40.二通目の不思議な手紙
仕掛けるのは、三日後の朝らしい。実際は戦いをするわけでなく、話し合いの場を設けるだけ。王家と貴族派が対立するので、国王派の動きが気になる。
どのくらいの貴族が国王派に残っているのかしら。リストは目を通して返したけれど、リベジェス公爵家当主の名前はなかった。リベジェス元公爵令嬢としか表現しようがないけれど、彼女は国王派の可能性が高い。美しい女性だと聞いたけれど、近づかないようにしなければ。
覚悟を決めてドレスを選ぶ。一応王宮へあがるのだから、それに合わせた装いが必要だろう。宝飾品は控えめに、最低限で構わない。指示を出したところへ、アルベルダ伯爵令嬢から預かった手紙が届けられた。カミロにより、毒のチェックも終わっている。
手紙を運んだのは執事なのに、お父様が不安そうな顔で駆けつけた。同じ屋敷内にいるのだし、構わないけれど。部屋に招いて向かい合わせに座る。手紙は安全のために、目の前でカミロが開封した。銀のトレイの上で逆さにして、確認を行う。
入っていたのは便箋が二枚だった。外の一枚は白紙……なぜか黄ばんでいる。内側は真っ白な便箋だ。さらりと目を通した。
「見せてもらっても?」
「あ、ええ。どうぞ」
お父様の手に便箋を渡した。気になって、外側の一枚を手元に残す。我が家の便箋を使ったのだから、紙は上質だ。にも関わらず、色が違っていた。
違和感は大切よ。両側をじっくり眺め、匂いを確かめようとした。しかし止められ、父の手で回収される。カミロの確認が終わるまで、触れないことになった。でも、ほんのりと柑橘の香りがしたような。なぜかお兄様の顔が浮かんだ。
「アリーチェ、この手紙は証拠として預かりたい」
「お任せいたします」
王宮へ行く話が出たタイミングで、アルベルダ伯爵令嬢が書いたのなら……そのつもりだったはずよ。頷いてお父様とカミロを見送った。
手紙には、浮気相手の振る舞いが記されていた。私のカバンを勝手に開けていたこと、中の本を取り出して捨てたこと。王太子が一緒だったせいか、誰も止めなかったこと。この時にアルベルダ伯爵令嬢が「いくら何でも失礼なのでは?」と声を上げたため、目をつけられた状況に至るまで。
私が日記で読んだ部分の裏側が並んでいた。周囲が止めなかった部分は想像できたけれど、人前で堂々と私の荷物を漁ったとまでは思わなかった。普通はこっそりするものでしょうに。
見られて困る本が入っているわけもなく、上質なペンやノートは持ち去られた。私なら捨てるけれど、浮気相手の女性が使うのかしら? そのくらい、王太子が買って差し上げればいいのにね。
嫌味が溢れるけれど、口はきゅっと噤んでいた。これが公爵令嬢である私の矜持よ。どんなに納得できない状況でも、淑女教育を受けた令嬢として、平民のような相手と同レベルに落ちるわけにいかないわ。
「気分が悪いわ」
「薬草茶をご用意します。もう休まれてはいかがでしょう」
「そうね、夕食はいらないと伝えてちょうだい」
こんな時は眠ってしまいましょう。気分をリセットして、明日は日記を読む。そう決めて、結った髪を解いた。不思議な香りのする不透明のお茶を飲む。緑色でどろりとしていた。味はさっぱりして、見た目と一致しない。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
ベッドに横たわった途端、すっと瞼が落ちる。もしかして、あのお茶は眠りを誘う薬草が入っているのかも。緑のどろりとしたお茶に沈んでいくように、夢も見ずぐっすりと眠った。
目が覚めた翌朝、私は昨日の違和感の正体に思い至る。やっぱり睡眠は大事ね。大急ぎで支度をして、お父様の待つ食堂へ向かった。
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