模擬戦(2)

後ろばかり気にできる状況でもない。遥さんの目の前には戦士の山田さんが、少し離れたところに魔法使いの田中さんがいて、背後からは剣士の榊さんまで迫っている。


ギルドまで後20mほどではあるが、割りと絶望的な状況だ。


「舞」


遥さんがそう言うと、遥さんの体が赤いオーラに包まれた。

スキル名と勝手な偏見からイメージすると、このスキルの効果は敏捷増加、攻撃力増加、回避力増加などの効果に絞られそうだ。


って、抜かれた!?

遥さんが首元をかがめたことによって、僕はすっぽ抜けて片腕だけで支えられているような格好になった。落ちて引きずられるのも時間の問題だ。


が、そのまま遥さんは前に進む力を回転する力へと変え、一回転の後に僕を放り投げた。


空を飛ぶ僕の形相があまりにもひどかったのか、戦士の田中さんも、剣士の榊さんも慌てて人質である僕が落っこちそうな場所に向かった。

向かってしまった。


道は開けた。魔法使い一人では、もう遥さんを阻めない。

ダンジョンアイドルズ!の勝利は確実だ。


でも、ほんの少し言いたいこともある。

――打ち合わせで投げるかもとは言われていた。


でも、ここまで派手に投げられるとは思っていなかったです。

一応何の補助が無くとも無事に着地する自信もあるけれど、それでも怖いものは怖い。


「うぃんどー」「光よ、守り給え」

さくらさんの風魔法が僕の落下速度を落とし、地面に叩きつけられる前に愛さんが障壁で僕を拾った。


あぁ、これが16階から15階に侵入するときに培われた発想なのだろうか。


遥さんがギルドにたどり着いたことを確認した後、下にいるお二人に

「今から落ちます」


と一声かけて、衝突事故が起こらないように、少し離れたところに落ち、着地。



今回の勝負を振り返ると、カメラマンである僕をある程度手荒に扱っても事故が起こらないと知っていたダンジョンアイドルズ!は、とても幅広く作戦を立てることが出来、それを知らないfiresのみなさんは模擬戦であり、万が一が起こりうる作戦はないと思ってしまい、十分な対策がとれなかった。





「ダンジョンアイドルズ!の大事なメンバーの一人、カメラさん。少し変わったジョブで、軽業師に近い芸当が出来る。ダンジョンで守る必要があんまりなくて凄い良い子」

元々のインタビュー場である、ギルドに戻った後さくらさんはドヤ顔でいった。

firesのみなさんは苦笑いを浮かべた。


「完全にしてやられましたよ。まさか、人質を投げるとは。全然想像できませんでした」

リーダーの鈴木さんが真面目な顔でいった。


「私達も警察の方のように人々を守る訓練もしたほうが良いかもしれません。軽視していましたが、スタンピードのときに必要になりそうです」

長木さんも続いた。


「そのときは、ぜひ私達も誘っていただければ幸いです!」

愛さんも和やかに言った。



そのまま和気あいあいとしばらく話した後に、和やかにインタビューは終わった。


終わってみれば、かなりベストな結果が得られたと思う。

インタビュー相手のfiresのみなさんはとても良い人たちだったし、そんな人とコネを作れた。

また、firesのみなさんをあまり下げることもなく、ダンジョンアイドルズ!の実力を示すことが出来た。

あと、模擬戦前は同接数が下がっていたが、模擬戦中、模擬戦終了後はかなり良い数字だった。

最後に僕の実力について、都合のいいように話す事ができた。



次のインタビュー相手もいい人であることを願う。

遥さんに近づきすぎとのことで燃えてないことを、また、カメラさん粗雑に扱いすぎとのことで、お気持ちが湧かないことも真剣に願う。


……願いが3つもあると、どれか一つ、もしくは全部叶わない気がするのはなんでだろうか。

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