さくらさん
愛さんと少し話した後、僕は自室に戻って気を紛らわすためソシャゲの周回をしていた。
……なんとなく退屈に思えて、勝利画面をタスクキル。
Google Chromeを開き、キーボードをフリックする。
「風花さくら どんな人」
検索ボタンを押そうとして逡巡。
結局僕は何を求めて検索しようとしたんだろうか。
きっと、風花さくらの経歴についての情報があるだろう。
きっと、風花さくらの楽曲についての情報があるだろう。
きっと、風花さくらの印象についての情報があるだろう。
それを知って僕はどうするんだろうか。
そもそも僕は流されたままで、自分の意志がパーティーに追いついていないような気がする。
一度整理しよう。
僕の目標は、自分の故郷をモンスターから奪還すること。
そしてそのまま日常に戻ること。
それを元に、損得で考えると、ダンジョンアイドルズ!の方々の価値はどうだろうか。
情報の操作力が高く、僕の隠れ蓑になってくれそうで奪還の後に日常に戻ることに大きく貢献してくれそうだ。
では、感情で考えるとどうだろうか。
愛さんは、元より僕の力を知っていて接触していたから――
……はぁ。
理性では、一度力を見せて大丈夫だったのだから、大丈夫な可能性が高いのでは?と述べる。
でも、感情が叫ぶ。
結局僕はスタンピードでの恐怖が拭えていない。
周りの人達の怯えた顔が忘れられない。
親しかった人たちの、あの目が忘れられない。
風花さんと親しくなって、宝木さんとも親しくなって。
そしてきっと、ピンチになることがまたあるだろう。
「勇者」なんてジョブを渡されたが、結局僕は臆病だ。
親しくなって、また失うことに恐怖している。
……風花さんも恐怖しているんだろうか。
宝木さんも、もしかしたら愛さんも。
ピコン。持て余していたスマホが鳴った。
Lineから通知だ。えぇっと、風花さんからか。
「件名:企画書のたたき台が完成しました」
「先程の会議で話していた企画書のたたき台が完成したため、他の方にも確認していただきたく思い、LIneさせていただきました。お時間に余裕のあるときに確認をお願いします」
「interview.pdf」
「企画書のPDFです」
グループラインに送られてきた企画書のPDFを見る。
正直企画書は書いたこともなく、よく分からないが、とても見やすい。
作成日、部署、作成者、件名、現状分析、課題、企画内容、効果、対象・予算、備考
と全て簡潔かつ分かりやすく書かれている。
備考欄に一応カメラマンとして僕に対して簡潔な説明と、ダンジョンでの冷静さをもとにこれからも引き続きお願いしたいとある。
……ここで、かなり役に立たない「とても良いと思います」で良いんだろうか。
かといって的はずれな指摘をすると、それはそれで迷惑な気がする。
ピコン。
「誤字脱字はなかった」
宝木さん……
「とっても良いと思う!でも、備考についてもう少し詳しくても良いかも!」
愛さん……
「とても簡潔で分かりやすかったです」
これで良いのかと思いながら、でも他に良い言葉も思いつかず、送信ボタンを押そうと思ったところで、風花さんから電話がかかってきた。
「はい、もしもし。鬼崎です」
「風花です。企画書についてなのですが、鬼崎くんについてどう説明するべきかで悩んだため電話させていただきました。よろしければ、会ってお話することは可能ですか?」
「は、はい。どこでお話しましょうか?」
「では私が今からそっちに行くから受け止めてください」
「はい!?」
「ベランダから落ちます」
慌ててベランダに向かう。
「ごー、よーん、さーん、にー、いーち、ぜろ」
空から女の子が降ってきた。
その女の子は、携帯を持ちながら16階から落ちてきた。
その子はきちんと助けられてくれた。
「何をしてるんですか、さくらさん」
さくらさんは無表情ながら、微笑んだように感じた。
「きゃー、勇気にお姫様抱っこされちゃってる」
……さくらさんは落ちる中で、若干傾いていた。
そして僕はベランダから両腕を出して受け止めた。
さくらさんが言ったようにまるでお姫様抱っこのようになっているかもしれない。
「勇気、そろそろ怖いから部屋に入れてほしい」
「……」
さくらさんを持ち上げて、部屋に迎え入れる。
「一応減衰されるけど、風魔法が使えるから一応なんとかなったはず。いやぁー、でも怖かった」
「……僕もみなさんを大事なチームメンバーと思っていますよ」
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