巨乳女騎士を添えて~計られてたよっ!


◇ ◇ ◇



「「はぁはぁはぁはぁはぁ」」

「な、何とか...逃げ切れたか?」


 回廊の壁に体を預けながらズルズルと床にへたり込む俺は、砦番の部屋を抜けだし、本丸へと侵入していた。


「こ、ここまでくれば安全か…やれば出来るものだな、案外」

「ゲへ、ゲヘヘ…ゲーーーーー!! へっへっへ!!!! 四天王がなんぼのもんじゃいッ!! いつもいつもエラっそうに上から物を言いやがってよォ! ばーかばーか! 俺が! この俺が! 倒してやったあ! ハハッ!!」

「…私もいたけどな、というか倒してはないけどな、めちゃくちゃ走って逃げて来たわけだし」


 野暮なツッコミをする乳山。考えても見ろ、四天王だぞ四天王、その上は魔王様しか居ないんだ、そいつを出し抜いたってのは、俺たちは倒したっつっても過言じゃない、そういうと「うむ…」と腑に落ちなそうな顔をしていたが、少し経ち、「うむ、そうだな!」とこちらの意図を察したのか、乳山もやはり興奮していたのか、月の光がやさしく差し込む回廊で、しばらく笑いあった。


「この勢いのまま逆側の砦まで一直線! クソッタレ魔王城ともおさらばしようじゃねーかッ!!」

「ああ! 全くその通りだ!! いくぞおーーーー! エイエイッ!!」

「よし、ついてこい」

「おおーー……ってあれ、こういうのコッチでは無いのか…」



 ◇ ◇ ◇



「あ、あれ?さっきまで...?何してたんだっけ?」


 砦番の部屋の中、ヴォックスはポツンと一人立ち尽くしていた。

 オンギャ!...オンギャ!と、グロテスクな見た目の手のひらサイズほどの機械と肉塊が合体したような何かが、赤ん坊のような鳴き声を発する。

 ヴォックスは腰のベルトに取り付けられていたそれを、ヒョイとベルトから外し、口のような部分に指を突っ込むと吐き戻すような声を上げ、さらにそこから女性の声が聞こえる。


「は、はいっ! ヴォックスです!」

「…。」

「あ、あのー? どちら様でしょうか…?」

「ん? これはもしかしなくても、私のこと忘れてる感じでしょうか?」

「あっ! シュガーちゃんっ! 忘れるわけないよ~!! 声聞いただけで分かるもんっ!」


 その声はシュガーと呼ばれる魔族のようで、グロテスクな見た目の機会は通信機のようだった、シュガーの声からは幼い印象を感じるが、その中には少量の艶っぽさと、しっかりした印象を含んだハキハキした口調を併せ持つ、独特な声音が砦番の部屋に響く。


「いえ先輩、先輩は忘れています」

「だから忘れてないよお、あ、今日も仕事終わったら一緒にお風呂行こうね! 体ちゃーんと洗ってあげる!」

「せ、先輩とお風呂! それは是非ッ、じゃなくて! 私に通信を入れるように指示したことを忘れています!」

「はへ? そうだったっけ?」

「はい、まさか本当にこんなことになるなんて…先輩の力をもってしても、その下っ端に敵わないなんて」

「どしたのシュガーちゃん? 一体なんのこと?」

「いいですか、先輩は三十三分と四十秒前、その砦番の部屋で人間と、ジンという魔族に会っています」

「え!? ジ、ジン君?」

「はい、そのジンという下っ端と交流があった先輩はヤツの能力に関しても詳しいようでした…そしてその能力の性質上、戦闘を行った際、記憶障害になることを予期した先輩は三十分後この通信機に連絡を入れるように指示されたんです」

「あー、なるほどジン君か…うん理解したよ、ありがとう」

「……。」

「じゃあ、今からそっちに戻るよ、ん? どうしたの?」

「先輩、先輩は本当にその下っ端にやられたんですか? 先輩がやられるなんて、私…あれですよね!? ものすごく手加減してたとか! 人間がものすごい強かったとか! そんな感じですよねっ? ねっ?」

「んー、確かに手加減はものすごいしちゃうかなー」

「そうですよね! じゃなかったら先輩が負けるけ――」

「フフッ、まあ、だから勝てたことないんだよねー」

「…………。」

「シュ、シュガーちゃん? ……お、おこった?」

「なんてお優しいッ!!!! 仲間には慈愛の心を持って接する、例えそれが我らを裏切ったクズ、だとしてもッ!! このシュガー感服いたしました!!」

「あはは、そっか、良かった、じゃあまた後でねシュガーちゃん」

「はい!」


「…………んんーー! はあ、さあーて、今から追いかけて追いつくかな?」






「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!」


 俺たちはヴォックスとの一戦を経て本丸へと侵入し、今まで隠し通路を駆使し本丸から逆側の砦へ行くための門近くまで来ていたのだが。


「出てる! ナニが見えてしまっている!!」

「うぉおおお! みっ見るな! こっち見るなよ!!」

「何がしたいんだ! お前は!!」


 本丸の中庭に出て立ち小便がてら、中庭から門の様子を見に行ったところ、その前には複数の兵士たちで固められており、気が付くと、回廊、扉、小部屋の至る所にまで、厳重に兵士が置かれ、まさに袋のネズミといったところだった。

 いったい、何処からバレた!? 俺たちの動きを知るのは前の砦の中の腐れ兵士どもと、ヴォックス、いやヴォックスには対処をしたはずだ、記憶の捕食、俺の能力を使いアイツには俺たちの動きを悟られないようにしたはずだ、なのに何故こんなにも兵士が集められている!? 砦の門が開き、次々と兵がこの本丸へ入ってくる。

 慌てて乳山の待つ中庭の隅、隠し通路のある一角へと戻ると、俺は一物をしまうのを忘れていたらしく、急いで直し、乳山にその絶望的な状況を伝える。


「出口は複数の兵士に固められた、どんどんと追加の援軍も入ってくる、いくら広大な魔王城の中だっつってもココが見つかるのはもう時間の問題だ…もう無理おしまいだ、地獄ぅ…」

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