白狐さんはプールじゃなくて海で泳ぎたい

夏も終盤だというのに天気予報では、土曜日曜共に猛暑日であるとニュースキャスターが告げている。

 「ただでさえ暑いのにこれよりも暑くなるのかよ……。」

 心菜とテレビを見ていた僕はボソッとそう呟くと、後ろからスイカを持った母親がやって来て提案をしてきた。

 「土日どちらかで二人でプールでも行って来たらどう?ちょっとは涼しくなるはずよ。」


 スイカをパクパクと食べていた心菜はタネをぷっと吹き出した後で僕に案の定こう聞いてきた。

 「哲也さん、ぷーるって何ですか?」

 僕は心菜にプールについて色々と説明したが、その後で心菜は少し不服そうな顔をしていた。

 「どうした心菜。俺、今何か変なこと言ったか?」

 そう聞くと心菜は少し頬を膨らませてこう言った。

 「プールってところはつまらなそうだなぁって思って……。だって決まった範囲でしか泳げないんですよね?せっかくなら、もっと広いところで伸び伸び泳いでみたいです。」


 「おいおいおい……。」

 心菜の無茶な言い訳に僕はなんとか説得しようと話をしようとした瞬間に母親が心菜に対してこう言った。

 「あら、なら海とかどうかしら?昔私が使ってた水着もあるし、哲也も最近学校で必要になるからって買ってたでしょ?」

 確かに買ったは買ったが、果たして母親の時間は空いているのだろうか。

 「別に海に行く分にはいいけど、母さんは時間あるの?」

 「えぇ、たまたま今週は持ち帰りの仕事なしだからね!ゆっくり遊べるわよ。」

 母親の時間もあるなら確実に行くことができるので、僕と心菜はそれぞれの部屋に戻り準備をすることにした。

 とは言っても心菜の方はほぼ持っていく物もないのでほとんどは入りきらない物を持ってもらう形になった。


 月曜にある学校に響かないようにと今週の土曜日に出発することになった俺たちは、車で1時間ほどのところにある海水浴場へとやって来ていた。

 「哲也さん!私にもボールを投げてくださいよ〜!」

 母親の提案で体育祭に向けてのバレーボールの練習をしていて、その間心菜は泳ぐと言っていたのだがどうやら気が変わったようだ。

 「なら、本気で飛ばすからな?それっ!」

 僕は心菜に向けてボールを思いっきりスマッシュのように飛ばすと心菜は少し後ろにふらつきながらも、ボールをキャッチする。


 「あら、心菜ちゃん運動神経いいのね?」

 後で見ていた母親は少し驚いたような声で心菜を褒めていた。

 「哲也さん。うんどうしんけいって何ですか?」

 心菜は俺の方にそっと寄って来た後で小声で聞いてきた。

 「そうだな……どれ位動けるかみたいな感じだな。さっきの俺のボールとかをキャッチできたのは運動神経が高いと言えることの1つだな。」

 そう答えると心菜は納得したようで母親にお礼を言った後でバレーボールの練習に付き合ってくれた。

 なんだかんだで心菜は球技が得意なようで、飛ばした様々なボールをきちんとこちら側に返してくるのだ。


 「やるじゃねぇか心菜!運動神経めちゃいいぞお前!」

 「本当ですか!?それなら嬉しいです!」

 それからしばらくして、僕と心菜は海で泳ぎ始めた。

 

 「うわー!哲也さん!冷たいです!どこも冷たいです!昔、鬼火が体にくっついた時と同じ感触がします!」

 心菜は初めての海に大はしゃぎで泳げる水位の場所でバタバタと泳いでいた。

 「鬼火が冷たいのは知らんが……何がどうあれ良かったな。」

 僕は浮かれて元気そうに泳いでいる心菜を見て少しニコニコしながら、海の方へと足を進めると心菜は僕の方へ水をかけてくる。

 すかさずに水をかけ返すと水かけ合戦が始まる。

 お互いに沢山水を掛け合ったり、泳いだりした後で母親の用意していたレジャーシートの方へと戻る。


 お互いに水の中で思いっきり動いたのもあってお互いに疲れ切っているのか、二人ともレジャーシートの上で横になったまま動かなかった。

 「心菜、どうだ?来てみたかった海は。」

 俺は疲れた声で心菜に感想を聞いてみた。

 「すっごく楽しかったです。何だか、昔初めて神社の任務をした時のようなワクワク感があって……。」

 そう言って心菜は少し俯いた後で、いいえ何でもありませんと付け加えた。


 僕はそっと心菜の頭に手を伸ばして、頭を撫でる。

 「へっ!?てっ哲也さん!?何をするんですか!?」

 心菜は突然撫でられたことに驚いているようで、全身が一瞬ピクンと動いた。

 「お前が無理してそうだから、その力を吸い取ろうとしただけだ。気に障ったらすまん。」

 そういうと、心菜はクスクスと笑った後でこう答えてきた。


 「哲也さん?力を吸い取る時はそうやるんじゃないですよ?こうやって……。」

 そう言って心菜は手を伸ばしてこようとしたので、俺は急いでその場から離れる。

 「あぁ!哲也さん、待ってくださいよー!ちょっとやるだけですから、ちょっとです!」

 そう言って心菜は僕の後ろをニコニコしながら追いかけてくる。

 「さっきのは比喩だから!別に、まじで吸い取ろうとしたわけじゃないって!」

 

 そういうと心菜は少し意地悪な笑みを浮かべてこう答えた。

 「ひゆって何ですか?私、分からないのでとりあえず続けますね!」

 

 

 

 

 

 

 


 


 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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