第134話 場所探し・3
草をかき分けて森の中に少し入って行くと、中はそれほど草深くない。
たまに手を入れているのか、木もそれほど密集している感じではなく、切り株が見える。
根っこが出ていたり、落ち葉が積もっていたりするが、少し注意すれば良い程度。
石が転がっているが、そんなにごろごろしているわけでもなく、多くはない。
馬はさすがに降りなければならないか。
ここは町からそれほど遠くもない。
魔剣の調査に使えなくても、クレールやラディを連れてくるのに悪くない。
足を止めて、周りを見渡す。
静かなものだ。
鳥の鳴き声、風でかさかさと鳴る落ち葉。
木の葉から日が差し込んでいる。
「・・・」
そのまま足を進めていくと、少し広い隙間に出る。
8畳ほどの広さの、小さな木々の隙間。
まだ町から離れてもいないし、とても調査に使える広さではないが、休むにはいい場所だ。
ふう、と息をついて、木にもたれかかる。
水筒を取り出し、一口だけ。
水。そういえば、魔術師がいれば、水も火も使い放題だ。
薪さえあれば火も簡単におこせる。水筒もいらない。
土の魔術で壁を作り、屋根を置けば、簡単な寝床も作れる。
となれば、荷物も随分軽くなる。
魔術とは便利なものだ。
帰ったら、マツやクレールから、簡単な火か水の魔術を教えてもらうのも、良いかもしれない。
戦うのに使えなくても十分だ。小さな火とか水が出る程度で良い。
安い魔術の品を探すのも良いか。
砂漠のような地で水が飲み放題。どれだけ楽になるか・・・
ぼーっと木の隙間から空を見上げてそんな事を考えていると、向こうに高い木が見える。あれは杉の木か。
「ふむ?」
あの木をよじ登れば、周りを見渡せるか。
ちょっと大変だが、縄が回れば枝がなくても登れる。
変な感じもしないし、周りに魔獣の気配もない。
何かの巣ということもないだろう。
クレールのように風の魔術が使えれば、高く浮き上がって周りを見渡せるが・・・うーむ、やはり魔術は偉大だ・・・
(行ってみるかな)
よ、と立ち上がって、木に向かって歩き出した。
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「よーいしょ、よーいっしょっと」
シズクは、ばりばりと枝や茂みをなぎ倒しながら進む。
小枝や小石くらいは、踏んでも大したことはない。
分厚い肌と筋肉は、多少の茂み程度で傷もつかない。
長年の旅で鍛えた体力は、山も気にせず登って行ける。
遠くから見上げた所、中腹辺りが少し平らになっているのが分かった。
下から見上げた感じは木が生えていたが、中に入れば空いているかもしれない。
「うん?」
誰かいる。
こんな山深い所に祭の参加者はいまい。
狩人か、山菜でも取りにきたか。
地元の人に、良い場所があるか、尋ねてみるのも良いだろうか。
「あ」
しまった。人がいちゃいけない。
てことは、この辺じゃだめだなあ・・・
心当たりの場所があるか、聞くだけ聞いてみよう。
がさがさ。ばりばり。
「ごめんよー、ちょっといいかーい」
ばき、めし、めりめりっ。
「ひっ」
べきっ! ばりっ!
山菜摘みに来ていた中年の女は、腰をついた。
茂みの中から、何かがくる!
「よっと」
顔の高さにある、一握りほどの枝を握る手。
生木の枝を根本から小枝を握り潰すように軽く折り、ひょいと投げ飛ばす・・・
すごい力だ!
「ごめんね、ちょっと聞きたいんだけどさ・・・」
背の高い、青黒い肌。
頭に生えた角。
手に持った鉄の棒。
これは鬼だ!
絵物語そのままだ! 本当にいたんだ!
「はっ! はっ・・・」
「おい、どうしたのさ? 大丈夫か? 日に当たりすぎたか?」
どすどすと鬼が近付いてくる!
腰が抜けて立ち上がれない!
