模擬戦(1)
「レベルアップした人は、イメージ的には攻撃力、素早さに関係するものが上がっていく。実は、防御力はそこまで上がらない」
さくらさんが前提を述べる。
「そうですよね。私達もかなりダンジョンでレベルを上げてきましたが、それでも銃弾を頭に無防備に受けたら、死んでしまうでしょう」
firesのリーダーの魔法使い、鈴木さんが肯定した。
「というわけで、模擬戦と言っても、今から行うのは少し変則的な鬼ごっこ。ただし、人質が居る ね」
そしてさくらさんはカメラ、というかこちらを見る。
事前の打ち合わせを聞いていたとは言え、ドキッとする。
「はい、カメラさんこっちきてー」
僕がさくらさんの隣に行くと、さくらさんは無表情のまま言った。
「ははは、我ら悪の組織ダンジョンアイドルズ!は人質を取った。これでは、お前らfiresは、攻撃が出来まい。魔法は威力を抑えて、武器はハリセンを使うが良い」
「く、なんて悪辣な手を……」
そう言いながら、firesの剣士さんと、戦士さんはハリセンを手に持った。
かたや無表情、かたや棒読み。なおかつ武器は当たったらいい音が出そうなハリセン。
「我らはここから100mほど離れたギルドに向かい、人質を増やす。そうすれば我らの勝ちは揺るがないのさ」
「く、私達は人質をギルドまでに取り返すか、事故の無いような無力化が必要だぁー」
癒術士さんは後始末担当で、一人少ないとは言え、正直ルール的にはダンジョンアイドルズの人たちは攻撃を放って良い分、かなり有利な気もするけれど……
「囚われの姫よ、哀れな声で鳴くが良い」
悪のオーラを全身で発しながら、愛さんは急に無茶振りをしてきた。
というか演技上手いな!?
二人との対比がエグい。
「た、助けてぇ」
「あ、遥パス。私じゃうまくカメラさん運べないから」
人が演技した横で事務的な会話しないで!
「了解。お姫様抱っこでもしたほうが良いか?」
「んー、ファイヤーマンズキャリーかな」
一応事前の話し合いで担ぎ方は決まっていた。
実際、ファイヤーマンズキャリーって言われて分かる人は少ないと思う。
簡単に言えば、救助される人の横にした胴体を背中というか肩にかけ、手を足の方に寄せて、担ぐ人が腕で足と手を一気に固定する みたいな……いや、説明がやっぱり難しい。
まぁ結論、運ぶ人、運ばれる人の片手が浮く運び方だ。
「人質は基本意識が無い設定。だから急に暴れだすみたいなことは無い」
「了解です」
「じゃあ、ちょっと距離を取って、遥はカメラさん担いで」
「担ぐぞ」
両腕を上げる。
遥さんは一度しゃがみ、僕の片腕を反対側にやり、そのまま僕の胴体を肩甲骨あたりにかけるようにして、立ち上がった。
足がぶらぶらしてぶつからないように気をつけながら、持ち上げられる。
そして取った腕を両足のほうにやり、そのまま固定。
人質っぽく頭をだらんとさせた方が良いんだろうか。
――やっぱり近いというか、腕に当たっていないだろうか。
その、お胸様が。
一応事前の打ち合わせでは、ちょっと上側に腕を持って行って、要所は外すという取り決めはしていたけれど、それでも尚当たっている。
防具の上で柔らかさはほとんど感じないが、やっぱり燃えないだろうか。
やっぱ燃えそう。
そもそも距離が近すぎだろって燃えそう。
でも、そんな邪というか、余裕な考えは、遥さんが走り出すまでだった。
「3,2,1,スタート」
さくらさんの合図で遥さんが勢いよく走り出す。
やっぱりこの運び方意識がある人を運ぶための運び方じゃない!
要救助者を担いだ状態で全速力で走るもんじゃない!
ジェットコースター以上に怖い。
僕の恐怖をよそに、すぐにfiresの剣士、榊さんが立ちふさがる。手に持っているのはハリセンだけど、構えに隙が見当たらない。人を担いでいる遥さんでは機動力で大きく負けている。
どうやって振り切るんだ?人質である僕を盾にするにしても――
「光よ、守り給え!」
障壁!?胸元くらいの高さに目の前に横にされた障壁が現れ――跳んだ!?
障壁を足場にして更に跳び、頭上を跳び越えた。
「な!?」
榊さんは急に頭上を飛び越えられ硬直して――すっと横にステップした。
「空砲」
魔法使いの田中さんの小さなつぶやきの後に爆音が響く。
遥さんも反射的に身を屈めてしまい体勢を崩した。
が、そのまま一回転して持ち直し、綺麗に着地してそのまま走り出す。
後衛組のほうは――?
社畜の長木さんが向かって行っている。
純粋な前衛ではないとはいえ、割と何でもこなす社畜さん相手に純粋な後衛である愛さんや、さくらさんでは厳しいんじゃないだろうか。
「うぉーたーぼーる」
殺傷能力は低いとは言え、当たれば防具越しでも打撲痕が付きそうな魔法だ。
「人質を気にしないで良いのは楽ですね。ハイゾクジレイ」
ウィンドボール!?いや、威力はさくらさんのほうが高い。
が、ウィンドボールに当たってウォータボールの水は四散した。
「ハイゾクジレイ」
そのままハリセンを振りかぶって――
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