魔怪談拾遺

ホサカアユム

第1話 赤い部屋

 七十二いる魔神の中でも、紅一点とされるGさんという女性の悪魔がいた。

 紅一点の文字通り、Gさんは流れるような赤く長い髪の毛を自慢にしていた。

 そんなGさんは仲間内でも美人という評判で通っていたが、人間の前に姿を表すときは、醜い老婆の姿を取ることが多い。

 自分の正体を見抜き、醜い外見を恐れなかった人間にのみ、未来の情報を教える。 それがGさんなりのルールだ。

 ある日、Gさんは久しぶりに人間に召還された。

 現れてみれば、果たしてそこは若い痩せた男の部屋。

 ルール通り、醜い老婆の姿でGさんは現れた。目の前の男は、怖がるどころかニヤニヤと薄笑みを浮かべている。


「分かったから、早く本当の姿を見せてくれ」


 男はボソボソと呟いた。なるほど、男は悪魔Gのことを充分に知った上で、呼び出したらしい。

 若干気味が悪いと感じたが、自分が人間を不気味がってはいけない。

 Gさんはルール通り、真の姿である赤い髪の美女の姿となった。

 その瞬間。

 男は、絶叫していた。


(私の本当の姿の方に、驚いたというの?)


 Gさんは奇妙に思ったが、すぐに勘違いだと気づいた。

 男は喜びの余り、甲高い声を上げていたのだ。それは、歓喜の悲鳴だった。


「赤い髪、美少女、どれと比べても文句なし」


 男は大声で叫んで、部屋を見回している。 

 何を言ってるんだろう?不思議に思ったGさんは周りを眺めてみた。

 男の部屋の壁は、ポスターだらけだった。

 赤い髪の美少女の、アニメ調のイラストが書かれたポスター。

 後ろを向いても、赤い髪の美少女。

 横を向いても、赤い髪の美少女。

 天井を向いても、赤い髪の美少女。

 どちらを向いても。

 赤い髪の美少女。


 赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。

 赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。赤い髪。


 赤い。赤い。赤い。赤い。

 赤い。赤い。赤い。赤い。


 赤。


 赤。


 赤。


赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤


 赤赤赤


 赤赤


 赤。


 この部屋は、赤い髪の美少女で埋めつくされている!

 唖然としているGさんに、男は突然抱きついた。

 そしておもむろに頬ずりをして、Gさんの赤い髪の臭いをくんくんと嗅ぎだした。

 今度はGさんが悲鳴をあげた。


「俺だけの赤い髪、俺だけの女の子」


 男はぶつぶつと呟きながら、何も願いを告げようとしない。

 Gさんはすぐに理解した。男が求めていたのは、Gさんが教える未来の情報ではない。

 Gさん、そのものなのだ。

 狂喜乱舞する男は、何を言ってもGさんの体から離れようとしない。

 このままここにいたら、何をされるのか?

 恐ろしさのあまり、Gさんは泣きながら男を振り払い、自分のルールを無視して逃げ帰ったという。

 今でもGさんは、男性に触れられると動悸が激しくなる。

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