「あ、あ・・・」
「・・・おい、大丈夫かい? すごい顔色悪いよ?」
心配そうな顔で女の顔を覗くシズク。
その顔も、心神喪失になりそうな山菜摘みの女には、悪鬼にしか見えない。
「ちょっと、大丈夫? ねえ?」
女の肩にぽん、と手を乗せると、
「ぎゃあー!」
「うわあ!?」
大声を出して、山菜摘みの女は倒れてしまった。
シズクも驚いて尻もちをついてしまった。
「お、おい! どうした!? 大丈夫か!? 驚いちゃったかな・・・」
シズクは驚いて気を失った女をそっと抱き上げ、近くの木陰に連れて行った・・・
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音もなく木の間を走り抜ける黒い影。
「・・・うむ」
カオルは一度立ち止まり、地面に地図を広げる。
自分の位置、自分が通ってきた位置を確認。
いくつか印を付けておいた点に、バツ印。
風に飛ばされないよう、地図の上に石を置き、近くの木の枝に跳ぶ。
枝から枝に、上に跳ぶ。
「・・・」
風に吹かれて、束ねた髪が流れる・・・
「・・・」
開けた場所はいくつかあるが、傾斜地では遠くからでも見えてしまう。
周囲に人の気配なく、木に囲まれ、遠くからでも見えず、ある程度広く平地になっている場所。
こう限定されると、中々良い場所が見つからない。
「む!」
研ぎ澄まされた聴覚が、風の中に混じる何かの声を聞き分ける。
目を閉じ、音のする方角に集中。
(馬・・・)
複数頭。
道のない山の中。ここまで馬で狩りに来る者はいまい。
狩人が荷運びに引いてきた馬かもしれない。
だが、馬を複数頭も引っ張って狩りはまずなかろう。
とすると、これはおそらく野生馬の群れ。
野生馬が住処としている、草地があるのだ。ならば広さもあるはず。
ここからでは木に囲まれて見えないが、見えないのは尚の事、好都合。
傾斜がなければ、なお良し。
多少の傾斜でも、ここから見えないなら、高い木に囲まれているか、窪地のはず。
まだ時間もある。山を降り、見えないかどうか確認しても良い。
道もなく、かなり登りはしたが、馬はそれなりの値。
ここに馬がいると知られていれば、捕えに来ている者もいるかもしれない。
周囲に人の痕跡があるかどうか。この確認は念入りにしなければ。
(馬か! いい土産が出来た!)
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冒険者ギルド、訓練場。
「アルマダ=ハワードです。
今日、明日とマサヒデさんは町を離れることになりまして・・・
代稽古を頼まれました。今回は、私が稽古を担当させて頂きます」
輝く金髪と碧眼。
整った顔。
すらりとした高い背。
綺羅びやかな鎧。
鎧の上からでも分かる、細く、しかし鍛え上げられた身体。
「はい!」
そして、女性陣の輝く瞳。
「マサヒデさんは、1対1の稽古が主だったようですが・・・
本来、あなた方冒険者はパーティーを組んで働く方々。
私は個の力ではく、皆さんの連携した動きを見たい。
パーティーで参加しておられる方々は、是非パーティーでお願いしますね。
もちろん、1対1でも構いませんよ」
「はい!」
「あ、そうそう。この鎧ですけど、実はまだしっかり慣れてないんです。
身体に馴染ませる為に着てきたので、今回は私自身の訓練でもあります。
遠慮なく叩き込んで下さいね」
「そんな・・・叩き込むだなんて、傷が・・・」
「戦いの場で傷つくのは当然でしょう?
では、始めましょうか。最初は・・・」
「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」
「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」
女性陣全員の手が上がる。
「ははは、皆さん、お元気ですね。
マサヒデさんも楽しかったでしょう。では、そちらの方から」
「お願いします!」
女冒険者3人が、アルマダを正三角形に囲む。
前に剣が1人。
後ろに槍が2人。
(ほう。さすがに場慣れたものだ)
陣形だけでも見事だ。
前にかかり、ほんの少しでも剣に抑えられれば、後ろから槍で。
横に逃げようとしても、どちらかの槍で抑えられ、前の剣か別の槍にやられる。
後ろに下がれば刺されるか、止められて、やはり前の剣が攻めてくる。
上手い形だ。
(マサヒデさんの言う通り、これは良い稽古になる)
さて。
右にすっと動くと、後ろから槍が薙ぎ払われてきた。
同時に正面の剣も入ってくる。
「ええっ!?」
アルマダは思い切り槍の上に落ちるように横に倒れ、転がる。
鎧の重さで槍が地に落ち、槍を出した女冒険者が引っ張られてつんのめる。
転がった勢いに乗って回転し、その勢いで鎧の重さを殺し、すっと立ち上がりる。
陣形の外を駆け抜けながら、こん、こん、こん、と3人の頭をつつく。
「あれっ」「いたっ」「えっ」
全身に金属鎧を着て、転がり、普通に立ち上がるとは。
そして立ち上がった後のあの動き。
全身鎧を着ている動きではない・・・
「ここまで。さすが場慣れてますね。見事な陣形でした」
「きゃあー!」
ぱちぱちぱち。
拍手と喝采が、キラキラした瞳の女性陣から上がる・・・
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