ギルドとダンジョン

「カメラさん放送準備お願いしまーす」

一応、僕の名称はカメラでお願いした。流石にアイドルの生放送で自分の実名出すのはちょっとためらわれたから良かった。


「はーい」


僕はスマホを構えた。

正直、僕の古すぎる常識では、本格的な撮影はちゃんとしたカメラの方が良いと思っていたが、生放送をしようと思ったときに、スマホのほうが便利らしい。機械音痴の僕にはよくわからないけれど……


「生放送はじめまーす、3,2,1、0」

僕は生放送開始のボタンを押した。


「みなさん、こんにちは!ダンジョンアイドルズ!です」


「今日は、ダンジョンがどのようなところか、そして実際の戦闘を見せようと思っている」


「チャンネルは変えずにそのままでねー」


「ちなみに背後に映っているのは、ダンジョン資源管理本部、通称ギルドだ」


「では、ギルドの中に入ってみましょう!」


コメント欄の様子も余裕があったら見てねと言われたが、正直流れるのが速すぎてなんて書いてあるのか、ながら作業では全然読めない。


とりあえず、コメント欄は諦めて、撮影に集中する。


「はい、こちらがギルドとなっています。あ、受付の人がいらっしゃいますね。お話を聞かせていただきましょう!」


「みなさん、ダンジョン資源管理本部にようこそ。本日はどのようなご要件で?」


「ここではどのような事ができるのでしょうか?」


受付嬢さんは、少し間をおいた。

「ここで出来ることは多岐に渡ります。まず、探索者としての登録です。これをしていただかないとダンジョンに潜ることが出来ません。次に、攻略情報の提供ですね。みなさんが、安全にダンジョンを探索できるよう情報を集めています」


「なるほど、ここで正確な情報を集められるんですね」


「また、貸部屋サービスや、更衣室、シャワー、隣室ではありますが食事の提供を行っております」


「確かに。ダンジョン攻略用の装備付けたまま電車とか乗ったら不審者になってしまう」


すごいありがたい機能が揃っているなぁ。流石にファンタジーのギルドと違って隣接してるのが酒場じゃなくてご飯やさんなのは少し残念だけど……


「ここまでが、ダンジョン攻略前によく利用されるサービスですね。ダンジョン攻略後によく利用されるサービスもお聞きになりますか?」


「はい、お願いします!」


「更衣室、シャワーなども需要が高いですが、最も重要なサービスがあります」


「それは……なんですか?」


「魔物からドロップする魔石の買い取りです。探索者様がダンジョンに潜られる理由ですからね、一番大切です」


確かに一番大事。


「他にも情報の買い取りを行っておりますね。何階層でどのような敵が出たのかという情報や、ダンジョンのマップ、そしてジョブのスキルの情報を買い取らせて頂いております」


「あー、剣闘士で5レベルになると、「一閃」を覚えるみたいな?」


「そうですね。それに加え、スキルの検証にご協力いただいた際に、追加の報奨金をお渡ししております」

「ありがとう。とても勉強になった」


「お役に立てたならば、何よりです」

3人が一礼し、受付嬢さんも礼を返す。


「では、早速ダンジョンに向かうか」


「ちゅういー、私達は尺の都合で事前にダンジョンの情報を聞いて、準備を整えているよー。だからみんなもちゃんと受付さんに情報を聞いて、しっかり準備してね」


「あはは……」

尺の都合とぶっちゃける風花さんに光矢さん、宝木さんは苦笑いした。




「右手に見えますはダンジョン、新宿ダンジョンでございま〜す」


「バスガイドかな?」


「やはり、ダンジョンは異様な姿をしているな」


「まるで、でっかい厚さのない真っ黒なガラス」


光を一切反射しようとしない純黒が、僕らを口を広げ、待っているように見えた。


「では、今からダンジョンに入りたいと思います。不思議なことに電波は通じるから、ちゃんと番組は続くよ!」


3人が黒に飲み込まれに行った。僕もそれに続いた。



ぐにゃりと自分が歪むような感覚が一瞬あった後、僕達はダンジョンに立っていた。


情報としては知っていたけれど……


「ダンジョンは、異なる世界。全く別のルールが支配する場所。ここ、新宿ダンジョンは開放型」


背後に自分が通ってきた黒が存在する以外、一面に広がる緑。その驚きをどうにか伝えたくて、カメラを一回転させる。


「今からダンジョン探索を始めよう」


「「おー!」」

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