第十四章 魔剣の調査場所
第132話 場所探し・1
朝食の後。
ラディは真っ赤な目をして、すごい気迫で帰って行った。
マツもカオルもシズクも、まだ涙目だ。
「さて、カオルさん。シズクさん。
あの魔剣のことで、お二人にお願いです」
「ひゃい!」
「なんでしょう」
2人の泣き腫らした様子を見て、マサヒデは息をつく。
「・・・なんか、前もこんなことありましたね・・・」
「マサヒデ様が悪いんですよ。女たらしだから」
「やめて下さいよ。そんなつもりで名前を付けたんじゃないのに・・・」
はあ、とため息をついて、真面目な顔を上げる。
「さて、話を戻しますよ。
今回は、お二人と私で、魔剣の力を調べる為の場所を探したい」
「場所? また訓練所をお賃りしては・・・ああ」
ぽん、とマツが手を叩く。
「そういうことです。もし訓練所を吹き飛ばすような事があったら大変ですからね。
訓練所以外の建物にも被害が出る。破片が飛んでって町に被害が出たら大変です。
即、魔剣を持ってるってバレますし・・・
マツさんが魔術でって誤魔化してもいいですけど」
ふふ、とマサヒデが笑う。
「まあひどい!」
くす、とマツも笑う。
「最初は、マツさんの魔術で閉じ込めて、その中で、というのも考えました。
でも、私は魔術関連の品って推測は、まず当たっていると思います。
魔術を使うラディさん、クレールさんが、すごい魔力を感じてます。
魔術を使わない私やカオルさんでも、何か身体にって、はっきり分かるほどです。
となると、魔術で作られた場所の中、というのはちょっと危険があるかも、と」
「どんな影響があるか、分かりませんものね」
「というわけで、この町から離れた所で、人気のなく、ある程度広い所。
もちろん、遠目からでも見えない、そういう場所を探しておきたいんですよ」
「どの程度離れた場所まで?」
「半日から、1日くらいの場所にしましょう。
あまり近すぎると、大きな力がうっかり出ちゃうとバレちゃいますし」
え、とシズクが眉をしかめる。
足の弱いクレールとラディを連れて、そんなに遠くに?
「マサちゃん、そんなに遠い所にするの?」
「ええ。すぐ力が判明したとしても、泊まりにしようかと思ってます。
クレールさんと、ラディさんの、何というか、簡単な旅の練習みたいな感じで」
「ああ、あの2人は旅なんかしたことないもんね」
納得、という顔で、シズクは腕を組んで、うん、と頷く。
「1日か2日くらいなら、ちょっとした野外宿泊みたいで、楽しめもするでしょう。
こういう事もある、って知ってほしいんです。
実際は、祭の旅では、ほとんど街道を使って町から町への移動ですけどね」
んん? とマツが顔を向ける。
「クレールさんとラディさん? マサヒデ様、なぜ私ではいけないんですか?」
「マツさんは、あの魔剣を持ったって全く分からないくらい、魔力も魔術の強さもすごいでしょう。例えば、魔力を増幅とか、魔術が強くなった、とかだと、マツさんだと、どんな変化があったのか、全く分からないかもしれないじゃないですか」
「まあ・・・そうかもしれませんけど・・・」
「マツさんは、魔剣なんかなくても、既に魔剣を遥かに超える力を持ってるんです。この世界で敵わないのは、魔王様とうちの父上くらいでしょう? 父上だって、正面切ってじゃなく、離れた所から道場ごと吹き飛ばせば楽勝でしょうし」
「・・・」
自慢の術を破られた事を思い出したのか、マツはちょっと暗くなってしまった。
「ご主人様。クレール様も治癒魔術は使えますが、なぜラディ様が?」
「理由はふたつ。
ひとつは、ラディさんは独自の魔術を持っているからです。
普通の魔術にどんな影響があるか分かっても、独自の魔術にどんな影響があるか。
マツさんも独自の魔術はありますけど、先の理由で分からないかも知れません。
もうひとつは、手掛けた作品ですから、見届けたいだろう、という所です」
む、とした顔でマツがマサヒデを見る。
「・・・マサヒデ様、最近、ラディさんに甘くないですか?」
ははは! と笑ってマサヒデはマツを見る。
「じゃ、甘くなったついでに、ラディさんともお出かけに行きましょうか?」
「もう!」
少しして、マサヒデは笑いを止め、腕を組む。
険しい顔で、顎に手を当てる。
皆も何だ? とマサヒデを見る。
「・・・でも、ちょっと怖い所もあるんですよね・・・
ラディさん、あれだけすごい治癒魔術を持ってるでしょう?」
「ええ」
「もしですよ。魔術をすごく強力にするような力があったら、ですよ。
・・・腕を治療してみたら・・・腕がぐんぐん伸びてったりとか・・・」
「・・・ありそうかも・・・」
「・・・あるかもしれませんね・・・」
「・・・それを否定出来ないのが、怖いですね・・・」
皆の顔が不安そうになった。
「ま、まあ、この辺は虫とか動物でも捕まえて、試してみましょうか」
「それが賢明ですね」
「分かったよ。で、どのへんを探すの?」
マサヒデは地図を出し、ばさっと広げた。
地図に指を置いて、すーと指を動かす。
「こっちへ行くと、トミヤスの村の方に出ちゃいますから、この三方向」
ここ、ここ、ここ、と指差す。
「ここが街道なんで、この周辺はだめ。
なので、お二人には、こっちとこっちの山の方を担当してもらいましょうか。
私より足もありますし、一般の人の半日から1日の距離なんてすぐでしょう?」
「まあ、道にもよるけど・・・」
「道なんてなくて結構です。せっかく旅の演習も兼ねるんです。むしろ、ない方が良いです。道があるってことは、人が通るってことですから」
「たしかに」
「私はここらへん、森の方ですね。こちらを見に行きます。
森と言っても、そこまで木が詰まってる感じでもなさそうですし。
クレールさん、ラディさんでも、普通に歩けるでしょう」
「早く見つけたら、何か捕まえてくるよ! 鹿とか猪とか、美味しそうなやつ」
「ふふ、楽しみですね。では、よろしくお願いします。
中々見つからなかった時の為に、外で寝る準備もしておいて下さい。
見つからなくても、明後日にはここに戻ってきて下さいね」
「はい」「りょーかーい」
「では、お二人の地図はこれ。見つけたら、ちゃんと印をお願いします」
ばさ、とカオルとシズクに地図を渡す。
「じゃ、準備が済み次第、それぞれ出発ということで。
私は、アルマダさんに、今日明日は町を離れる、と伝えてから行きますね。
ではお二人共、くれぐれも怪我に気を付けて」
は! とカオルが顔を上げた。
「あ! ご主人様!」
「どうしました?」
「ご主人様は、祭の参加者ですよね? 1人でいると、狙われませんか?」
あ! とマツもシズクもマサヒデを見る。
「それはそれで好都合ですよ。
狙ってくる者がいれば、そこは人がいるって分かりますし」
「・・・」
「危ないと思ったら逃げてくればいいだけですし。平気ですって」
「・・・そうですか・・・」
マツもカオルも、呆れと不安が混じった顔を向ける。
シズクだけがすぐに笑顔になる。
「マツさんもカオルも、そんな心配することないよ。
マサちゃんなら大丈夫だって」
シズクがにこにこ笑って2人に声をかける。
「ま、というわけで心配ご無用です。お二人共、よろしくお願いしますね」
「はい・・・」
「はーい!」
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