異世界から現実世界に戻ってダンジョン配信を始めたら実体験の場面しかなくヌルゲーになっていた。攻略不可とされていたダンジョンを容易く攻略してしまった結果がこれです。

タキテル

第1話 現実世界へ


「冒険者、櫛上信拓くしじょうしんたくよ。よくぞ魔王を討伐し、世界を救ってくれた。国王として……いや、世界の人口代表として感謝する。君こそが英雄であるぞ」


突如現れた魔王・ヒドラの存在によりこの世界は滅亡寸前までに追い込まれた。どういう訳か、俺は現実世界からこの異世界に転生させられて勇者として世界を救ってほしいと頼まれてなんやかんやで魔王・ヒドラと言う宿敵というかラスボスと言うかこの世界に破滅をもたらした存在を討ち取り世界を救った。世界は俺の活躍によって守られたのだ。

そして現在、俺は王宮城の国王の部屋に呼ばれて表彰されている訳だ。

「英雄、櫛上信拓くしじょうしんたくよ。世界を救ってくれた褒美にそなたの望むものを何でも叶えてやろう。さぁ、何を望む?」


 そうだ。世界を救った訳なのでそれ相応の何かを得ることは必然的ではないだろうか。

 俺の望むもの。それは一つしかない。


「国王様。本当に何でも叶えてくれるんですか?」


「勿論だ。おっと、国王の座を譲れとか無理なものはあるので可能なものに限るぞよ?」


 国王様は少しヒヤリとしながら言う。


自分の地位だけは死守したい様子だ。俺はそんな鬼ではないので国王の座を譲れとか国王の座を降りろ何て望まないのだが、どうもそのように解釈されてしまったらしい。


「安心して下さい。俺は国王の座に興味ありませんから」


「そ、そうか。それなら良いのだが。それで何を望む?」


「可能かどうか分からないですけど、一つだけ望みがあります」


「ほぉ。その望みとは?」


 国王の問いに俺はハッキリと言い放つ。


「俺を現実世界に戻して下さい。それが俺の望みです」


「現実世界というのは信拓殿が元居た場所のことだな?」


「はい。ここの人で言う異世界と言ったところですね」


「うむ。可能といえば可能だが、本当に良いのか?」


「と、言いますと?」


「今、この世界は信拓殿を慕う者が大勢いる。知名度も名誉も財産もあり、何不自由なく暮らしていける。魔王討伐までに得た人との信頼関係もあるはずだ。元の世界に戻ると言うことはそれら全て失うことになる。それでも良いと言うのか?」


「はい。異世界に未練はありませんから」


「正気か? あれだけのことをやり遂げて培った経験は並のものでははずだ。それらを捨ててまで元の世界に戻る意味はあるのか? 第一、勿体ない。そこまでして元の世界にメリットがあるとは到底思えないのだが」


 俺の発言に国王様は理解できないといった感じで首を傾げた。


「確かにここで得た経験は最高の財産です。メリットやデメリットで考えるのではなく俺には現実世界での生活が合っているってことです。だから国王様、俺の望みを叶えて下さい」


「信拓殿の意志は堅いようだな。承知した。仲間との別れの挨拶もあるだろうし、現実世界とやらに戻すのは数日後にするとしよう。希望の日にちがあれば……」


「いえ、すぐに戻して下さい」


 俺の思わぬ発言に国王様は動揺していた。一番上に立つ人物とは思えないほどの姿だ。


「いやいやいや。それはあまりにも急ではないのか? 冒険した仲間やこれまで世話になった人に何も挨拶なしに帰ると言うのは少し寂しいのではないのか? 会うのが難しい人がいるなら手紙を書く時間くらいは……」


「いえ。そう言うのは大丈夫なのでサッサとやっちゃって下さい」


「大丈夫って言われても周りのことをもう少し考えても……」


「では国王様から皆に言って下さい。【櫛上信拓は元の世界に戻りました。今までお世話になりました】と」


「わ、わしから? 別に構わないが、そこまで急ぐ理由は何じゃ?」


「それはまぁ……会うと気まずくなりますし。俺、そう言う辛気臭いの苦手ですから」


「そ、それだけの理由で?」


「そうですね。何か問題でも?」


 呆気に取られたように国王様は歯痒い感じでモヤモヤとしていた。

 だが、最後には納得してくれた。


「よかろう。そこまで言うならすぐに転移準備に取り掛かる。魔法陣の上に座ってくれ」


「はい。ありがとうございます」


 俺は魔法陣の上に腰を下ろした。

 異世界に来た時と同じだった。俺はこの魔法陣で転生させられた。


「ちなみに元の世界に行くと今まで使っていた水や炎といった自然魔法のほか、固有のスキルなど全て使えなくなってしまう。いわゆる無能力になるのだ。それでもよかったのだろうか?」


「えぇ、問題ありません。そんなチートスキルで戻ったらズルみたいなものなので」


「なら安心だ。転移の準備は上々。すぐにでも可能だ。良いか?」


「お願いします」


「では、転移を開始する。そのまま動かんでくれよ」


 カッと魔法陣が光って転生が始まった。

 俺の身体は光に包まれていく。いざ、帰るとなると異世界で関わった人たちが走馬灯のように頭に映し出された。

 もう会えないと思えば悲しくなるはずだが、今の俺にはそんな感情は湧かなかった。悔いはない。これでもう異世界とはおさらばだ。


「信拓殿。挨拶する相手がわししかおらんのが寂しいとは思うが、最後に言わせてもらう。本当にありがとう。信拓殿の活躍は代々受け継がれていくことになる。今度、英雄、信拓殿の銅像を建てさせてもらうとしよう。良いかな?」


「銅像ですか……。まぁ、良いですけど」


「現実世界とやらでも武運を祈るよ。達者でな」


「はい。お世話になりました。そしてありがとうございました」


 国王様にそう言い残した俺は視界が真っ白になり、消えた。

 俺は異世界から元の世界に戻ることになったのだ。

 ここから先が俺の第二の人生。いや、第三の人生かもしれない。

 転生中の俺は意識がなくなり、次に目を覚ました時は現実世界であることを実感することとなる。

 カッと光ったその先で俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。


「お、あがわああああああ、んんんんん」


 声を発しようとしたが、しばらく声を出していなかったせいなのか。

 言葉にしようにも言葉になっていなかった。

 俺の身体はどうなっているんだ?

 すると俺に気付いた看護師の女性が近付いた。


「意識が戻っている? 先生を呼ばなきゃ! 先生! 先生!」


 慌しく看護師の女性は病室から出て行く。

 後から知った話だが、俺は不慮の事故で植物人間になってしまい、異世界に転生中は身体だけ現実世界で眠っていたようである。

 俺のリスタートは波乱の幕開けだった。



■■■■■

新作スタート!

流行りに乗っかってみました。

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