自分

空野宇夜

自分

「ごきげんよう」


公園のベンチに座った男が話しかけてきた。


「やあ」


私はそう返す。


「あなたの昨日の晩御飯はなんでしょう?」

「さあね。答える気にもならない」

「昨日も残業でしたか」

「いいや、私は学生だ」

「これは失敬。学生さんでしたか」

「ああ。今は夏休みの真っただ中だ。だがびっくりするほど充実していない」

「そんなあなたのために願いを叶える方法をお伝えしましょう」

「聞くだけならタダか? じゃあ聞かせてくれ」

「ではまず目を閉じてください。

 そしてあなたの好きな人を思い浮かべます。

 目を開けて下さい。

 その好きな人に実際に告白してください。

 そのあと、その人と結ばれてください」

「そうするとどうなるんだ?」

「あなたの願いが叶うでしょう。ただし……」

「ただしなんだ?」

「失敗すればあなたは死にます」

「は? どうやって?」

「誠意をもってあなたを殺して差し上げるのです」

「なぜだ? なぜあんたが私を殺す?」

「あなたは夢を叶えられなければ死ぬのでしょう? だからです」

「なぜわかるのだ? 心内だけで留めておいたのに」

「わかるのです。私の目にそう映っていますから」

「どうにもキナ臭い。さっきから思っているがあんたはいったい誰なんだ」

「私ですか? 私は神です」

「面白いジョークだ。そんな神様がなぜ私に願いの叶え方を教えてくれるのだ?」

「あなたの願いをかなえてあげたいからです」

「本当にそれだけか? いいや違う私はそんな事が聞きたいわけじゃない。なぜ私の願いがわかるのだ。いや、それもいい。あんなことで私の願いが叶うというのか?」

「はい、なんでも。パイロットでも金持ちでも、その他諸々」

「馬鹿な」

「本当です! 現にあなたはその願いに向けて歩んでいるのですから」

「もっとわかりやすく言ってくれ」

「あなたは今夢を見ています。現実ではあなたの好きな人と結ばれその願いへ向けて歩んでいるというわけです」

「だから残業だったとか言ってきたのか」

「ええ。それに今、あなたは夢から覚めようとしています」

「そうか。わかった。もう現実を受け入れる準備はできた」

「そうですか。その言葉が聞けて良かった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分 空野宇夜 @Eight-horns

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