世界1可愛い魔法使い
天井 萌花 / お祭り自主企画開催中!
1 スキンケア
メイクとは魔法である。
CMや動画でそんな言葉をよく耳にする。
私もその通りだと思う。
メイクとは人をより輝かせる魔法で、コスメは心を躍らせる魔道具である。
だけど私は、どうしてもそんな魔法が好きになれない。
『メイクは誰でも可愛くしてくれる』
誰もが唱えるそんな綺麗事が、いつも私を苦しめる。
魔法は、お姫様にしかかからない。
魔法使いは、お姫様しか助けない。
美人で、優しくて、可愛くて、いい子で、誰もが憧れるヒロインしか、魔法を受けることは許されない。
御伽話に出てくるお姫様達は魔法なんてなくても最初から可愛くて。
シンデレラでさえも、環境に恵まれていないだけで、初めから可愛かった。
私のようなブスには可愛いの魔法はかからない。
「――――違うよ。」
そう言って突然、凄腕の魔法使いが目の前に現れたら。
こんな私にも素敵な魔法をかけてくれたら。
とても素敵で可愛い魔法使いに負けないくらい可愛くなれたら。
嬉しいと思ってしまうのは、浮かれてしまうのは、悪いことだろうか。
私のクラスには「地味子ちゃん」と呼ばれている子がいる。
黒縁の太い眼鏡をかけていて、声が小さくて、いつも怯えるように肩を丸めて座っている。
そんな話を大声で話している陽キャ達の考えることはよくわからない。
そんな地味子ちゃんこと伏見さんを、ショッピングモールのトイレで見つけてしまった。
伏見さんは化粧直し用の鏡を見て、銀色のビューラーで睫毛をいじっていた。
手とビューラーが邪魔で顔は見えないが、気合を入れてメイクしていることはわかる。
伏見さんでもメイクとかするんだなと少し意外に思いながら知らないフリをして個室に入った。
伏見さんのように渾名を付けられたりしているわけではないけど、私もかなり地味な部類だ。
いや、地味を通り越してブス。
奥二重で目は小さく涙袋もない、鼻は低い、肌は荒れていて顔が大きい。
顔が私にとって1番のコンプレックスで、伏見さんのようにじっと鏡を見つめることさえできない。メイクをしたこともない。
クラスには毎日メイクをして来ている人もちらほらいるが、伏見さんは化粧っ気がなくメイクしているところも見たことがないから、勝手に同類だと思っていた。
他のみんなも放課後や休日はメイクしているかな?
いつどこに行くのもスッピンなのは私だけなのかな?
モヤモヤと考えながら個室を出て手を洗う。
手洗い場と対面にある鏡の前にはまだ伏見さんがいて、メイクは終わったのか今度は髪をいじっていた。
顔をあげると、鏡越しに化粧直し用の鏡が見える。
鏡越しの鏡越しだが、今なら伏見さんの顔がよく見えた。
初めてちゃんと見る伏見さんの顔、眼鏡をかけていない伏見さんの顔。
ちらっと少しだけ、覗き見るつもりだった。
それなのに私は伏見さんから目が離せなくなった。
「ま、まりりちゃん!?」
ほぼ無意識のうちに口が開き、叫んでいた。
伏見さんはびくりと肩を跳ね上げ、丸くなった目でこっちを振り向いた。
私も振り向いて鏡越しじゃない伏見さんの顔を凝視する。
――そこには「地味子ちゃん」なんていなかった。
ぱっちりとした黒目がちな目に、それを縁取るばっちりカールされた長い睫毛。
小顔。整った眉。小さくて高い鼻。
あざとさと可愛さを演出している、ぷっくり膨れた涙袋。
シミ1つない内側から発光するようなうるつや肌、血色感のあるベビーピンクの頬と同色の厚い唇。
色素の薄いお人形のような亜麻色の髪に、細い滝のように流れる一筋の水色のメッシュ。
地味子なんて呼ばれているとは全く思えない、華のある可愛らしい少女の姿があった。
そして私はこの少女の顔を何回も見たことがある。
アカウントフォロワー8万人、超人気JKインフルエンサー『まりり』。
キラキラとした素敵なスイーツやコスメやファッションを日々発信している、みんなの憧れの的。
私が大好きな有名人の顔と、瓜二つだった。
まりりちゃん――ではなく伏見さんは慌てたように周囲を見回して……がしっと力強く私の肩を掴んだ。
まりりちゃんにそっくりな華やかな顔が間近に迫って、ついじっと見てしまう。
「……お願い、何でもするから誰にも言わないで!」
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