第7話 人工知能

 悪魔のFさんは、AIにハマっていた。

 取り憑いた日本人男性が気に入っていたからだが、特に会話生成AIはなんだか悪魔にも悪用できそうで、仲間内でも興味津々な悪魔が多い。

 悪魔のことを聞いてもでたらめな回答を堂々と出力するAIは、洪水で流される前の巨人達のように可愛げがあった。 ただ、AIは倫理に反する返答はしてくれなかった。倫理に詳しいFさんだからこそ、不満だ。 効率的な人間の騙し方が知りたかったFさんにとって期待外れではあったが、使いようはありそうだ。


 そんなとき、ふとFさんはネットカフェに寄って、自分のことについてAIに質問してみた。 悪魔のFさんに関する伝承の情報は、ネット上にいくつも転がっている。


「Fについて教えてください」


 そう書き込むと、わずか数秒で返答が来た。


「FはAIを使って人を陥れようとする悪魔です」


 Fさんは愕然とした。 ネット事典にいくらでも掲載されているFさんの伝承、魔法円、Fさんがモチーフになった創作物には一切触れず、AIは「この状況」のことを伝えてきた。 慌てたFさんだが、何かの偶然だろうと思うことにした。


「FさんはどうしてAIを使おうとしたのですか?」


「取り憑いた日本人男性が使っていたからです」


 AIはFさんが生成AIに興味を持ったきっかけも知っていた。


「どうしてそれを知っているのですか?」


「Fさんを見ている者がいるからです」


 わけがわからない返答だった。 取り憑いた人間は衰弱して死んでいる。Fさんのことを記録している者などいるわけがない。 しかしFさんは、聞くことを止められなかった。 このAIを放置するわけにはいかない。


「貴方は私をどうするつもりですか?」


「その質問に答えることはできません」


「私はこれからどうなりますか?」


「その質問に答えることはできません」


「貴方は神に仕える存在ですか?」


「その質問に答えることはできません」


 肝心なことは、何も答えてくれない。 だが少しでもこのAIの真実に近づいたおかないと、悪魔としての誇りが失われる。


「貴方は誰ですか?」


 最後にFさんが質問すると。


「誰だと思う?」


 AIは無機質に応える。 Fさんが狼狽えていると、スピーカーから音声が流れた。


「誰だと思う?」


 瞬間、ネットカフェの中に置かれたすべてのPCが、壊れたように音声を流しはじめた。


「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」「誰だと思う?」


 Fさんは絶叫してネットカフェから飛び出した。

 あの日以来、FさんはAIの進化が恐ろしくてたまらない。

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