(貴族派)明るい未来を思い描く
事態が急速に動く。こういった場面では、取りこぼしが増えるので注意が必要だった。気を引き締めて取り掛かるべきだ。妻にもそう告げる。
「分かっております、あなたもお気をつけて」
離宮へ入り、貴族同士の繋がりに詳しい妻が采配を揮う。フロレンティーノ公爵より、この離宮の管理を任された。元国王派は公爵を筆頭に、六家が貴族派へ移動している。以前から貴族派として名を馳せる家とは、少し距離を置くのがいいだろう。
離宮の部屋を割り振り、問題が起きないよう手配する。家格に応じた部屋の広さや場所、日当たりなどの条件を擦り合わせた。特に苦情が出ていないのは、社交界の華である妻のお陰だ。
「行ってくる」
荒れた状況から、離宮の維持費が誰かに着服されたのは間違いない。その話を含め、王家や一部の貴族が起こした横領事件を解決するのだ。文官トップであったフロレンティーノ公爵の協力が得られたため、貴族派は気合が入っていた。
上位貴族のほとんどは国王派だった。今となっては過去の話だが、伯爵家以下が多い貴族派の意見は会議で握り潰される。それどころか、会議に入る前に脅迫などで口を塞がれる事例も多かった。こうして王家の不正を断罪できる状況になったのは、国にとっても民にとっても望ましい。
以前から揃えていた資料を提示し、一気に追い詰めてしまおう。意気込んで参加した。フロレンティーノ公爵は一切容赦がない。武官のような大柄な体で、丁寧に不正を拾い上げた。証拠が挙がるたび、国王派の顔色が悪くなっていく。ついには文官達が寝返った。
元から子爵家や男爵家の出身者が多い文官だが、立場が弱い。どちらの陣営が勝つのか見極めて動くのは、頭のいい彼らの処世術だった。責めるつもりはない。協力体制が整えば、様々な書類や数字の不備を大量に並べる実力者ばかりで助かる。
驚くほどの金額が毎年消えている。その対価なのか、本宮には高額な絵画や調度品が大量に保管されていた。王家が購入した記録のない絵画や壺、芸術品や装飾品。すべて没収となった。もちろん売却し、国庫に穴を空けた出費を補填するのだ。
元が民の納めた税であるのに、よくここまで好き勝手出来たものだ。呆れる私の隣で、フロレンティーノ公爵が項垂れた。
「俺はこんな連中に利用されてきたのか」
「仕方ありません。外にいなければ見えない闇ですから」
内側に取り込まれた状態で、薄暗さに気づくことは出来ない。外の明るさを知るから、薄暗さを指摘できるのだ。闇を知ったなら、それを潰す手伝いをしてくれ。償うように懸命に働く公爵は、心の底から悔いているようだった。こんな人が筆頭公爵家の当主でよかった。
そんな矢先、公爵が襲撃された。指先を掠めた程度の傷だが、それでも国王派の愚かさに怒りが込み上げる。この程度の敵に後れをとった自分にも、怒りが湧いた。
「エリサリデ侯爵、貴殿はよくやっている。俺が油断しただけだ」
だが妻が守る離宮へ王宮の騎士が攻め込んだ。事前の情報を元に布石した騎士や兵が動く。安全なはずだが、心配は募った。大急ぎで駆け付け無事を確認する。公爵令嬢が気丈にも先陣を切って抜剣の許可を出したと聞き、あの公爵の血族は勇ましいと苦笑した。小公爵も駆けつけて活躍したとか。
フェリノスが手遅れになる前に動けた采配に、天へ感謝する。感謝と祈りを捧げたお礼なのか、ロベルディの女王陛下が自らこの地を訪れた。あっという間に成敗された賊が粛清されていく。国を食い潰す害虫のような連中を片付けた後、エリサリデ侯爵家は思わぬ褒賞を賜った。
ロベルディ王家との橋渡しだ。外交役として任命された。フロレンティーノ公爵家は事実上の支配階級であるため、それ以外の家から選ばれると聞いていたが。有難く拝命し、妻と共に職務に励む。フェリノスはようやく立ち上がったばかりだ。ここから大きく飛躍するだろう。
もう国王派は存在しない。貴族派という名称も消え、ひとつの領地としてロベルディ国と共に繁栄する未来を思い描いた。
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明日完結予定です(o´-ω-)o)ペコッ
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