本好き令嬢の道選び ~自分で決めるけど、幸も不幸もあなた次第です~

甘い秋空

一話完結 私に自由はありませんので、両親が政略結婚を考えて、進路を決めると思います



「この、クロガネ君って、どんな令息なんでしょう?」


 私はギンチヨ、中等部3年生の令嬢です。

 銀髪で、読書が趣味です。


 学園の少し離れた図書館で、本を借りて読むのが大好きなんです。


「また、クロガネ君の名前が」


 私の借りた本の貸し出しカードに、また、クロガネという名前がありました。



 その後、貸し出しカードを、注意して見るようにしたら、私の借りた本に、クロガネという名前が、いつも書いてあります。



    ◇



「ねぇねぇ、卒業後、どうする?」


 3年生の教室で、友人の令嬢が話しかけてきました。


「ギンチヨは侯爵家なので、高等部へ行くのでしょ? 文官や、侍女の道も選び放題よね?」


「私に自由はありませんので、両親が政略結婚を考えて、進路を決めると思います」


 ため息一つ、窓の外に視線を移します。



    ◇



「あら、猫ちゃん、迷子?」


 図書館に黒い子猫が迷い込んだようです。

 追いかけて行くと、図書館の庭に出ました。


 おじさんが、庭木の手入れをしています。

 子猫は、ふわっと消えました。



 ガゼボで、黒髪の令息が、本を読んでいます。


 近づくと、同級生の第二王子でした。王族の彼とは、周りに取り巻きの令嬢が壁となっているため、これまで話をしたことがありません。


 彼の黒色の瞳と目が合ったので、カーテシーをとります。


「貴女は、同級生のギンチヨ嬢ですね。このような場所に、どうしました?」


「はい、子猫を追いかけてきたのです。王族用のエリアとは知りませんでした。申し訳ありません」


 このガゼボは、王族の許可が無ければ入れないエリアに設置されたものです。うかつでした。


「僕の権限で、ギンチヨ嬢に、王族エリアに入ることを許可します。これで大丈夫ですよ」


 彼は、微笑んでくれました。



「クロガネ坊ちゃん、庭木の手入れが終わりました」


 おじさんが、第二王子に声をかけました。


 彼の名前は“クロガネ”だったのですね。え!貸し出しカードのクロガネ君は、第二王子でしたか。


 でも、おじさんが、王族の名前を呼んでは、不敬になります!


「王族を名前で呼んでは……」


 あわてて声を出してしまいました。


「いつも、ありがとう、おっちゃん」


 え? 二人は知り合いなの? 普段はクールなのに、無邪気な笑顔です。



「ギンチヨ嬢も、私を“クロガネ”と呼ぶことを許可します。というか、ぜひ、クロガネと呼んで下さい」


「はい、クロガネ様」

 緊張します。


「どうか、こちらの椅子に座って下さい。貴女とは、以前から、話をしてみたいと思っていました」


 彼から、横に座るよう促されました。


 ベンチ椅子の、彼から、一人分を離して座ります。



「あら、子猫が」

 私と彼の間に、さっきの子猫が現れました。


「貴女は、聖獣が見えるようですね」

 微笑む彼は、天使のようです。


「クロガネ様も、この黒い子猫が、見えるのですか」


「この子猫は、僕を護る聖獣です。仲良くしてやって下さい」


 彼は、子猫を撫でました。




「僕は、交換留学生として隣国の学園に進みます」


 空を見上げ、話してくれました。


「将来は、国王となる兄の補佐役になる。そのために、今から、多くの知識を吸収しておきたい」


 視線を、本に落としました。


「私は、自分の政略結婚のことだけを、考えていました、恥ずかしいです」


 うつむきます。


 将来を見据えている彼に比べ、私は何も考えていないも同然です。


 その後、彼は、親身になって、私の話を聞いてくれました。




 子猫が、私にすり寄って来ました。


「あ、私も、子猫を撫でることが出来ました」


 思わず、笑顔になります。


「ギンチヨ嬢には、笑顔が似合います」


 彼の言葉に、顔が火照ってしまいます。




    ◇




 それからは、ガゼボで本の話をする仲になりました。



 クロガネ様は、中等部を卒業後、1年間の交換留学生として隣国の学園へ行きます。


 では、私の進む道は? 将来、私は何をしたいのか、考えました。



 耳を澄ますと、庭の草木の優しいざわめきが、私たち二人を包み込んでいるのが、聞こえます。



 読書は、自分の世界が広がるようで、とても楽しいです。


 でも……自分で物語をつむぐのは、もっと楽しい気がします。



「私は、小説を書きたいです」

 クロガネ様に、打ち明けました。


「素晴らしいですね」

「それなら、高等部に進んで、時間を作って、小説を書き貯めるのがいいですね」


 彼から、褒められ、アドバイスまで頂きました。




「僕も、将来を考えました、聞いて頂けますか?」

 クロガネ君は、珍しく緊張しています。



「ギンチヨ嬢、高等部を卒業したら、結婚して下さい」


 草木のざわめきが、止みました。



 私は、小さく、うなずきます。


「ニャー」子猫が笑っています。




    ◇




 翌日、国王から親書が届きました。


「侯爵家のギンチヨ嬢を、交換留学生に任命する」


「我が国の代表として、第二王子と共に隣国の学園に進み、勉学にはげみ、交流を深めること」


「そして、帰国後は、その経験を書籍として、まとめてほしい」




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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本好き令嬢の道選び ~自分で決めるけど、幸も不幸もあなた次第です~ 甘い秋空 @Amai-Akisora

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