036 (説明回)陽菜ならできる、だからしてもらおうと思っているよ





 さて… 教えるって言ったからにはしっかり教えるとしますか。


「全員揃ってることだし、これまできちんと教えていなかったことを説明していくからね、 メモとかは禁止でしっかり覚えるように。」


「それって外に出たらマズイやつ?」


「そうだね、知ったやつ全員の口を封じるくらいには。」


「わかった、絶対に漏らさないようにしよう。 美夏もいいな?」


「ちょっと! なんで私だけ名指しなの!? 言いふらしたりしないよ!」


「はぁ… すまんが、陽菜には美夏のフォローを頼む…」


「はぁい、できるだけ一緒にいて見ておきますね。」



「んじゃ、始めるぞ。

 スキルには法と術があるのは知ってるよな?」


「もちろん! 中等部でも知ってることだと思うけど?」


「教科書的に言うと、

 法とは法則のことであり、その法則の範囲に収まることのみを行うことができる。

 また、術とは術理のことであり、術理を理解したなら本人の技量の範囲内でどのようなことも可能である。

 

 この意味が分かるか?」


「え…? 零司くん… 難しい言葉を使ってわかりにくくしないでよ!

 術の方が強いってことでしょ?」


 あのなぁ… それだけで済むならこんな時間を作ったりしないよ。


「魔法とか魔術で説明すると、

 魔法は決まっている詠唱と決められた魔力で決まった結果を得られるものなんだけど、魔術はどのように魔力を込めるかを自分で編み出して求める結果を得られるようになるまで研究しないといけないんだ。」


「そう… なのか? こうしたいと思って魔力を込めたら使えていたんだが…」


 このひとは天才型か…


「美春さんの言うことはわかるけど、それは結果を先に決めてから魔力をどうするかを考えているだけでやってることは同じよ?

 失敗してないのは求める結果のための魔力コントロールの精度が高いからだと思うわ。」


「ん、普通は何度も試行して1つの魔術を作るから姉さんは異常。」


 意外かもしれないけどゆかりと美冬は理論型なんだ、2人に魔術を教えたときは基礎しか教えてなかったのに理論で解析して俺の魔術を再現してきたからなぁ…


「あの… 零司さん、それだけで使えるようにはならないと思うのですが?」


 そうだね、これで使えるようになるのは天才だろうね。


「もう少し踏み込んで説明していくけど、魔法ってどうやって使ってる?」


「それは… こう、魔力を流して… えいって。」


「魔力をどこに、どう流して、なんでそんなことが起きるんだ?

 ファイヤーボールで例えると、なんで火がついて、なんで飛んでいくんだ?」


「え? なんでって… え??」


「美夏ちゃん、それを考えなさいってことよ?

 私は魔力って自分の中だけじゃなくて外にもあるんじゃないかって思うんですがどうなんでしょう?」


「なんでそう思ったのか説明できる?」


「クラスのひとが言うには同じ丙種のダンジョンでも魔法の使いやすいところと使いにくいところがあるって感じるそうです。 それってダンジョンの環境になにかの要素があるんじゃないかって思うんですけど。 それと、ダンジョンの外ですけど場所によって空気と言うか雰囲気と言うかそういうものが違うと感じることがあって、それってもしかしたら空気中に魔力があったりするんじゃないかなって…」


「まぁ正解。 人間は体内にある魔力を使って世界にある魔力に干渉して魔法を使ってる。

 体内魔力をオド、空気中の魔力をマナって言うらしい。」


 大気中の成分って窒素、酸素、二酸化炭素、その他って言われているけどその他に含まれる物の中で物質として説明できないものがあるらしい。

 そのよくわからない物が多いところだと魔法を使いやすいということで、便宜上マナと呼んでいるっていうのが現実かな。

 詳しいことは研究者の領域だから俺もここまでしか知らない。

 ハンターはスキルを効率的に使えたらそれでいいからな。


「なるほどな、だがなんでオドでマナに干渉することで魔法なり魔術なりが使えるんだろうな? 知っているのか?」


「それに関しては研究者の領域だよ。 俺の想像でいいなら、ダンジョンができたときに世界に魔術か何かがかけられて、人間が魔法を使えるようになったんじゃないかって思ってる。

