第140話 場所決定
翌朝。朝餉の時間。
皆で膳を囲む。
おかずはマサヒデの土産の魚の塩焼きと、汁一碗、香の物。
「マツさん。食べたら、シズクさん、カオルさんと行ってきますね」
「あ、見つけた場所ですね」
「はい。お二人共よろしいですか?」
「私はいいけど、なんでカオルも来るの?」
「念の為、カオルさんに周囲を確認して頂きたいのです」
「承知しました」
「場所も分かっていますし、それほど高くもないという話。
急げば夜までかからないでしょう」
「はい。お気をつけて」
「そうだ、マツさんには、馬屋で馬具のお金を払っておいてもらいたい。
朝には出来ると言っていましたし、また白百合に会いに行ってはどうです?」
「はい! 白百合ちゃん、早く会いたいですね・・・」
マツの目が輝いている。
よほど白百合が気に入ったようだ。
「・・・ごほん、では弁当を用意したら行きましょうか」
「は」「はーい」
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3人で街道に出て、しばらく。
カオルは薄手のローブを羽織った、軽い旅人といった服装。
「あの山だよ。真ん中へん。
木で分かりづらいけど、よ~~く見ると、平らになってる所」
「町からも村からも遠い。うむ、距離もいいですね。
余程の大爆発や落雷なんかがなければ、バレたりしないでしょう」
「もうちょっと歩いたら、街道を出るんだ。私らなら昼には着くと思うよ」
「シズクさん」
「なにカオル? 変な顔して」
「・・・まさか、木をなぎ倒して道を作ったりとかしてませんよね?」
マサヒデもぴく、と眉をひそめる。
「するわけないじゃん!」
「なら構いません」
「もう! 二人共、私をなんだと思ってるんだよ!」
「いえ・・・シズクさんさんだと、ちょっとやりかねないか心配で」
「まあ、出来ないこともないけど。しないよそんなこと」
「ほらやっぱり! ご主人様、聞きました?」
「出来ちゃうんですか・・・さすがというか・・・」
「でも、そんなことしてたら、時間かかって仕方ないじゃん。
マサちゃんも、道がない方がいいって言ってたじゃん。カオル、忘れたの?」
「どうでしょうか。場所を探すのに夢中で、道なんか・・・なんて」
「カオル・・・あんたケンカ売ってるの?」
「・・・」
2人の間に冷たい空気が走る。
「カオルさん、煽るようなことは言わないで下さい。
シズクさんも、ちゃんと分かってるんですから」
「へっ」(にや)
「・・・」(ぷい)
「ところでシズクさん、ほんとにそんな道くらい、作れちゃうんですか?」
「もう、やめてよ!」
「いや、そういうんじゃないんですよ。
もし出来るなら、いい仕事になりそうじゃないですか。
道路を作るって、ものすごい稼げると思うんですけど」
「そうなの?」
「ええ。道路作りって、各地域の単位で行う仕事ですよ? 大きな街道なら国単位。
それが1人で出来ちゃうなんて、相当稼げると思いますが」
「え、道作るのってそんなにすごい仕事だったの!?」
「そうですよ。知らなかったんですか?
ほら、ギルドの掲示板にも、作業員募集とか出てるじゃないですか。
結構いい値段ですよ? 1人で出来ちゃうなら、全額独り占めですよ?」
「知らなかったよ・・・近場で仕事あったら、小遣い稼ぎにやってもいいなあ」
「あなたなら、他にもいくらでも稼げる仕事がありそうですけどね。
伐採、採掘、石運び・・・どれもかなり稼げますよ」
「へえ・・・そんなに稼げるのか。
知ってたら、今までの旅も楽になってたのになあ」
「今までどうやって稼いでたんです?」
「飲み比べとか、腕試しとか、あと畑仕事手伝ったりとか?
