そのキスで・・・「第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」参加作品

中島しのぶ

そのキスで・・・

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。


 え?なんだ、今の声は?

 オレはその声で正気に戻り、今まさに同じクラスの男子生徒を『TS娘』にするために掴んだ相手の肩から両手を離した・・・


***


 オレは中島薫、高校2年生の普通の男子生徒『だった』。

『だった』というのは50年ほど前にこの地方小都市で、風土病ではないかと言われている原因不明で流行り出した思春期の男子が『女子固定化』(TS娘)する『後天性女子固定化症候群』に発症してしまったんだ。

 40℃近く発熱した翌朝、女の子になっていた。いわゆる『朝おん』だ。容姿は自分で言うのもなんだけど、かなりの美少女だ。低身長で胸が小さいのがちょっと残念かな?他の『TS娘』と違うのは目が赤くて金髪ってところが気にはなったけど・・・


 朝おんの当日、当然ショックだったけど父は跡取りの一人息子が女の子になってしまい「どうしてこうなった〜!!」と慌てふためき、母は「あら〜綺麗な髪と目!わたし実は娘が欲しかったのよね〜嬉しいわ〜」などと言い出す始末。

 そんな両親を見てオレはかえって冷静になり「と、とにかくオレ女の子になっちゃったから学校とか市役所に連絡しないと・・・」と、こういう時こそ俯瞰しなくちゃな。


 その後、母はオレの顔写真を携帯に撮って学校と市役所に性別変更の手続きに行き、父は落ち着いたらしかったが、少し落ち込んだまま出社した。

 この街では『女子化』はよくあるので、学校も市役所も受付は簡単に済んだとよ母から携帯に連絡があった。名前は幸いにも女子でも違和感がない『薫』なのでそのままにしたとのこと。

 帰りがけにフリーサイズのトレーナーとジーンズ、寝巻きがわりのジャージそれとスニーカー(足だけはちゃんと測った・・・履いてて痛くなっちゃうからね)を買ってきてくれた。

 手提げ袋を見るとスポブラと小さいパンツも入ってる。

「え? かあさんこれ・・・」

「サイズわからないから小さめにしたけど、あんた女の子なんだからブラとショーツはちゃんと履かなきゃね〜」とうながされ渋々ブラとパンツ(ショーツか)を履く。

「これからサイズに合った制服とブラ、それにショーツと普段着買いに行くからトレーナーとジーンズ早く着ちゃって〜」

「え、オレも?」

「なに言ってるのよ。本人のサイズ測らなきゃ買えないじゃないの〜 それに『オレ』、はだ〜め」

「そ、そうだね」と駅前のショッピングセンターへ行くことになった。


「この子、女子化したんで・・・」と母が1階の総合受付で『TS娘コーナー』は6階、とフロアを案内してもらい、『TS娘』用だったけど初めて『女性もの』売り場に行くことになった。

「この子初めてなんで、上から下まで全部一揃えと、かわいい普段着。あと標準服とローファーもお願いしますね〜」と母は店員さんに伝え、オレには「じゃ、『かおるちゃん』あとは頑張って〜」とニヤニヤしている。

「か、『かおるちゃん』って・・・」

「だって、『薫くん』じゃ変でしょ〜? だから今日からは『かおるちゃん』、ね」

「・・・」


 店員さんに連れられて試着室でトレーナーとジーンズを脱いで採寸。

 測りながら「綺麗な目!他のTS娘さんと違うわね〜 それに綺麗な金髪で腰までのストレートロング! ここまで伸ばすの大変だったでしょ?」と店員さん。

「い、いえ、一晩で・・・」

「あ、そうだったわねぇ〜 あなた肌の色イエベ春で骨格はウェーブタイプだから華奢な感じね〜 でも可愛いからきっとモテるわよ〜 え〜っと身長は148cm、足のサイズは23cm。上からトップは77cmで、アンダーが62cmだから75のC、55cm、80cmねぇ」

