしょうか」


カトレアの意を汲んだ執事エイルの提案にサムズアップでOKを出す。


2日もあればあれやこれやと教え込むこともできる。なんならエイルに修行をつけさせるでもいいわね。依頼後にそのまま屋敷で雇って最強の従者まで育て上げるのも面白そう。とりあえず戻ってくる時は、学園生活からの帰路ということで疲労から眠気がとまらずあまり構ってあげられなかったけれど、今度はしっかり遊んであげるわ!・・・そんなことを思いながらカトレアの夏休みがあと数日で終わろうとしている。


楽しくなりそうだわ!!!

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