井戸掘りしたこともあったな。
腕試しは、たくさんいれば結構いい稼ぎだけど、1人で終わっちゃうとね」
「・・・そんな稼ぎ方してたんですか・・・」
「どこの村だったかな、井戸掘り。
結構深いとこまで掘った所で、でかい石があって困っててさ。
こいつでガツン! ガツン! ばしゃー! みんな喜んでくれたよ!」
シズクはにやにやして、ぽんぽん、と手に持った鉄棒を叩く。
「良い事をしましたね」
「へへへー。だろ? 村をあげて宴会してくれたよ。
次は道作るようにするかな」
「ふふふ」
シズクは足を止めて、山の中腹を指差す。
「あそこだよ。迷わないように、ちゃんと、木に刻み入れておいたよ」
ぱさり、と地図を開く。
「ふむ、ここら辺りですね」
指で丸く円を描く。
「多分ね! じゃ、着いてきてよ!」
街道から外れて山の麓に向かう。
マサヒデはすっと後ろに下がり、カオルに囁く。
(刻みを入れた木が、どの木か分からないってなりますよね)
(おそらく)
(煽っちゃダメですよ)
(は)
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山の麓近く。
「えーと、どの木だったかな・・・この辺だったはず・・・」
「・・・」
予想通り。
「ごめんね、もう少し待ってて・・・」
「ええ、構いませんよ」
がさがさと茂みに入って行くシズク。
(ご主人様、場所は分かってますし、このまま登っては? 時間もありますし)
(そうですね・・・)
シズクがばりばりと茂みをなぎ倒して出てきた。
ぱちん! と手を合わせ、頭を下げる。
「ごめん! どの木だか分かんなくなっちゃった!」
「構いませんよ。ここからでも行けるでしょう?」
「うん! 案内するよ!」
そう言って、顔の高さくらいにある枝を握り潰し、ぽいと投げ捨てる。
折っているのではない。握り潰している。
「・・・」
「・・・」
シズクはそのままばきばきと茂みを倒し、一直線に登って行く。
なぎ倒された茂みに気を付けながら、マサヒデ達は着いていく。
シズクのおかげで、深い茂みも全部潰され、歩きやすい。
そのまま、無言でしばらく登っていく。
「あ! あそこだよ! あと少し!」
シズクが指さした方向の木の隙間、向こうが開いているのが見える。
「おお」
広い。下から見た時は、こんなに広い平地があるようには見えなかった。
草の丈が少しあるが、気になる程ではない。
「ううむ、これは中々の場所じゃないですか。
カオルさん、少し周りを見てもらえますか?」
「は」
カオルは風を残して、木の間に消えていった。
「少し草があるけど、いいだろ?
クレール様以外だったら、気にならないんじゃない?」
「いいですね。念の為、我々も少しここを歩きましょう。
今、カオルさんが周りを見ています」
「うん!」
がさがさと草を歩く。
少しぬかるんでいる所がある程度で、足が埋まるような所はない。
「うむ。少しぬかるんでる所がありますが、走り回るようなことはないと思いますし・・・カオルさんが確認して良かったなら、ここにしましょう。シズクさん、良い場所を見つけましたね」
「へへへ」
真ん中に立って、周囲を見てみる。
それほど高い木が囲んでいるわけではないが、ちょうど良い具合に木に隠れて、山のてっぺん辺りがぎりぎり見えるくらいだ。
これなら、大きな事がなければ、上からも見えないだろう。
町からも村からも距離がある。
人の痕跡がないことが確認できれば、上々だ。
そのまましばらく周囲を見回していると、カオルが木の隙間から飛び出してきた。
さーと草をかき分けて、ローブが走ってくる。
「ご主人様、大丈夫です。我々以外の痕跡はありません」
「よし! では、場所はここで決定です!」
マサヒデはにこりと笑って頷いた。
地図を出して、丸を描く。街道から、登ってきた所に線を引く。
「あとは出来上がりを待つだけですね。
では、お二人共。影に入って、弁当を食べましょうか」
「は」「わはーい!」
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