 まぁ、そんなわけで魔法っていうのは初心者用のスキルなんだよ。

 こうしたらこうなるって決まっていることをなぞるだけだからね。 魔術を使うには、マナにこうしてほしいって命令を出す必要があって、それはより具体的である方がいい。

 言ってしまえば強くイメージできればいいんだ。 妄想力が強いほど魔術は強くなるよ。」


「想像力じゃなくて妄想力なんですか?」


「そう、思い描いた事象を現実に起こせると思い込む必要があるからね、思い込みの力って妄想力って言った方がわかりやすいでしょ?」


「それはそうだが… それにしては現実と妄想の乖離に苦しむ者が多いのだが…」


「あー… 高校生とか中学生の例のアレね… それは単純に実力不足と思い込みが足りてないのが理由かな。 オドのコントロールができないとただの痛いやつで終わるから…」



 しょうがないよね、いくら思いが強くてもオドを使いこなしてないとマナに干渉はできないから魔術として発現しないんだよ。

 あえて言わないけどこれって「あの子は俺を好きに決まっている」という思い込みも現実にすることができるんだ。

 その場合は対象の抵抗力によってどこまで効くかが決まってくる。 魔術の実力の差が抵抗になるから、強い側は弱い側を思い通りにできてしまう。

 こんなのを広めたら世の中がぶっ壊れてしまうからな…



「さて、小百合、美夏、陽菜。 3人とも自分のステータスを見てみな?」


「はい… え?」

「あれ!?」

「うそ…」


「魔術の習得おめでとう。 使い方なんかは今後教えていくから安心してくれ。」



 魔術ってこんなに簡単に習得できるかって言うと、そんなことはない。

 3人がここまですぐに習得できたのには理由があって、まず体内のオドを感じること。 これは魔法が使ったりスキルを使う時に意識すればクリアできる、陽菜は足の治療のときに俺がオドを流し込んだからそれで自覚できてると思ったんだ。

 次に魔術を間近で見て実感すること。 小百合は過去に俺の魔術を見ているし、今はゆかりと美冬の魔術を見ている。 美夏は訓練で美春さんのを見ているし、陽菜にかけた治療は魔術だからこれもクリア。

 あとは、魔術の定義を理解できれば魔術を使うための身体づくりというか準備ができたことになって、スキルの習得となるわけだ。

 魔術スキルは習得するだけでは意味はなくて、自分のための魔術を編み出さないと意味がない。 そうすると必然的に好みの属性や形に偏ってしまうんだ。



「あの… 私はこれまで魔法の1つも使えなかったのですが、魔術なら使えるということでしょうか…?」


「そうだね、小百合の場合は身体強化系の魔術を作ればスキルの身体強化と併用できて今よりも動けるようになるよ。 美冬もやってるだろ?」


「うん、やばいときだけ両方使う。」


「そうですか、なら美冬に教わるのがよさそうですね。」


「私はどうしたらいい? ずっと水魔法ばっかり練習してたけど魔術覚えるなら意味なかったよね?」


「そんなことはないぞ、あれは魔力操作の訓練になっていたんだ。 零司だって私たちとはやり方は違うがいつもやっている。」


「そうなの?」


「まぁ、詳しくはまたこんどな。 美夏は回復魔術を美春さんに習うといいよ、あとパーティーメンバーのことをよく見ておくこと。

 回復魔術はどういうイメージをするかによるんだけど、傷ついた身体を元気な時の状態に置き換えるイメージでやるのがおすすめかな。

 パーティーメンバーなら一番状態のいいときに戻せるし、他人でも人体構造なんかを勉強しておくと健康な状態に戻すってやり方で後遺症も少なく治療できるんだ。」


「おぉ…… 人体構造… が、頑張るね…」


「私はどうしたらいいでしょう…?」


「陽菜はそうだなぁ… 俺とゆかりでとりあえず“闇”を教えるか?」


「そうね、ある程度“闇”を使いこなせるようになってからそのほかのデバフとか妨害系を教えていくのがいいと思うわ。 あんたみたいになんでも“闇”で完結できるほどにはしないんでしょう?」


「あぁ。 デバフ、妨害、受け流し盾くらいはこなしてもらおうと思ってるよ。」


「そんなに… できると思うの?」


「できるだろ。 なし崩しに色々させるより最初からこれだけやれって言う方が誠実だと思うんだよ。

 もちろん陽菜ならできると思っているからだけどな。」


「あの… 零司さん… もう1回言ってくれませんか?」


「ん? 陽菜ならできる、だからしてもらおうと思っているよ。」


「任せてください! なんでもします! でも自習メインじゃなくて教えてくれると嬉しいです…」


「もちろん、魔術に関してはそれぞれ先輩が見てるときにしか訓練するなよ?

 暴発したら洒落にならないから。

 ここは大丈夫だけど、陽菜の実家くらいなら消し飛ぶことだってあるんだからな。」




作者です


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近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。


次回は2023.10.17 12時です。


10月は2日に1回、奇数日更新で頑張ります!


よろしくお願いします。

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