ユニークモンスター:血塗れ
急に宝木さんが移動し、風花さんの顔に腕をかざしたと思った瞬間、腕に石がぶつかり砕ける。
左腕をだらんとさせたまま、宝木さんは前に進みながら叫んだ。
「敵だ!おそらくユニーク!」
初めて聞いた荒々しい声。それが状況の不味さを雄弁に語っていた。
「光よ!かのものを癒やし給え」
「カメラさん、カメラ止めて」
僕は動けない。ただ状況を眺めていることしか出来ない。
あの時のことを思い出す。クラスで、スタンピードで僕は……
風花さんの顔が凄く近くなった。
「カメラさん、落ち着いて。大丈夫。私達が守る」
そう言いながら手を伸ばし、スマホを操作しカメラを止めた。
少し、動揺が落ち着く。
敵を観察する。敵は、普通のオークとは別物だとはっきりと分かる存在だった。
そいつは普通のオークよりも体が一回り大きく、そして赤色と緑色が塗料みたいに体を彩っていて、棍棒が赤黒く染まっていた。
「こっちを見ろ!」
宝木さんが叫びながら拳を叩きつける。が、自分への攻撃を全く意に介さず、棍棒を叩きつけようとする。
「くっ」
逸らそうとするが先程までのオークとは力が段違いなのか、宝木さんは呻いた。
光矢さんが癒やしたものの、痺れは未だ取れないのだろう。右腕しか使えていない。
ユニークは予想外の行動を取った。
宝木さんを放ってこちらに向かってくる。
前衛を無視!?特にヘイトを買うような行動をしていないのに!?
ユニークは向かって行った先にいた光矢さんに棍棒で薙いだ。
ユニークの攻撃を障壁を張って止めようとしたが、それでも止まらずに光矢さんがふっとばされる。
そのまま、ユニークは追撃をしようと棍棒を大きく振りかぶる。
その光景を見て、僕の中のスイッチがようやく入った。
味方が危険である。そして、敵が強大である。
自分の中に蠢くルールが力を振るえと叫ぶ。逡巡は一瞬だった。
「はぁぁぁぁ!」
私、風花さくらはそのときの光景を鮮明に見ていた。
震え怯えていた鬼崎くんが瞬く間に移動して、いつの間にか持っていた光り輝く剣でユニークモンスターの腕を切り落とすところを。
そのまま返す刀で首を切り落としたところを。
そして、助けられたときの光矢愛の表情を。
芸能界で色々な人を見てきたから分かる。
あれは好意的な感情だけではなく、様々な感情が混ぜられている。
元々怪しさはあった。鬼崎勇気は愛の推薦だ。その時は理由について適当なことを言っていたが、何か知っていたのか?
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする鬼崎くんに愛が近づき、頬に手を当て、耳元で何かを囁いた。
鬼崎くんの表情が変わる。まるで、何かとても致命的なことを言われたように。
そしてもう一言囁いて、愛はクスリと妖艶に笑った。
鬼崎くんは顔を真っ赤にする。
愛が高らかに謳う。
「ユニークモンスター、「血塗れ」は彼、勇気くんによって討伐された」
「そして、そんな彼がパーティーに入ってくれることになりました」
「はぁ!?」
鬼崎くんが叫ぶ。
「だめ、だった?」
愛が可愛らしく上目遣いになりながら、両腕を鬼崎くんの肩に乗せる。
まるで直ぐに首を絞められるように。
「……問題ないです」
「ダンジョンの外では私と愛はただのか弱い女の子。ダンジョンの外でもある程度戦える前衛の遥や鬼崎くんとは違う」
軽いジャブを放つ。
何故かは究明されていないが、ダンジョン外ではスキルの威力や効果は著しく下がるが、身体能力はそこまで下がらない。
たとえ愛が鬼崎くんの致命的な秘密を握っていたりしても、逆上して殺されるということは十分ありえる。性格的に出来るかどうかはまだ分からないけれど……
でも、愛は
「うんうん、そうだね。だから……どうしたの?」
と戸惑ったように答えるだけだ。
「だから私は鬼崎くんに護衛してほしいな〜。住み込みで」
愛に浮かぶ感情は……
そういうことか。
そしてしばらく話し合った結果、鬼崎くんは私達が住むマンションに、同じく住むことになった。近くの部屋空いてたかな。
「突然放送切ってごめんねぇ、流石にあの敵をグロなしで倒すの無理だったから……」
「こんなにでっかい魔石がとれました」
魔石を掲げる。
「あと、ドロップアイテムがあった。この皮がそうだな」
ユニークモンスターに限り魔石以外のものを落とす。それが何故かもまだ分かっていない。
私達はダンジョンについて何も知らない。
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