【短編】春夏秋冬の記憶~日常の大切な思い出~

虹凛ラノレア

第1話 春


 葉が全て枯れ落ちた木から新たな蕾が咲きピンク色の花が風が吹く度にゆらゆらと踊る。長い通路の左右に縦、一直線に遠くまで桜の木が並び、まるでアーチのように少女は新品のランドセルを背負いながらくぐる。


 「わぁ~~!きれい~~!」


 小学校の入学式を迎えるであろう服装を纏い少女は太陽に照らされながら堂々と咲き誇る桜の木を輝いた瞳で見つめる。子供ながらに憧れていた小学生という名の新しいスタートの嬉しさの余りか道を大はしゃぎで走る。


 「うたー!そんなにはしゃいだら転ぶでしょ!」


 「これから入学式なのに服がボロボロだと周りの子から笑われるぞ?」


 詩はスーツを着こなす父親に笑われながら注意をされる事に引っかかり急に足が止まる。入学式の前に買ったばかりのランドセルを小学生になった気分で何度も背負っていた肩ベルトを手馴れたてつきで握ると、背後に立つ父親の方へと振り返る。


詩 「そ、そんなにどじっこじゃないもん!!」


 からかうように笑う父親の言葉を真に受けムキになる詩は感情豊かに喜怒哀楽の怒りを素直に表に出す。


 「早く学校に向わないと遅れちゃう!詩、パパ!走りましょう!」


 「よし!詩!走るぞ!」


詩 「はしるぞーー!!」


 詩は両親の手を片方ずつ繋ぎ、遠くまで続く道の両端に咲き誇る桜の木の間を家族3人で走り続けていた。


 小学校に辿り着くと両親と離れ、詩はこれから1年過ごす教室に一人で訪れる。教室の中は30人程度の人で溢れ周りを見渡しても知らない人ばかりだった。


詩 (ど、どうすれば良いのかな…)


 詩は見知らぬ教室の中に両親と離れ、急に怖くなり不安になる。


 「君、詩ちゃんだね?こっちにおいで」


 自分より遥かに大きい小学生に机の前まで手を繋がれ案内される。見知らぬ人だが一人で不安だった詩は手の温もりで気持ちが解れる。


 「そのまま、じっとしていてね」


 入学式の為にと、両親と一緒に購入したフリフリのスカートでジャケットを着ている服に大きな花のピン止めをつけられ服はより一層に豪華となり今日の晴れ舞台にピッタリだ。


 「よし!いいこだね!ここで座ってお友達と話していてね」


 詩は大きい小学生に頭を撫でられ緊張感が更に解れる。


詩 「あ、ありが…とう…」


 花のピン止めをつけてくれた小学生はニッコリと微笑むと自分と同じく入学式を迎える人の前まで廊下の方へと去っていく。詩は机の上に背負っていたランドセルを置くと、椅子を手前に引き座り、息をはぁっと吐き心を落ち着かせると後ろから声を掛けられる。


 「ねえ、あなた!さっき、桜の並木道で見かけた女の子!」


詩 「え…?」


 同じく入学式を迎える女の子に声を掛けられるが、顔に覚えのない詩は困惑する。


柚葉 「私、柚葉ゆずはって言うの!さっき桜の並木道で元気よくはしゃいでいた姿を見掛けたから、ついつい気になって!」


 詩は見られたことに恥ずかしく思い、顔を赤くする。


詩 「え、見ていたの?は、はずかしい…」


 顔を赤くする詩に柚葉は先程まで活発だった女の子が急に大人しくなりギャップ差に笑う。


柚葉 「あなた、案外、人見知りってやつ?」


 詩は顔を赤くしながらコクコクと頷く。正直な詩の態度に柚葉は気に入ったようで手を握る。


柚葉 「これから同じクラスメイトって奴だからお友達になってよ!よろしくね!」


詩 「う、うんっ!!よろしくね!私、詩って名前なんだ!柚葉ちゃん!」


柚葉 「同じ歳なんだから呼び捨てで良いよ!詩!よろしくね!」


詩 「え、えへへ!柚葉!よろしくね!」


 見知らぬ環境で不安だらけだった詩だが、早々に友達が出来た事に気持ちは舞い上がっていた。2人は互いに手を握り頬赤らめながら笑う。


 「みなさーん!席にお座り下さい!」


 教室内にいる全ての人が先生であろうと気付き、それぞれの席につく。


 「今日から1年間、皆さんの先生を務めます―――」


 先生の自己紹介が始まり話しは少々長くなる。ランドセルが到着した時点でもう、小学生なんだなぁ…と実感があったが、先生の発言で詩は更に実感が湧く。


 「それでは、隣の席の子と手を繋ぎ、廊下に並んでください!」


 全員が席から立ち上がり隣を見る。隣には見知らぬ男の子がいて詩は戸惑うが、先生の言う通りに手を繋ぎ廊下に並ぶ。


 「それでは、皆さん。会場に向いますよ~」


 一番、先頭に先生が立ち、全員が付いていく。会場の中へと入ると賑やかな音楽が流れ大人たちの盛大な拍手に包まれながら道を歩く。どの父親も張り切り、カメラで自分の子供達の晴れ舞台を映像で録画する。


 その後は、校長先生やらきっと偉いであろう…人の話が長々と続き再び席から立ち上がると拘束された身がようやく解放された気分で再び教室に戻る。


柚葉 「ねぇ、詩。先生たちの話、長かったね」


詩 「うん。眠たくなりそうだった!でも、小学生になるってこういう事だよね」


柚葉 「これから、お勉強しないといけないし、学校に行くのだって一人で…あっ!」


 柚葉は手をポンっと叩き詩の両肩を掴む。


柚葉 「詩!これから学校、一緒に行きましょうよ!」


詩 「柚葉と一緒!?いくいく!」


 2人の中に何か強い友情が芽生え始め微笑む。


 窓から太陽の陽射しが差し込む中、小学生となり、初めての友達が出来た春の出来事だった。

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