電話(遥視点)

マンションに戻り、ダンジョン内で食べる軽食とは違い美味しいご飯を、そしてダンジョン内と同じようにみんなで黙って食べた後のことだった。


……正直私自身が食事中にぎやかな家庭で育ったから、沈黙したままテレビも付けない食事というのに戸惑いを覚える。

しかし、一度食事中話しかけたとき、どちらも笑顔を作るだけで返答しなかったため、それ以降食事中私も沈黙している。


愛やさくらも接待での食事の時はにこやかに、そして口を開いていた記憶があったから、より一層無言での食事が気まずかった。


私のそんな心情に気づいたのか、愛にその後、食事後に接待やハレの日ではないときの食事では、喋ってはいけないと両親から躾けられていて、その時の習慣で……と言われた時に、これがお嬢様と少し感動した記憶もある。


話がズレた。

諦めて、現実を見つめよう。


愛の電話がなって、愛はもちろん電話を受けた。

そして電話を取ってから愛は、表情がどんどん笑顔でなくなっていった。

強い激情でも、悲しみでもなく、無へと近づいているようだった。


碌でもない予感しか無い。

愛は基本的に笑顔を崩さない。


一応演技として怒った様子を見せることもあるが、ほとんど天真爛漫な少女のままだ。

あぁ、本当に碌でもない予感がする。


さくらは気付いているかと、勇気とソファに座っているさくらを見る。

2人は愛の様子に気づいていない様だ。


そして漏れ聞こえる会話的に、さくらは勇気にセクハラすることに忙しくて気付いていないようだ。


……人間関係に臆病なくせに、一度懐に入れたらこうだ。



頼れるのは私しか居ない!と自身の身の不遇を嘆きたいが、そもそも私は頼りにならない。

パソコンやスマホのもろもろのせっとあっぷ?を弟妹にやってもらい、使いこなせるのはLineとグークルくらいな私に、愛担当のSNSについて分かるはずもなく。


シンガーソングライターとして、SNSで話題になったさくらなら「ばずる」?方法には詳しいとは思うが、彼女いわく出来るのは「ばずる」ことだけらしい。


SNSは「ばずる」ことを目的に行うのではないのだろうか。

……これ以上はバカがバレてしまう。

既にかなり底に近づいている気もする弟妹達の尊敬度が下がってしまう。


ツーツーツー。

電話が切れた音がした。


おそるおそる愛のほうを見る。

愛は目が笑っていない笑みを浮かべていた。


「来週の日曜コラボだって!ホトップスさん達と。それで、私達とホトップスの模擬戦だけじゃなくて、カメラさんとホトップスの模擬戦もやって欲しいんだって!」


「Xとかで、カメラさんが強いだけで、ダンジョンアイドルズ!は大したことないって意見を声が大きい人が言っているらしくて。模擬戦をやって、カメラさんは大したことない!ダンジョンアイドルズ!の実力だって言いたいらしいよ!あはは」


さくらも勇気も何事かと愛の方を向いていた。

愛のことばを聞き、勇気は顔を青ざめさせ、さくらは片頬だけをあげた。


「「単なるカメラマンの俺が最強の若手迷惑系youtuberを倒してバズっちゃいました!」動画タイトルはこれで行こう」

さくらが火に油を油を注ぐような発言をした。

……さくらは、自分のモノに愛着が強い。とても。


「私も最初は、カメラさんとの模擬戦は、探索者のイメージ向上にあまり適さないんじゃないかって提言したよ!それでも、ホトップスさんの希望でもあるからってゴリ押ししてきた!」

そして、愛は人より力に恐怖し、そして渇望する姿勢が強い。

それは、力によって理不尽を押し付けられることを嫌うから。


「こっちに何の話も来てないのに、匂わせをされて、挙げ句上の命令は来週コラボ!その上カメラさんをボコボコにしたい!という要望付き!オッケイ!」


「あまりにも舐められているね」

さくら……


「多少の放送事故は、生放送なんだからあるでしょう!」

愛のその力強い発言に、勇気は何をさせられるんだろうと言わんばかりの怯えた表情をした。


「あぁ、避けられないだろうな」

私も同意した。いや、私はさくらや愛を説得できるとは思えないし、恐らく勇気はさくらや愛が「説得」したら流されるから……


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