第4話 冬
急にゴーーーン!!と激しい音が鳴りウトウトしていた詩は目が覚める。激しく飛行機がユラユラと揺れるが次第に静かになり、窓の景色を見ると出発した空港からは見慣れない雪景色となっていた。
詩 (ようやく帰ってきた。3年振りだな)
飛行機の中から見える景色は滑走路以外、全て雪で埋め尽くされ銀色に輝いていた。小さな頃から見慣れた雪を懐かしむ詩。ようやく飛行機と通路が繋がり出ると寒さを感じながら空港内へと入り、預けた荷物が流れる位置で待つ。スマホを手に取ると丁度、メッセージが流れる。
―――【メッセージ内容】
柚葉 「おっすー!無事に着いた~?」
詩 「うん。今、荷物を受け取るとこだよ」
柚葉 「久しぶりに会ったら話したい事が沢山あるから聞いて!」
詩 「また付き合っている人で何かあったの~?柚葉に久しぶりに会うの楽しみにしているから!」
―――――――――――
詩は柚葉に返信を打つと丁度、荷物が流れるアナウンスが鳴りスマホを上着のポケットの中へとしまう。
荷物を無事に受け取ると実家に向う為に、電車へと乗り、ようやく一息つく。向かう最中に自販機で購入したお茶を取り出し飲んでいると電車は動き始め、銀色の景色が映る。
詩 (お父さんとお母さんに逢うの久しぶりだな)
電車の中で雪の景色を見ながら詩は心の中で呟く。
―――【1時間後】
久しぶりに実家に帰宅した詩は両親に出迎えられる。何年間も積もり積もった話しは外出をしても、晩御飯の時間になっても続いていた。ようやく話しが落ち着いた頃には就寝時間の0時までになり、おやすみの挨拶を交わすと、それぞれの部屋に向かい就寝した。
―――【翌日】
詩は見慣れた場所へと向かう。それは、産まれた時からずっと、ずーっと見慣れた並木道の景色。春には桜が満開になり、夏は緑に埋め尽くされ、秋には黄色になり、冬には…。
詩 「全て、葉が枯れている。冬はやっぱり裸の木だね」
上着のポケットに手を入れ、裸の並木道をゆっくりと歩く。並木道の真ん中で詩は立ち止まり1本の木を正面にしゃがむ。
詩 「春になったらまた上着が着れるね。ピンク色の!」
裸の木をまるで着せ替え人形のように話す詩は笑う。
「詩?」
声が聞こえ詩は立ち上がり振り向く。振り向い方角には見慣れた男性だった。詩は大地を見た途端、裸の木に目線を逸らす。
詩 「大地か。振った女に何か用?」
大地 「なんだよ、その言い方」
詩から視線を逸らすと、笑いながら大地も裸の木を正面にし立つ。
詩 「やられた事を素直に言っただけだよ」
大地 「あの時はしょうがなかっただろ…」
詩 「しょうがないで別れる程度なんだね」
大地 「俺だって別れたくなかったよ!」
詩 「じゃあ別れる必要なかったでしょ!?今更何言ってるの!?」
大地 「お互いに働いたばかりで詩も、俺も互いに一生懸命で愚痴なんて言える状況じゃなかっただろ!」
2人は感情的になり自然と互いに見つめ合う。表情は怒りに満ちていた。
詩 「言ってもいない事を何、勝手に決めつけているの?馬鹿じゃないの!」
大地 「詩は優しいから他人をすぐ優先するだろ!俺の為に耐える姿は見たくない!」
詩 「好きな人の為に耐えたって別に良いでしょ!」
大地 「良くない!俺が…嫌だなんだ…」
詩 「じゃあ、どうすればよかったの!」
詩は涙ながらに大地を見続ける。だが、大地は何とも返答出来ず素早いキャッチボールの早さのテンポで話していた会話がピタリと止まり互いに無言になる。1秒でも長く感じる時の中で2人は1分間、見合うと詩が先に目線を裸の木に逸らす。
詩 「ねぇ、私達って話す事が足らなかったよね」
詩に続き大地も裸の木を見続ける。
大地 「そうだな。お互いに自分の中で決まりきっていた事を考えて敢て口にしなかった」
お互いに沈黙が続く。詩は、はぁ…っとため息を吐くと大地に背中を向け赤くなった手を上着のポケットに入れる。
詩 「寒くなってきたし、帰るね。大地、バイバイ。もう会う事は無いだろうけど」
大地 「詩!待って!!」
大地に声を掛けられ詩は足が止まる。振り返ると大地の顔から既に言いたい事が分かる。そう、この表情の顔は見覚えがある。大地はそっと詩を抱きしめる。
詩 「今更抱きついて何の真似!?可哀想だから!?」
大地 「ごめん。詩、ごめん。勝手に決めつけて勝手に振ってごめん」
詩 「今更謝られて……」
大地 「側にいられなくて、ごめん。話しを聞いてあげられなくて…ごめん」
大地に抱きしめられながら詩は怒りの言葉を吐くが素直に何度も何度も謝罪されると怒りがスーッと引き涙がポロポロとこぼれ落ちる。
詩 「うっ…うっ…辛…かったよ…本当に1人で辛かった!!うわぁぁんーー!!」
詩は嗚咽をまじりながら1人で耐え抜いた辛い過去を思い出し、ひたすら、ひたすら泣き続けていた。道も家の屋根の上も、全て雪で銀色の世界で寒いはずなのに…はずなのに温かい。冬の季節にも関わらず、とても温かい冬の出来事だった。
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