22.敵地に出向かず自陣で迎えうつ
王妃様とパストラ様のお茶会に私が参加した話は、社交界に一瞬で広まったらしい。というのも、あれから数日でお茶会の誘いが引きも切らない。
朝食の後で開封する封筒は、高く積まれる。普段は銀のお盆に手紙を載せて運ぶ執事が、束ねて運んできた。優雅に数枚を広げて、どれになさいますか? の状態を保てない量になったのだ。
「俺の仕事の書類ぐらいあるな」
お父様は大声でからりと笑い、片っ端から封を切るよう指示を出した。開かれた手紙から、ゆっくり目を通す。家名は貴族名鑑で読んだ。けれど、どれが知り合いで関係が深い家なのか。まったく判断がつかなかった。
「参加した方がいい家はありますか?」
「お前の気持ち次第だが、この辺は親戚だから俺が断ろう。それと……アルベルダ伯爵家とブエノ子爵家は、ご令嬢がアリーチェの友人だったな」
ほぼ同じ年齢で、貴族令嬢が二年通うことを義務付けられた学院で、付き合いがあったらしい。この二人の家名には覚えがある。ピンクに金房のお見舞いカードは、アルベルダ伯爵令嬢から。オレンジのラインが入った香水付きの便箋は、ブエノ子爵令嬢からだった。
少なくとも嫌な感じはしないし、どちらも丁寧に文字が書かれていた。目覚めてからの短い記憶を辿り、私は二人の名前が入った誘いを手に取る。だが貴族令嬢同士のお茶会となれば、王宮のように父の付き添いは期待できない。
サーラは味方だが侍女だ。何かあっても、直接の口出しは出来ない。その状態で参加して平気だろうか。不安が胸を重くした。
「アリーチェ。頼むから父を頼れ。そうして黙って我慢するのはやめてくれないか」
懇願するような響きに、俯いていた視線を上げた。大きな体にややキツイ顔立ち、熊のような人なのに眉尻を下げると雰囲気が変わる。まるで主人に叱られた大型犬みたいだわ。
ゆっくり息を吐いて、顔を上げた。婚約破棄されたとしても、私は公爵令嬢だわ。この貴族社会で王族に次ぐフロレンティーノ公爵家の娘。危害を加えられる可能性に怯えて俯く必要はない。
「お父様、知恵をお貸しください。このお二人と会って話したいのですが、お茶会にお父様の同行は無理だとわかっております。どのようにしたら」
「ふむ。それなら逆に考えたらいい。全部断って、お前から二人を誘ったらどうだ? 相手の領域に踏み込むのは勇気がいるが、己の手元に誘い出すのは簡単だ」
ぱちくりと瞬きし、少し考える。この屋敷の一角、客間でも庭でもいい。私が有利になる環境へ、話したい相手を呼べばいい。公爵令嬢ならそれも許されるはず。
「そうします」
「危険がないよう、俺が離れて待機しよう。彼女らの同伴者は侍女一人に限定すれば、当事者のみで話が出来るであろう」
国政に関わってきた父の意見に頷き、そのように手配するよう指示した。お茶会の準備は執事カミロに任せられる。当日の護衛を兼ねて、侍女サーラが付き添うと決まった。
先ほどの会話で気になった部分を、そのまま尋ねた。
「お父様、お茶会の日に家にいると仰いましたが、仕事はどうなさるのですか?」
「仕事か……王宮の仕事ならやめてやった。領地の書類だけなら屋敷で片手間に処理できる」
にやりと悪い顔で笑ったお父様は、公爵閣下というより悪人のよう。やめてやった……つまり、一方的に辞職した。王宮では何の仕事をしていたのか。今頃部下の人が困っていないといいけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます