第二章:日常、模擬戦

よくあるハプニング?


光矢さんが僕に囁く。

「勇者様、ありがとうございます」


顔が青褪める。しかし、その反応は肯定と同義だった。


光矢さんが微笑みを深くする。


「あと、聖女は処女じゃなくなっても大丈夫です」


光矢さんから出てくると思わなかった処女という言葉に思わず顔が赤くなる。


「彼がパーティーに入ってくれるそうです」

光矢さんが言う。


「私は住み込みで護衛してほしい」

風花さんが追い打ちをかける。


救いを求めて宝木さんのほうをみるが、彼女は僕の視線に気づいても、首をふるだけで何も言わない。

風花さんと光矢さんの二人の間で議論がどんどん進んでいく。



しばらく経った後、結論が決まったのか、二人は大きく頷きあった。


「話し合いの結果、化け物の君は――処刑することにした」



「うわぁっ」

ベッドから飛び起きる。……なんて夢だ。


光矢さんも、風花さんも、宝木さんもそんな事を言わない。

ユニークから助けた後も、彼女たちの僕を見る目は好意的だった。


だから、そんな過去はない。そんな未来もない。


一度スッキリしようと思い、顔を洗うために、洗面所に向かう。


つい昨日、この部屋に引っ越したばかりなので微妙に慣れない。

そのせいで、あんな悪夢を見たのかもしれない。


そんなことを考えながら洗面所の扉を開けると、そこには半裸の光矢さんがいた。


光矢さんは、ショーツ、ブラのみを着用しており、まるで着替え途中であるかのように、スカートに手を伸ばしていた。


しかし光矢さんは、全身が震えていて、更に普段から色白な肌から更に肌の赤みは薄れていて――まぁ、なんというか彼女はすごく寒そうだった。


僕は何をどうすれば良いのか分からない。


「きゃー、勇者様のえっち―」

唇を若干紫にしながら、腕で胸を隠すようにしながら彼女は言う。


一応、年頃の男子高校生として、ちょっとエッチなハプニングがあるマンガや小説を読んだことはあるが、ヒロインが低体温症になりかけているというシーンはみたことがない。


異常性に対するびっくりや戸惑いが先に来て、美少女の下着姿!下着姿!という感情が全く湧かない。

そして、僕は何をどうすれば良いのか分からない。


反応が無い僕を置いて、光矢さんは次の行動に移った。

手に持っていたスカートを床に置き、僕に近づいて、頬に手を当てて――


頬に当てられた手の冷たさで少し冷静になる。


「低体温症の疑いがあります。まず、服を着てください」


側に畳まれて置いてあった、光矢さんのものと思わしき衣服を指差し着るようにお願いした。




とりあえず、電気ケトルでお湯を沸かす。


「ココア賞味期限大丈夫かな……?」


スティック状のココアパウダーが確かあった気がするけれど、今年の春頃買ったもので、暑い夏の間放置していた。


良かった。大丈夫だ。マグカップにココアパウダーを入れて、あとはお湯を注ぐだけにする。


光矢さんが洗面所から出てきた。


服を着たとは言え、体を温めるとまでは出来ていないようで、未だ寒そうだ。

そろそろ湧いたかなと思い、電気ケトルに目を向けると、ランプが点滅している。


マグカップにお湯を注ぐ。


お湯が注がれる音のみが部屋に流れる。


「ココアです。熱いので気をつけてください」


そういって、光矢さんにココアを渡す。


「あ、ありがとうございます」


受け取った後、光矢さんは何かを探しているようだった。手を温めるだけで、口をつけようとしない。


……?


「ココア苦手でした?」


「い、いえ」

問いかけると光矢さんは飲み始めた。が、どこか居心地が悪そうだ。


「下着姿を見てしまい、申し訳ありませんでした」


光矢さんは更にいたたまれなさそうな顔になった。


「不法侵入をしてごめんなさい」


そこはずっと気になっていた。

別に僕は光矢さんたちの一階下の部屋を借りたが、鍵を共有しているわけでもない。


どうやって侵入したんだろうか。そして何故侵入したんだろうか。

その疑問がずっとあった。


「遥に手伝ってもらってベランダから入ったの」


ここは、15階である。手伝ってもらったにしても、どうやって入ったのだろうか。確かにベランダの窓は開けていたけれど……


「それで、勇気くんとの仲を深めようとしたの。でもどうしようってさくらに聞いてみたら、「脱衣所で着替え中にばったりが定番」と言ったから……」


「勇気くんがいつ脱衣所に来るか分からなかったから、下着姿でずっと待ってた。」


僕はどこからツッコめばいいのか分からない。


というかこの状況にダンジョンアイドルズ!の全員が関わっていると思うと頭が痛かった。

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