39.兄はなぜ私と親しさを装ったのか

 次の頁には、愛用のペンが消えたと書かれていた。他にも、予備のインクや教科書が数冊……家から持ち込んだ本が消えたらしい。くすくす笑う王太子の側近が隠したのだろう。


 決めつけるように書かれた一文に、この頃の精神状態を察した。最悪だったんじゃないかしら。周囲の誰も信じられず、友人を遠ざけたため一人で。それでも義務で通う。父は当てにならず、兄は……そういえば記載されていない。



 父に相談した日の話はあるが、日記に兄が出てこなかった。そんなに距離があったの? 少し迷って、隣で焼き菓子を摘んだサーラに尋ねる。


「記憶を失う前の私は、お兄様と仲が良かった?」


 学院はここから通える距離にある。実際、私は馬車で通っていたと記載があった。でもお兄様はこのところ、屋敷に帰ってこない。寮があるとしても、通わない理由が引っかかった。


「仲が良いかと問われると、お答えしにくい状況でした」


 言葉を選ぶサーラは、ほぼ話をしなかった兄と妹の関係を語る。屋敷内ですれ違っても、ほぼ会話はなかった。兄は最初から寮生活を選び、私は通う選択をした。令嬢が寮に入ることは珍しいと聞いた。


「醜聞を避けるためね」


「はい」


 理解できるわ。寮が厳格に管理されていても、親元にいない一点が過失になり得る。領地が離れており、通える距離に屋敷がない。また身を預ける親戚がいない。そんな事情が重なった子でなければ、保護者がいる屋敷から通うのね。


 私とカリストが仲睦まじい兄妹でないなら、なぜ王太子の側近を辞してまで怒ったのか。私の毒殺未遂がなければ、王太子の地位は安定していた。きっと婚約破棄も内々に処理されて、私の過失で解消になったのでしょう。


 怒って騒ぎを大きくし、その後、夜会で私を気遣う様子を見せた。その理由が知りたい。だって、裏のない好意は存在しないわ。サーラは、姉のように慕うお母様の頼みだから。お父様は、お母様に似た私を殺されかけたことで改心した。


 ならば、兄は? 突然手のひらを返して、私の味方についた。それでいて記憶を取り戻そうとすると、嫌がって止める。私が傷つくからと大義名分を口にして、何を守ろうとしているの?


「私は疑り深い性格だった? 今とかなり違うのかしら」


「どちらかといえば、お嬢様は明るくなられた気がします。はきはきと物を仰いますし、以前より堂々としていらして。私は今の方が好きです」


「ありがとう」


 真っ直ぐに評価の言葉を向けられ、照れて日記に目を落とした。視線が文字の上を滑ってしまう。あとで読み直ししなくちゃね。


 ノックの音にサーラが扉に向かい、私は焼き菓子を摘んだ。ナッツの香りが口の中に広がる。二枚目に手を伸ばしたところで、お父様の声が聞こえた。


「アリーチェ、少しいいか?」


「はい。お父様」


 部屋に招いた父を、書斎側のテーブルに案内した。向かい合って座るとすぐ、お父様は名前の書かれたリストを差し出す。頷くのを確かめ、手に取った。


 上から公爵家、下は男爵家……いえ、騎士爵も名を連ねている。文字が違うから、一人で書いた書類ではなさそう。


「貴族派のリストだ。目を通しておきなさい。何かあれば、この家は味方をしてくれる」


「……何か、あるのですか?」


 私はこの屋敷から出ず、学院にも通っていない。買い物に出ることもなければ、お茶会などもお断りしていた。なのに、味方のリストを差し出したのは……大きな動きがあるのね。


「察しが良すぎて、お前が可哀想になるよ。アリーチェ、貴族派が仕掛ける。お前を屋敷に置いていくのは心配だから、一緒に王宮へ……来てくれないか」


 一緒に来てくれ。そう言いかけた言葉を、尋ねる響きに変えた。お父様の気遣いは嬉しいけれど、そうね……ここに残るのは危険だわ。


「同行します。いつですか?」


 覚悟を決めてそう尋ねた。











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【僕の大事な魔王様】

BLで、キスシーン程度まで(R18じゃありません)

何者かに召喚された幼ドラゴンは、殺されそうになり必死の抵抗

全力で叫んだ結果、異世界の魔王を召喚した_( _*´ ꒳ `*)_

俺様な魔王×純粋天然系ドラゴン


https://kakuyomu.jp/works/16817330664058383531


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