99.離れない決断に滲ませた我が侭

※ドゥラン侯爵家が二度没落してしまったので/(^o^) \修正しました。

83話を大幅に直し、98話の一部を修正しております。一度目を通して続きをお楽しみください。ご指摘くださった読者様、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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 ドゥラン侯爵は自ら爵位の返上を申し入れた。お祖父様はそれを受け入れ、文官として国に尽くすよう命じる。それが最大限の温情だった。


 本人が関与しなくとも、家族が国家予算の横領や公爵令嬢毒殺未遂などを起こしている。無罪放免はなかった。家を継ぐ息子も娘もいない以上、侯爵本人を最後に家は絶える。養子を取る方法もあるが、彼はそれを拒んだ。


「我が子や妻の犯した罪を、知らぬふりで生きていく方が辛いのです」


 そう呟いた侯爵は、一気に一回り以上老けた気がする。肩を落とした彼は、祖父に感謝を口にした。文官として国に尽くした彼から、唯一裏切らなかった仕事まで奪うのは酷だ。今までのような重職に就けなくとも、生きていく術や仕事は必要だった。


 征服王と呼ばれ、周辺諸国に恐れられるお祖父様。戦場で出会えば恐ろしい魔神のような存在であっても、感情のない人ではない。何もかも失う哀れな男に、道を残す優しさを示した。


「アンドルリークには大きな貸しがあった。この際だ、生きている間に返してもらおうか」


 戦の申し子のように言われる祖父は、そう言って闊達に笑った。ドゥラン元侯爵夫人の件は、アンドルリーク国との戦の火種になりかねない。お祖父様は火消しを選んだ。燃え広がる前に、小火を消してしまえ、と。疲弊する両国にとって、有難い決断だった。


 私への嫌がらせや夜会で敵に回った家は、相応の罰を与える。それらは貴族会議で執り行うよう、伯母様が命じた。女王クラリーチェ様が、新たに併合した国に決断を委ねる。それは優しさに見えた。


 実際は面倒だから放り出したのだろう。と苦笑いが浮かぶ。だってクラリーチェ様は、細々した調整は苦手だ。貴族との話し合いは、フェルナン卿の方が向いている。


「ルシーが本気で怒る前に帰るとして、アリーはどうする」


 お祖父様は真剣に私に問うている。ルシーがルクレツィア伯母様を示すのは、何となく理解した。愛称の付け方が独特だわ。現実逃避するように、思考が逃げていく。それを引き止めて、考えを纏める。


 ロベルディ本国に行けば、王族として暮らすことになるだろう。肩書きは公爵令嬢でも、お祖父様が特別扱いをすれば王女も同然の扱いを受けるはず。それを望むかと問われたら、私は否と答える。


 謁見の間に集まる貴族派の当主達に交じり、イネスが心配そうな視線を私に向けた。このまま別れて、二度と会えなくなるのでは? そんな懸念が窺える。リディアが殺されて、私もイネスも大切な友人を失った。なのに、私まであの子と離れるの?


 いいえ、それだけじゃない。お父様はもちろん、小公爵であるお兄様も国や領地を離れられない。今の私が「知っている」と表現できる人は少なかった。記憶が完全に戻っていないのだから、仕方ない。その僅かな家族や友人を置いていったら、私は後悔する気がした。


 顔を上げれば、お祖父様の真剣な眼差しが待っていた。クラリーチェ様と同じ、赤紫の瞳は逸らされることがない。私を正面から受け止め、肯定してくれる心地よさがあった。


「私は……家族と暮らしたい」


 短い願いに込められた我が侭は賭けだ。気づいてくれなければ、額面通りに終わる。でも汲み取ってくれるなら……。

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