『ヴァンパイヤは第九が苦手』

やましん(テンパー)

『ヴァンパイヤは第九が苦手』 上


 『これは、フィクションです。』





 ぼくが、ヴァンパイヤ一家にやっかいになったには、ポジティブな理由がある。


 彼らは、この商店街で手広く事業を営んでいる。

 

 スーパー、マンション、不動産など。


 しかし、一時期経営不振に陥ったとき、彼らを救ったのが、ぼくの父だったのである。


 父亡きあと、実家の事業は兄がついだか、ぼくは就職に失敗し、仲が良くない兄からは支援を断られた。一時はすむ場所もなくなった。


 しかし、ぼくは、伝来の家宝『太陽丸』を持っていた。丸い大砲の弾みたいで、中に何が入っているのか、どんな力かあるのかは、良くはわからないが、ヴァンパイヤには、かなりの有害物質らしい。


 ただし、お金がかかるから、内部は調べてもいない。それは、ある秘密の場所に保管していた。


 兄は、たくさん財産があるくせに、さらにこれを狙っていたから、ぼくを生かさず殺さずにしていた。それには、だから、理由があるわけだ。


 兄とヴァンパイヤ一家には、ある時、密約が交わされた。


 兄は、一家を見逃す代わりに、ぼくのめんどうを見る。ただし、兄の同意無しには、餌にはしない。 


 ぼくを、マンションの一室に住まわせて、見えない場所でのアルバイトなどをさせてくれているのだ。ただし、あまり、お給料は良くない。地位も低いが、無いよりましだ。


 めんどうをみるとは、監視することでもあった。


 で、その嫌な兄は、ヴァンパイヤハンターのライセンスを取っている。かなり、強力な、ハンターの部類らしい。


 まあ、エディプスコンプレックスみたいなものである。


 母は大人しい人で、兄には逆らわない。


 ぼくが会いたいといえば、ちょと、秘密めいた場末の地下にある喫茶店で、たまに会うだけだ。


 マスターは、母と何らかの関係性はあるらしいが、さっぱり分からない。


 ヴァンパイヤ一家の父親と母親は、まあ、映画のア◎◎◎ファミリーみたいなものである。どちらも、ヴァンパイヤだ。


 父親は、当たりは柔らかく寛容だが、情け容赦もない。ハリウッドスターみたいでもある。


 母親は、極めて扇情的で、美しく、エキセントリックである。ぼくを誘惑しに来たりもするが、たぶん冗談で、一線は越えない。公認会計士の資格を持つ。

 

 しかし、2人とも社交性に富み、家族全員べつに、太陽が怖いわけでもない。


 食べ物に、好き嫌いはない。


 彼らの出身一族は、社会に大きな蓄積があるらしく、さまざまな分野で活躍しているらしい。一族に食糧の供給もしているみたいである。


 子供は三人。

 

 長女、長男、次女。


 次女の妙子さんは、謎の存在である。

 

 さっぱり、性格が分からない。めったに話さないが、大学では、物理学をやっている優等生でもある。見た目は美しいが、つかみどころはない。怒ると、すごく、怖いらしい。見たことはないが。


 長男は、近くに来るのもやな奴だが、我が兄よりは、まだましだ。


 スポーツマンタイプで、ラグビーをやる。足が早いし、タックルは強いらしい。


 やや、暴力的なのが短所だが、規範は守るし、義理堅いところがあった。



 長女のかえでさんは、理想的な、良いヴァンパイヤである。


 優しいし、面倒見もよい。


 家庭の事実上のキリモミをしている。


 ぼくだけに、特別料理もしてくれるが(つまり、普通の料理だ。)、甘えたくないから、あまり、頼まず、ぼくはスーパーの安い弁当や飲み物ですませるのが普通であった。ただし、かえでさんが、是非とも、と言ってきたら、従うことにしている。


 ぼくにも、肩入れしてくれる唯一の存在だったから。



 しかし、彼らには、大の苦手があった。


 ベートーヴェンさまの『交響曲第9番ニ短調作品125』。


 どうやら、全曲聴くと、塵になって、滅びてしまうらしい。


 ぼくは、第4楽章のテナーのパートはもちろん、他の全パート、ソロも合唱も、暗記していて、自在に歌うことができる。ただし、低いところは、声がでないが。


 全曲からしたら、効き目は小さいが、目一杯歌うと、彼らを一時は卒倒させるくらいは可能である。


 しかし、余程のことがない限りはやらないし、使わない。最後の切り札である。



 つまり、みな、あいみたがえ。なのであった。


 

       👫👪💑



 


 

 


 


 

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