第44話

「純平、さん……?」


 明け方、ようやく唯志が目を覚ました。


「大丈夫か?」

「うん、平気。あいつは?」

「寝てる」

「そう」


 ベッドに起きあがり、唯志は締め上げられた首をそっとなぞる。


「あいつ、僕のこと殺そうとしたんだ、きっと」


 ちがうよ、唯志。


 言おうとして、その瞳にゾッとした。

 殺意を露わにした瞳。


「純平さんも、見たでしょ?」


 軽くうなずく。

 確かに、あの人は唯志に手をかけていた。しかし、あの人が唯志の中に見ていた人は……


「そういえば純平さん、あいつと何話してたの?」

「えっ?」

「弟がどうとか、言ってたよね、僕が行った時」

「あ……ああ」


 頭の中が渦を巻いていた。

 あの人のこと。母さんのこと。父さんのこと。唯志のこと。知りたいこと。知らなければならないこと。隠すこと。隠さなければならないこと。

 時間がない。

 急がなければ、唯志はあの人を殺してしまう。

 唯志に全てを話す?

 それは出来ない。

 そうすれば、おそらく唯志の精神は、母さんの様に……あの人の様に壊れてしまうだろう。

 公一に話してみる?

 そんなことできるはずがない。

 じゃあ、あとは……


「純平さん?」

「ああ、あの時はな」


 自分でやるしかない。


「公一のことを話していたんだ。公一は、俺の弟みたいなもんだってね」

「みたいなもの、ね」


 唯志が勝ち誇ったように微笑む。


「そうだよ。僕が純平さんの本当の弟なんだから」

「ああ」


 得意げな唯志の顔を見ながら、俺は思った。


(こいつだけでも、守らなければ……)

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