3層、対オーク

1層潜るごとに、空気が変わっていく感覚がした。


別に息苦しくなるわけでもないし、むしろその逆だけれど……空気中に混ぜられている「何か」の割合が増えている気がする。


「3層にやってきました!ここからはゴブリンではなく、オーク、大きい豚の顔をした人形の化け物が出てきます!」


「オークはゴブリンに比べ、知能は低いがその分体格は大きく、防御力も攻撃力も高い。十分注意しなければいけない敵だ」


「その分ドロップする魔石は大きくて、大体ゴブリンの4倍くらいある」


光矢さん、宝木さん、風花さんが説明を入れる。


「ちなみに、ゴブリンのサイズだと大体300円くらい、オークの魔石だと1500円くらいで買い取ってもらえるよ!」


意外と夢がないなと思った。頭の中の比較対象が奄美大島のハブだったのが良くないのだろうか。


まぁ、ダンジョンのほうが見つけやすいし……命の危険もあるけど。


「思ってたより安い?」

風花さんがつっこんだ。


「いや、例えば私達だと3人パーティーで、ゴブリン2,3体の発見から駆除までだいたい5分ほど。そうすると時給は約3000円だ。まぁこの数字は私達が慣れているから ということもある」


「確かに。一番弱くて安いゴブリンでもそれだけ稼げるんだね。ならオークだったりそれよりも魔石が大きいやつをスムーズに狩れたら」


「この数字は跳ね上がるだろうな」


おぉー。夢がないと言ってすみません……浅はかでした。


そんなこんなでお金の話をしていると、宝木さんがオークを発見したようだ。


人差し指を口に当て、静かにするようにジェスチャーし、宝木さんはオークの方向へ向かっていった。


僕たちもついていく。



そこにいたのは、2mほどの大きなイノシシのような顔をしたモンスターだった。

お腹も腕も足も脂肪でダルダルで、鈍重に見えるが、腕に持った棍棒に当たったら下手すれば一発で絶命しそうだ。


「ブモォ!」

宝木さんが近寄ると、オークは棍棒を乱雑に振り回す。


それを躱し、逸らし、出鼻を挫き、捌いていく宝木さんの姿はとてもカッコよかった。


「魔法行くー、うぃんどかったー」

魔法の発動準備をしていた風花さんが、ゴブリン相手に使っていたファイアーボールよりも威力の高そうな魔法を放った。


魔法は、一切警戒していなかったオークにかなりのダメージを与えた。棍棒を持っていた右腕がちぎれかけている。


そこに宝木さんが渾身の一撃を右腕に放ち、オークの右腕は完全に取れ、緑色の血が吹き出す。


「ブモォォォ!!!」

オークが苦痛を叫び、左腕を宝木さんに叩きつけようとした。


「光よ、守り給え!」

が、光矢さんが障壁を張り、攻撃を受け止める。


「ふぁいあーぼーる」

顔面に、風花さんの魔法が当たりそうになり、オークは思わず左腕で顔をかばった。


「破ッ」

宝木さんは強烈なローキックを放ち、オークをよろけさせ、そのまま掌底を放ち倒れさせる。200kgくらいありそうなオークを倒すって宝木さんヤバい。


オークは慌てて立ち上がろうとするが、宝木さんの妨害もあってなかなか立ち上がれない。


「とどめー、ふぁいあーらんす」

風花さんの魔法がオークの心臓を貫いた。


オークはしばらく痙攣していたが、すぐに痙攣は止まり、灰となり場には魔石だけが残った。


「勝利!」

光矢さんがガッツポーズをして、そのまま風花さんとハイタッチ。

魔石を拾った宝木さんともハイタッチ。宝木さんと風花さんもハイタッチした。


戦闘で荒んだ心が浄化されるような感覚を覚える。


戦闘中減っていたコメントも元の勢いを取り戻していっていて、「8888」だったり「おー」と言った好意的なコメントが多い。


でも「血が……」と言ったコメントもあるから、グロイのがダメな人も居るのだろう。


「綺麗に連携出来たね!」


「ナイス前衛、ナイスふぉろー」


「フォロー助かった、良い火力だった」


皆が皆を称え合う。美しい光景である。


「カメラさんもありがとうね!」


急に話を振られた。こ、声を出して良いのだろうか。声を出して男とバレて炎上ということはないのか。

かといって無言を貫くのも……


「ありがとう」

「ありがとね〜」


思わず一歩後ずさる。


結局選択したのは、カメラごとお辞儀する だった。



戦闘が終わり、完全に気を抜いていた。だから、反応出来たのは宝木さんだけだった。


僕が危機を認識する前に天秤は傾いた。

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