 うっわ、小さいとは思っていたがいろいろと小さい! でも『きっとモテるわよ〜』ってオレまだ心は男のつもりなんだよなぁ・・・


「じゃ、ブラとショーツ持ってくるから選んでね〜」と肌の色に合うコーラルピンク、サーモンピンクとイエローグリーンだよ〜と、ブラとショーツを持ってくる。

「あ、じゃその黄色っぽいのを・・・」

 そこに「じゃ着替え分もあるから・・・3色ともお願いします」と着替えをこっそり見ていたらしい母。

「うわ、見てたの!」

「そうよ〜『娘』の初下着なんだから〜」え〜なんだかな〜


 あとは店員さんと母おすすめの普段着(白ブラウスと濃紺のジャンパースカート、茶色系のプリーツスカートと黒ニーソとかいろいろごっそりと)とローファー、制服を用意してもらって・・・標準服ってセーラー服なんだよな。

 これ明日から着て学校行くんだなぁ・・・ちょっと憂鬱。


***


 翌日、女子・・・『TS娘』として初登校。とりあえずホームルームに間に合うよう先に職員室に行き挨拶して学級担任の先生と一緒に教室へ。

 クラスCHATで『中島が朝おんしちゃ〜!』と情報は回ってたので覚悟はしてたけど、男共から一斉に「中島ぁ〜かわいいぞ〜!」「なにその赤目金髪可愛いじゃん!」「やらせろ〜」と歓声とかセクハラな声が飛び交う。

 女子は女子で「ちょっと男子ぃ〜今の何!?」「誰が言ったの!」「でも中島くん?さんってかわいい〜」とこちらも似たようなもんだった。

「は〜い、ホームルームはじめるよ。 じゃ、中島さん・・・」

 オレはとりあえず「え〜っと、『TS娘』になっちゃいました。中身は変わらないから『中島』で。あ、でも一応女の子なんで『かおる』でもどっちでよんでくれていいです。よろしく〜」

「お〜っす」

「は〜い」

 自分の席に着いても周りの視線が気になる・・・


 1時間目が終わると親友の中澤や、女子も含め普段接触がない生徒たちが物珍しさで集まり、キレイだの可愛いだの言ってくる。

 授業中、クラスの男共が元男のオレをチラチラ見ていたのに辟易していたんだけどまいったなぁ〜

 そのうち、親友をだしに中澤がとんでもないことを言い出す。

「なーなー、中島ぁ〜 親友のよしみでキスさせてくんない?」

「はぁ? おま、な、なに言ってんだよ!うっせーバーカ」

「そ、そうだよな〜」

「中澤くんサイッテー」

「そうだぞっ!!」


***


 その日は6時間目が終わるまで何事もなかったんだけど、それは放課後に起こった。

「中島ぁ〜」と中澤がいきなり抱きついてきて無理矢理オレの唇を奪いにきたときだった。体格差もあり抗えずキスされてしまった。それもディープなのを。

「うっぷ!てめーオレの初キスを!」と中澤を剥がして怒鳴ると反応がおかしい。

「うっぐぅぅぅ・・・」なんか痛みをこらえて冷や汗を流している。

「おい中澤!どうしたんだ?!」

 答えもなく、床に倒れ込むが様子がおかしい・・・おかしいというか髪が伸び始め身長が縮み、胸も膨らみ体つきが女の子っぽく・・・

 これって『後天性女子固定化症候群』の発症だ!オレのキス・・・『TS娘』化能力が発動?


 中澤の姿を見てオレの中で何かが弾けた・・・そこからは記憶が曖昧なんだけどオレの犠牲にならなかった子の話によると『中島さんが嬉々として男子生徒誰彼構わずキスをして「TS娘」にしていった』らしい。


 そして「チャンスは残り三回です」その声でオレは正気に戻った・・・

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そのキスで・・・「第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」参加作品 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

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